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CHAPTER 1
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クリスタル•サーディア
CHAPTER 1
時は1995年、所はとある地球の日本のような国。
株式会社 星岬技術研究所は、埼玉県のほぼ中央(西部台地)に位置する営利目的研究機関で、主に義手・義足・装具の研究開発を中心に着実に業績を上げると同時に、それらの装着者のメンタル面なども研究してケア事業に活かして成果を上げている。また、近年は再生医療分野でも躍進中の企業として知られている。
星岬開は同研究所所長兼CEO、30代で起業し、現在50歳。まだまだ成長が見込める日本の医療技術の一翼を担う企業人として注目を集めている。
辺りを闇が蔽いつくしてまだ一時間と経っていない筈だが、見渡す景色は森・畑・林な感じで常緑樹が視界を塞ぐと、暗いことこの上ない。星岬と紀伊、二人が林を抜けると敷設されて間もない奇麗な道路に出た。ガードレールが設置されているが、歩道は見当たらない。歩行者の利用をこの道路は想定していないのだろう。申し訳程度にしか街灯も闇を照らしておらず、散歩コースにはお勧めできない。
そこを二人の男が歩いている。程なくしてゲートが見えてくると、二人に気付いたガードマンが近づいてくる。
「そこの二人! 止まれ!」
ガードマンは良く通る声で警告した。
明るくライトアップされたゲート受付から小走りで近づいて来るガードマンの表情は灯りを背にして暗く、読めない。仕事熱心な事である。二人は歩を止め、思うところあって星岬が一歩前に出る。
「勤めご苦労。」
星岬は努めて平静を装ってガードマンに声を掛ける。
「…所長? 所長でしたか!」
ガードマンの緊張感が和らいだのが分かる。だが次の瞬間、星岬の後ろに立つ大男を見て少なからず驚いて不安を感じていることが空気を介して伝わってくる。星岬はそれとなく邦哉の表情を見て、やはり驚いた。微笑んでいるだと!?
「あんたの葬儀を今朝…」
言いかけて、ガードマンは急に静かになった。どうやら記憶に混乱が生じている様子だ。
その微笑みはとても無邪気で見るものを魅了するものであった。だが、星岬は直感した。これこそがこの男、紀伊邦哉の術だか能力だかの一端であろうと。「笑って誤魔化す」というが、彼のソレは悪魔じみていて、高々笑顔ひとつで記憶操作を高次元で実現しているとしたら?自分の直感が確信に近かったとしたなら、この男は本物の悪魔かもしれない。
などと思考が一人旅をしていたようで、星岬は邦哉に呼び戻された。
「大丈夫か? 所長。」
いかん、いかん。私としたことが、まるで無防備だ。なんだかんだと私はこの男に心を開いてしまっている。
「開発主任、私はこれで。」
そう言って敬礼すると、ガードマンは小走りでゲート受付に戻って行った。
あの男は今、記憶を改ざんされたのだ。邦哉を役職で呼んだ事でそれと分かる。
今回、邦哉が転生するにあたって、二人は打ち合わせをしていたのだ。
~紀伊邦哉は以前からココに勤めていて、自分と面識もあってその他諸々全てOKな人物~
これからしばらくの間、会うヒトごとにこういう状況が続く。
昨日までの邦哉は火葬されてもういない。今ここにいるのは少し若返った、これからまた一緒にやっていく邦哉なのだ。
走り去るガードマンの背中を見送りながら、星岬は思うのだった。
・・・・・・・と、肩を指先でつつかれている?
「ん?」
「星岬! これ以上腹が減ってはお前をかじってしまいそうだっ!」
邦哉が瞳の奥を青白くギラつかせながらグッと迫ってくる。
「待て!邦哉!悪かった!ダンデライオンでおごるから!なっ!?」
星岬技術研究所本部棟20階展望レストラン「ダンデライオン」、味には賛否両論有り。
「・・・・・・」
「なぜ黙る?」
邦哉の苦笑いの意味に気付かない星岬であった。
翌朝
星岬技術研究所南研究棟2階 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)
早朝の研究棟は、それはもう静かなもので、窓の向こう側でスズメが忙しそうにさえずっているのが聞こえてくる。
邦哉は応接セットに横になってダラダラしていた。
このひと時のために生きている、とさえ思うのであった。
昨夜はこれまでの転生の中でも一番楽だったのではないだろうか?邦哉は思い返していた。
なにせ今後も付き合っていくであろう関係者の面々、その殆どが邦哉を偲ぶ会と称してダンデライオンに流れて来ていたのだ。死んだ奴が何故ここにいる?最初はパニックに陥りかけたが、その場の全員の注目が自分に、それも勝手に集まるのだ。星岬のおごりで晩飯だと呑気にしていられなかったが、手間をかけず済むことならソレにこしたことはない。
自分でも、どの様な仕組みでみんなの記憶を変えているのか、未だに全容を解明するには至っていない。
さて、開発主任室の一番奥の窓辺にいかにもデカくて配線だらけのPCがある。
タイマー設定されていたのか、起動し始めた。
モニターが点く。「OS SAHDEAR ver1.0」と表示がでて、システムがスタートする。
可愛らしくディフォルメされた黒髪の女性のアイコン(首のみ)がゆっくり左右に揺れている。
アイコンがピッと正面を向くとにっこり微笑み画面の角に移動した。正常に立ち上がったようだ。
アイコンは、時々フレームアウトしてはランダムに出現位置を変えてフレームインしてきた。
その時の表情もさまざまだ。不意にモニターの時計表示に注目すると、いくつかのウインドウを開け閉めした。室内でいくつかの機器が起動し始めた。
応接セットのソファーでまどろんでいた邦哉は、テレビが朝6時を告げるのと同時にソファーから起き上がると、ゆらゆらと湯気が立ち昇る緑茶が満たされたマグカップをサーバーから優雅な動作で手に取り、PCに向かった。
「おはよう、サーディア」
バリトンの声音で邦哉が話しかけたのは、先程起動したPCだ。サーディアと呼ばれたソレが挨拶を返してくる。
どこにでもあるグレーの事務机から椅子を引いて腰を下ろすと緑茶で咽喉を潤した。
「それでサーディア、作業の進み具合は?」
「完了しています」
「結構!」
邦哉はバネの硬い椅子の背もたれに身体を預けた。
星岬技術研究所本部棟22階 研究所所長室(兼星岬開自室)
星岬は壁一面のモニター画面の中で南研究棟、特に内部を映すモニターを凝視していた。
CHAPTER 1
時は1995年、所はとある地球の日本のような国。
株式会社 星岬技術研究所は、埼玉県のほぼ中央(西部台地)に位置する営利目的研究機関で、主に義手・義足・装具の研究開発を中心に着実に業績を上げると同時に、それらの装着者のメンタル面なども研究してケア事業に活かして成果を上げている。また、近年は再生医療分野でも躍進中の企業として知られている。
星岬開は同研究所所長兼CEO、30代で起業し、現在50歳。まだまだ成長が見込める日本の医療技術の一翼を担う企業人として注目を集めている。
辺りを闇が蔽いつくしてまだ一時間と経っていない筈だが、見渡す景色は森・畑・林な感じで常緑樹が視界を塞ぐと、暗いことこの上ない。星岬と紀伊、二人が林を抜けると敷設されて間もない奇麗な道路に出た。ガードレールが設置されているが、歩道は見当たらない。歩行者の利用をこの道路は想定していないのだろう。申し訳程度にしか街灯も闇を照らしておらず、散歩コースにはお勧めできない。
そこを二人の男が歩いている。程なくしてゲートが見えてくると、二人に気付いたガードマンが近づいてくる。
「そこの二人! 止まれ!」
ガードマンは良く通る声で警告した。
明るくライトアップされたゲート受付から小走りで近づいて来るガードマンの表情は灯りを背にして暗く、読めない。仕事熱心な事である。二人は歩を止め、思うところあって星岬が一歩前に出る。
「勤めご苦労。」
星岬は努めて平静を装ってガードマンに声を掛ける。
「…所長? 所長でしたか!」
ガードマンの緊張感が和らいだのが分かる。だが次の瞬間、星岬の後ろに立つ大男を見て少なからず驚いて不安を感じていることが空気を介して伝わってくる。星岬はそれとなく邦哉の表情を見て、やはり驚いた。微笑んでいるだと!?
「あんたの葬儀を今朝…」
言いかけて、ガードマンは急に静かになった。どうやら記憶に混乱が生じている様子だ。
その微笑みはとても無邪気で見るものを魅了するものであった。だが、星岬は直感した。これこそがこの男、紀伊邦哉の術だか能力だかの一端であろうと。「笑って誤魔化す」というが、彼のソレは悪魔じみていて、高々笑顔ひとつで記憶操作を高次元で実現しているとしたら?自分の直感が確信に近かったとしたなら、この男は本物の悪魔かもしれない。
などと思考が一人旅をしていたようで、星岬は邦哉に呼び戻された。
「大丈夫か? 所長。」
いかん、いかん。私としたことが、まるで無防備だ。なんだかんだと私はこの男に心を開いてしまっている。
「開発主任、私はこれで。」
そう言って敬礼すると、ガードマンは小走りでゲート受付に戻って行った。
あの男は今、記憶を改ざんされたのだ。邦哉を役職で呼んだ事でそれと分かる。
今回、邦哉が転生するにあたって、二人は打ち合わせをしていたのだ。
~紀伊邦哉は以前からココに勤めていて、自分と面識もあってその他諸々全てOKな人物~
これからしばらくの間、会うヒトごとにこういう状況が続く。
昨日までの邦哉は火葬されてもういない。今ここにいるのは少し若返った、これからまた一緒にやっていく邦哉なのだ。
走り去るガードマンの背中を見送りながら、星岬は思うのだった。
・・・・・・・と、肩を指先でつつかれている?
「ん?」
「星岬! これ以上腹が減ってはお前をかじってしまいそうだっ!」
邦哉が瞳の奥を青白くギラつかせながらグッと迫ってくる。
「待て!邦哉!悪かった!ダンデライオンでおごるから!なっ!?」
星岬技術研究所本部棟20階展望レストラン「ダンデライオン」、味には賛否両論有り。
「・・・・・・」
「なぜ黙る?」
邦哉の苦笑いの意味に気付かない星岬であった。
翌朝
星岬技術研究所南研究棟2階 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)
早朝の研究棟は、それはもう静かなもので、窓の向こう側でスズメが忙しそうにさえずっているのが聞こえてくる。
邦哉は応接セットに横になってダラダラしていた。
このひと時のために生きている、とさえ思うのであった。
昨夜はこれまでの転生の中でも一番楽だったのではないだろうか?邦哉は思い返していた。
なにせ今後も付き合っていくであろう関係者の面々、その殆どが邦哉を偲ぶ会と称してダンデライオンに流れて来ていたのだ。死んだ奴が何故ここにいる?最初はパニックに陥りかけたが、その場の全員の注目が自分に、それも勝手に集まるのだ。星岬のおごりで晩飯だと呑気にしていられなかったが、手間をかけず済むことならソレにこしたことはない。
自分でも、どの様な仕組みでみんなの記憶を変えているのか、未だに全容を解明するには至っていない。
さて、開発主任室の一番奥の窓辺にいかにもデカくて配線だらけのPCがある。
タイマー設定されていたのか、起動し始めた。
モニターが点く。「OS SAHDEAR ver1.0」と表示がでて、システムがスタートする。
可愛らしくディフォルメされた黒髪の女性のアイコン(首のみ)がゆっくり左右に揺れている。
アイコンがピッと正面を向くとにっこり微笑み画面の角に移動した。正常に立ち上がったようだ。
アイコンは、時々フレームアウトしてはランダムに出現位置を変えてフレームインしてきた。
その時の表情もさまざまだ。不意にモニターの時計表示に注目すると、いくつかのウインドウを開け閉めした。室内でいくつかの機器が起動し始めた。
応接セットのソファーでまどろんでいた邦哉は、テレビが朝6時を告げるのと同時にソファーから起き上がると、ゆらゆらと湯気が立ち昇る緑茶が満たされたマグカップをサーバーから優雅な動作で手に取り、PCに向かった。
「おはよう、サーディア」
バリトンの声音で邦哉が話しかけたのは、先程起動したPCだ。サーディアと呼ばれたソレが挨拶を返してくる。
どこにでもあるグレーの事務机から椅子を引いて腰を下ろすと緑茶で咽喉を潤した。
「それでサーディア、作業の進み具合は?」
「完了しています」
「結構!」
邦哉はバネの硬い椅子の背もたれに身体を預けた。
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星岬は壁一面のモニター画面の中で南研究棟、特に内部を映すモニターを凝視していた。
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