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CHAPTER 2
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星岬技術研究所南研究棟2階 開発主任室(兼紀伊邦哉自室)
時刻は午後5時をまわって、どの部署も本日の業務に決着をつけ定時上がりを狙って忙しくしている頃である。
お香のような甘い香りの紫煙を漂わせて、くわえ煙草の邦哉がPCを操作している。
軽快なキーボード入力音が室内を支配している。
PCを用いて何かを創り上げるのも錬金術ではないだろうか。
周りの人間たちよりは永く世界を見てきた邦哉はそう考えていた。
プログラミング作業に没頭していた邦哉は、チラッとモニター画面の右下角に表示されている時計に目をやって時間を確認しようとした。するとサーディア・アイコンが知らんぷりを装った態度のアニメーションで時計表示をわざわざ隠すように動作した。
「サーディア・・・!」
邦哉に、たしなめるような口調で名前を呼ばれたサーディアは、舌をチロッと出してフレームアウトした。リズミカルな入力音が止まる。邦哉は何か違和感を感じていた。少し考えて今のが悪ふざけであると気付いて彼女を呼び出した。
「あの・・・お気に障りましたか?」
サーディアがモニター画面中央でうなだれてショボンとしている。
邦哉はまだ違和感を感じている。
じぃ・・・・・・・・・っと見られているサーディアは、たまらず
「もう許して~」
そう言うと手足を胴にしまい、次いで胴体を頭にしまった。
頭だけの状態を見て、邦哉はようやく合点がいった。
「サーディア、キミ身体をどうした!?」
「いやん、邦哉のえっち」
・・・コイツ何を・・・いや、そうではない。思考ルーチンに権限を委譲し過ぎたか?
それにしてもコイツ、自分で首から下を創作したというのか!?
何故だ? 何かがあったはずだ。行動には理由が、それは何だ?
邦哉が自分で組んだオペレーティングシステム「サーディア」に異変を見つけて(それも、どうでもいい放置可能な異変かもしれないが)対応を迫られている頃、本部棟ではちょっとした事故があった。
星岬技術研究所本部棟18階 役員会議室
「当研究所は欠損した部位の再現という点に於いて、他社の追随を許さないという次元を既に越えて独走状態にあります。今後の課題として、外見にとどまらず重量、耐衝撃、そして傷つければ血に似たものがでるなど、機能面、性能面に於いても実現したい宿題は山積みです。
また、人工臓器については、市場への参入が遅かったにも拘わらず小型化と省電力、耐久年数延長など、装着者の負担軽減を前面に押し出した企画と営業が着実に利用者増に繋がっています。
さて、本日は急な召集にもかかわらず、多忙の中お集まり頂き誠にありがとうございます。
本日はどうしても緊急に皆様の承認を頂きたい企画がありましてお呼び立てした次第です。
これから披露いたします試作品は、今後の当研究所の業績に必ず良いリターンをもたらすものと確信しています。先程から激しい息遣いがしておりますので、既にお気づきの方も列席の中にいらっしゃるかにお見受けいたします。本日ここに紹介できることに私は興奮しています。当人もきっと興奮を抑えられずにいると思われます。では紹介いたします!
ターニャ、お入り」
星岬はマイク片手に会議準備室の扉へ視線を誘導した。
「ウゴオオオオオオオオ!」
扉の向こうで恐ろしい雄たけびが聞こえると、ドアは蝶番の動きを無視して飛び出し、会議に参加している役員の座席を直撃した。この時、ドアを追うように準備室から飛び出した青黒い物体は整然と並ぶ座席郡へ飛び込んだ。逃げ回る役員たちを掴んでは投げ大暴れを始めている。
プレゼンテーションを滅茶苦茶にされた星岬は、自分に背を向けて暴れ回る青黒い物体にゆっくり近づいて後ろから両手首を掴むと腕を左右一杯に開いてホールドした。ゴリラである。会議室で暴れていたのはゴリラである。
ゴリラは、何とか腕の自由を取り戻そうと雄たけびを上げてはユサユサと激しく身体を揺さぶり続けている。
興奮して収まらないと判断した星岬は、左右に真っ直ぐ伸ばした格好で拘束していた腕を、
背中に向けて折り曲げた。
ゴリラの両肩からパン!パン!と乾いた破裂音がして、赤い色の液体がピシュッと吹きあがった。
「ゴッ!フゴオオオオッ」
星岬はゴリラの腕を放した。自由にはなったが両腕が全く動かないことにゴリラは焦りを禁じ得ない。星岬に振り返ると尻もちをつき、そのまま後じさっている。どうやら降参らしい。
「ターニャ、お座り」
ゴリラは尻もちをついたまま、背筋だけ正した。星岬はゴリラの頭を撫でた。
役員のひとりが、散らかったテーブルと椅子を1セット置き直し着座すると、背後の窓枠に避難させておいたマイ湯吞を取り戻し、一服して挙手した。
星岬はそれを見て、ゴリラの頭を撫でていた手を止め、そのまま頭を掴んで引きずりながら会議室前方に戻る。ゴリラはぐったりとしてされるがままだった。
話はプレゼンテーションに戻る。
動ける者だけ体裁を整えてプレゼンテーションは続行された。
「役員ナンバー11、どうぞ?」
「先程の“承認が欲しい企画”というのが、その猿ということかね?」
星岬は両手をポン!と打ち鳴らすと、正解ですと答えたが、テーブルと座席の位置を正しつつ多くの役員がケガを気にしながら口々に反対(と不満)を吐き出している。
そんな中で再び先程の役員が発言を求めて挙手している。
どうぞと星岬は再び促した。
「私が見る限り星岬くん、君の装着しているPAS(Power Assist Suit : 装着者の肉体的負担を軽減する装置)の方が私は興味あるのだが・・・」
「気付かれましたか。ですが、今回はコイツの承認を頂きたい」
星岬は、実のところPASなど装着してはいなかった。それよりも、この人造ゴリラの承認を得たかったので、その為の説得に尽力した。
「このゴリラは当研究所の取扱商品の全てを駆使し、且つ足りない所を補って新造した人造ゴリラです!」
「我らが扱っておらん商品なぞ・・・! 脳か!」
役員ナンバー11とその他の役員たちが絶妙のハーモニーで合唱した!
星岬は再び両手をポン!と打ち鳴らすと、正解ですと答えた。
時刻は午後5時をまわって、どの部署も本日の業務に決着をつけ定時上がりを狙って忙しくしている頃である。
お香のような甘い香りの紫煙を漂わせて、くわえ煙草の邦哉がPCを操作している。
軽快なキーボード入力音が室内を支配している。
PCを用いて何かを創り上げるのも錬金術ではないだろうか。
周りの人間たちよりは永く世界を見てきた邦哉はそう考えていた。
プログラミング作業に没頭していた邦哉は、チラッとモニター画面の右下角に表示されている時計に目をやって時間を確認しようとした。するとサーディア・アイコンが知らんぷりを装った態度のアニメーションで時計表示をわざわざ隠すように動作した。
「サーディア・・・!」
邦哉に、たしなめるような口調で名前を呼ばれたサーディアは、舌をチロッと出してフレームアウトした。リズミカルな入力音が止まる。邦哉は何か違和感を感じていた。少し考えて今のが悪ふざけであると気付いて彼女を呼び出した。
「あの・・・お気に障りましたか?」
サーディアがモニター画面中央でうなだれてショボンとしている。
邦哉はまだ違和感を感じている。
じぃ・・・・・・・・・っと見られているサーディアは、たまらず
「もう許して~」
そう言うと手足を胴にしまい、次いで胴体を頭にしまった。
頭だけの状態を見て、邦哉はようやく合点がいった。
「サーディア、キミ身体をどうした!?」
「いやん、邦哉のえっち」
・・・コイツ何を・・・いや、そうではない。思考ルーチンに権限を委譲し過ぎたか?
それにしてもコイツ、自分で首から下を創作したというのか!?
何故だ? 何かがあったはずだ。行動には理由が、それは何だ?
邦哉が自分で組んだオペレーティングシステム「サーディア」に異変を見つけて(それも、どうでもいい放置可能な異変かもしれないが)対応を迫られている頃、本部棟ではちょっとした事故があった。
星岬技術研究所本部棟18階 役員会議室
「当研究所は欠損した部位の再現という点に於いて、他社の追随を許さないという次元を既に越えて独走状態にあります。今後の課題として、外見にとどまらず重量、耐衝撃、そして傷つければ血に似たものがでるなど、機能面、性能面に於いても実現したい宿題は山積みです。
また、人工臓器については、市場への参入が遅かったにも拘わらず小型化と省電力、耐久年数延長など、装着者の負担軽減を前面に押し出した企画と営業が着実に利用者増に繋がっています。
さて、本日は急な召集にもかかわらず、多忙の中お集まり頂き誠にありがとうございます。
本日はどうしても緊急に皆様の承認を頂きたい企画がありましてお呼び立てした次第です。
これから披露いたします試作品は、今後の当研究所の業績に必ず良いリターンをもたらすものと確信しています。先程から激しい息遣いがしておりますので、既にお気づきの方も列席の中にいらっしゃるかにお見受けいたします。本日ここに紹介できることに私は興奮しています。当人もきっと興奮を抑えられずにいると思われます。では紹介いたします!
ターニャ、お入り」
星岬はマイク片手に会議準備室の扉へ視線を誘導した。
「ウゴオオオオオオオオ!」
扉の向こうで恐ろしい雄たけびが聞こえると、ドアは蝶番の動きを無視して飛び出し、会議に参加している役員の座席を直撃した。この時、ドアを追うように準備室から飛び出した青黒い物体は整然と並ぶ座席郡へ飛び込んだ。逃げ回る役員たちを掴んでは投げ大暴れを始めている。
プレゼンテーションを滅茶苦茶にされた星岬は、自分に背を向けて暴れ回る青黒い物体にゆっくり近づいて後ろから両手首を掴むと腕を左右一杯に開いてホールドした。ゴリラである。会議室で暴れていたのはゴリラである。
ゴリラは、何とか腕の自由を取り戻そうと雄たけびを上げてはユサユサと激しく身体を揺さぶり続けている。
興奮して収まらないと判断した星岬は、左右に真っ直ぐ伸ばした格好で拘束していた腕を、
背中に向けて折り曲げた。
ゴリラの両肩からパン!パン!と乾いた破裂音がして、赤い色の液体がピシュッと吹きあがった。
「ゴッ!フゴオオオオッ」
星岬はゴリラの腕を放した。自由にはなったが両腕が全く動かないことにゴリラは焦りを禁じ得ない。星岬に振り返ると尻もちをつき、そのまま後じさっている。どうやら降参らしい。
「ターニャ、お座り」
ゴリラは尻もちをついたまま、背筋だけ正した。星岬はゴリラの頭を撫でた。
役員のひとりが、散らかったテーブルと椅子を1セット置き直し着座すると、背後の窓枠に避難させておいたマイ湯吞を取り戻し、一服して挙手した。
星岬はそれを見て、ゴリラの頭を撫でていた手を止め、そのまま頭を掴んで引きずりながら会議室前方に戻る。ゴリラはぐったりとしてされるがままだった。
話はプレゼンテーションに戻る。
動ける者だけ体裁を整えてプレゼンテーションは続行された。
「役員ナンバー11、どうぞ?」
「先程の“承認が欲しい企画”というのが、その猿ということかね?」
星岬は両手をポン!と打ち鳴らすと、正解ですと答えたが、テーブルと座席の位置を正しつつ多くの役員がケガを気にしながら口々に反対(と不満)を吐き出している。
そんな中で再び先程の役員が発言を求めて挙手している。
どうぞと星岬は再び促した。
「私が見る限り星岬くん、君の装着しているPAS(Power Assist Suit : 装着者の肉体的負担を軽減する装置)の方が私は興味あるのだが・・・」
「気付かれましたか。ですが、今回はコイツの承認を頂きたい」
星岬は、実のところPASなど装着してはいなかった。それよりも、この人造ゴリラの承認を得たかったので、その為の説得に尽力した。
「このゴリラは当研究所の取扱商品の全てを駆使し、且つ足りない所を補って新造した人造ゴリラです!」
「我らが扱っておらん商品なぞ・・・! 脳か!」
役員ナンバー11とその他の役員たちが絶妙のハーモニーで合唱した!
星岬は再び両手をポン!と打ち鳴らすと、正解ですと答えた。
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