クリスタル・サーディア 終わりなき物語の始まりの時

蛙杖平八

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CHAPTER 10

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星岬技術研究所 ヘリポート


仮死状態のゴリラを連れて帰って来た星岬を邦哉が出迎えた。

「・・・」

星岬は邦哉が不機嫌そうにしているのに気付きはしたものの“何に”対して不機嫌であるかについて、想像することは全く頭になかった。
今は一刻も早くこの実験体の仕上げをしたいという衝動が抑えられずにいた。


「邦哉。連絡しといた件、どうなってる?」

「出来てるよ」

邦哉の細い眼が冷ややかに自分を見ているような気がしたが、大して気にすることもなく真直ぐ“開かずの間”に向かった。




星岬技術研究所 東研究棟 第三実験室(通称「開かずの間」)


「・・・邦哉、お前、俺に何か言いたいことがあるのと違うか?」

「じゃあ、言わせてもらうが、お前、そのゴリラ、どうする気だ?」

二人の間に微妙な空気が漂い始める。
邦哉が続けた。

「お前、ただ命を助ければイイと思っているなら、それは違うからな」

「・・・」

邦哉は続けた。

「命っていうのは、不可侵なモノなんだ。他人様がどうこうしていいモノではない!」

二人の間に険悪な空気が強まっていく。
邦哉が続けた。

「もしもお前がそのゴリラを“改造”して生かすのであれば、それは“命の冒涜”になるぞ」

「何が命の冒涜だ! 全ての命ある者たちが当たり前のことだと信じて疑わない生きることっていうのは、本能的に生存を選択している状態を云う。死ぬことを前提に生き抜けるほど世界は優しく成り立ってはいない! この子は、この娘の怒りは本物だ。生き延びるのにこれ程必死になってみせたこの娘の生存本能に、俺は手を差し伸べたくなった! その手段として俺が出来る事が欠損部位の機械化ということだ。これは間違っているか!?」

二人はそれ以上の会話を避けた。無意識に後戻り出来なくなる事態を避けたのだ。
星岬は開かずの間に消えた。
邦哉は星岬の背中を見送った後で、無意識のうちに煙草に火をつけていた。深く紫煙を吸い込むとゆっくり吐いた。東研究棟は全館“禁煙”である。それでもコッソリ吸う輩が後を絶たないので、煙感知器が過敏に調整されていた。非常ベルが鳴り響くとスプリンクラーから噴出した水が邦哉の頭上に降り注いだ。


「☆Φ*ω♂€!!!」

言葉にならない言葉を発しながら、邦哉は悪態をついて床を何度も繰り返し踏みつけた。
ジュっと小さな音を立ててタバコが鎮火すると、星岬が消えたドアを細い眼で睨み付けた。
鎮火したタバコを両手で揉み潰すとドアに投げつけた。ある意味平和を砕く行為に見えなくもない。ひとしきり悪態をつき終ると、冷静さを取り戻した邦哉は、降りしきるスプリンクラーからの水に当たりながら投げ捨てた吸殻を拾うとポケット灰皿にしまい、開かずの間のドアをもう一睨みすると、踵を返して立ち去った。
冷静で居られなかった。
何故だ?
自分より300歳以上齢の離れた若造に、何か諭された気がして人間の懐の深さで負けたような気になり、面白くないと感じたのかも知れない。
さっきの自分はみっともなかったなと邦哉は反省した。


一方、ゴリラの為に用意されていたオーダーメイドの義手義足はピッタリサイズで、星岬は感動していた。
いくら3Dデータを送ったからと言って、こうも接合部がしっくりくるものだろうか?
それに装着者の今後を見通して選定された使用部品の材質・強度。そして装着後の全体のバランス。
邦哉にはモノ作りのセンスがある。同じデータで同じモノを作成したとして、一発目で決めてしまえるような装着者に寄り添ったモノが作れる才能は自分にはない。
星岬は自分にはないものを邦哉に見出すたびに嫉妬にかられるのだった。

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