11 / 51
CHAPTER 10
しおりを挟む
星岬技術研究所 ヘリポート
仮死状態のゴリラを連れて帰って来た星岬を邦哉が出迎えた。
「・・・」
星岬は邦哉が不機嫌そうにしているのに気付きはしたものの“何に”対して不機嫌であるかについて、想像することは全く頭になかった。
今は一刻も早くこの実験体の仕上げをしたいという衝動が抑えられずにいた。
「邦哉。連絡しといた件、どうなってる?」
「出来てるよ」
邦哉の細い眼が冷ややかに自分を見ているような気がしたが、大して気にすることもなく真直ぐ“開かずの間”に向かった。
星岬技術研究所 東研究棟 第三実験室(通称「開かずの間」)
「・・・邦哉、お前、俺に何か言いたいことがあるのと違うか?」
「じゃあ、言わせてもらうが、お前、そのゴリラ、どうする気だ?」
二人の間に微妙な空気が漂い始める。
邦哉が続けた。
「お前、ただ命を助ければイイと思っているなら、それは違うからな」
「・・・」
邦哉は続けた。
「命っていうのは、不可侵なモノなんだ。他人様がどうこうしていいモノではない!」
二人の間に険悪な空気が強まっていく。
邦哉が続けた。
「もしもお前がそのゴリラを“改造”して生かすのであれば、それは“命の冒涜”になるぞ」
「何が命の冒涜だ! 全ての命ある者たちが当たり前のことだと信じて疑わない生きることっていうのは、本能的に生存を選択している状態を云う。死ぬことを前提に生き抜けるほど世界は優しく成り立ってはいない! この子は、この娘の怒りは本物だ。生き延びるのにこれ程必死になってみせたこの娘の生存本能に、俺は手を差し伸べたくなった! その手段として俺が出来る事が欠損部位の機械化ということだ。これは間違っているか!?」
二人はそれ以上の会話を避けた。無意識に後戻り出来なくなる事態を避けたのだ。
星岬は開かずの間に消えた。
邦哉は星岬の背中を見送った後で、無意識のうちに煙草に火をつけていた。深く紫煙を吸い込むとゆっくり吐いた。東研究棟は全館“禁煙”である。それでもコッソリ吸う輩が後を絶たないので、煙感知器が過敏に調整されていた。非常ベルが鳴り響くとスプリンクラーから噴出した水が邦哉の頭上に降り注いだ。
「☆Φ*ω♂€!!!」
言葉にならない言葉を発しながら、邦哉は悪態をついて床を何度も繰り返し踏みつけた。
ジュっと小さな音を立ててタバコが鎮火すると、星岬が消えたドアを細い眼で睨み付けた。
鎮火したタバコを両手で揉み潰すとドアに投げつけた。ある意味平和を砕く行為に見えなくもない。ひとしきり悪態をつき終ると、冷静さを取り戻した邦哉は、降りしきるスプリンクラーからの水に当たりながら投げ捨てた吸殻を拾うとポケット灰皿にしまい、開かずの間のドアをもう一睨みすると、踵を返して立ち去った。
冷静で居られなかった。
何故だ?
自分より300歳以上齢の離れた若造に、何か諭された気がして人間の懐の深さで負けたような気になり、面白くないと感じたのかも知れない。
さっきの自分はみっともなかったなと邦哉は反省した。
一方、ゴリラの為に用意されていたオーダーメイドの義手義足はピッタリサイズで、星岬は感動していた。
いくら3Dデータを送ったからと言って、こうも接合部がしっくりくるものだろうか?
それに装着者の今後を見通して選定された使用部品の材質・強度。そして装着後の全体のバランス。
邦哉にはモノ作りのセンスがある。同じデータで同じモノを作成したとして、一発目で決めてしまえるような装着者に寄り添ったモノが作れる才能は自分にはない。
星岬は自分にはないものを邦哉に見出すたびに嫉妬にかられるのだった。
仮死状態のゴリラを連れて帰って来た星岬を邦哉が出迎えた。
「・・・」
星岬は邦哉が不機嫌そうにしているのに気付きはしたものの“何に”対して不機嫌であるかについて、想像することは全く頭になかった。
今は一刻も早くこの実験体の仕上げをしたいという衝動が抑えられずにいた。
「邦哉。連絡しといた件、どうなってる?」
「出来てるよ」
邦哉の細い眼が冷ややかに自分を見ているような気がしたが、大して気にすることもなく真直ぐ“開かずの間”に向かった。
星岬技術研究所 東研究棟 第三実験室(通称「開かずの間」)
「・・・邦哉、お前、俺に何か言いたいことがあるのと違うか?」
「じゃあ、言わせてもらうが、お前、そのゴリラ、どうする気だ?」
二人の間に微妙な空気が漂い始める。
邦哉が続けた。
「お前、ただ命を助ければイイと思っているなら、それは違うからな」
「・・・」
邦哉は続けた。
「命っていうのは、不可侵なモノなんだ。他人様がどうこうしていいモノではない!」
二人の間に険悪な空気が強まっていく。
邦哉が続けた。
「もしもお前がそのゴリラを“改造”して生かすのであれば、それは“命の冒涜”になるぞ」
「何が命の冒涜だ! 全ての命ある者たちが当たり前のことだと信じて疑わない生きることっていうのは、本能的に生存を選択している状態を云う。死ぬことを前提に生き抜けるほど世界は優しく成り立ってはいない! この子は、この娘の怒りは本物だ。生き延びるのにこれ程必死になってみせたこの娘の生存本能に、俺は手を差し伸べたくなった! その手段として俺が出来る事が欠損部位の機械化ということだ。これは間違っているか!?」
二人はそれ以上の会話を避けた。無意識に後戻り出来なくなる事態を避けたのだ。
星岬は開かずの間に消えた。
邦哉は星岬の背中を見送った後で、無意識のうちに煙草に火をつけていた。深く紫煙を吸い込むとゆっくり吐いた。東研究棟は全館“禁煙”である。それでもコッソリ吸う輩が後を絶たないので、煙感知器が過敏に調整されていた。非常ベルが鳴り響くとスプリンクラーから噴出した水が邦哉の頭上に降り注いだ。
「☆Φ*ω♂€!!!」
言葉にならない言葉を発しながら、邦哉は悪態をついて床を何度も繰り返し踏みつけた。
ジュっと小さな音を立ててタバコが鎮火すると、星岬が消えたドアを細い眼で睨み付けた。
鎮火したタバコを両手で揉み潰すとドアに投げつけた。ある意味平和を砕く行為に見えなくもない。ひとしきり悪態をつき終ると、冷静さを取り戻した邦哉は、降りしきるスプリンクラーからの水に当たりながら投げ捨てた吸殻を拾うとポケット灰皿にしまい、開かずの間のドアをもう一睨みすると、踵を返して立ち去った。
冷静で居られなかった。
何故だ?
自分より300歳以上齢の離れた若造に、何か諭された気がして人間の懐の深さで負けたような気になり、面白くないと感じたのかも知れない。
さっきの自分はみっともなかったなと邦哉は反省した。
一方、ゴリラの為に用意されていたオーダーメイドの義手義足はピッタリサイズで、星岬は感動していた。
いくら3Dデータを送ったからと言って、こうも接合部がしっくりくるものだろうか?
それに装着者の今後を見通して選定された使用部品の材質・強度。そして装着後の全体のバランス。
邦哉にはモノ作りのセンスがある。同じデータで同じモノを作成したとして、一発目で決めてしまえるような装着者に寄り添ったモノが作れる才能は自分にはない。
星岬は自分にはないものを邦哉に見出すたびに嫉妬にかられるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる