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CHAPTER 12
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星岬技術研究所 東研究棟 第3実験室(開かずの間)
CHAPTER 7 からのつづき。
落ち込んだ気分で立ち尽くして、気付けば日付が変わってしまっているという始末。
気持ちを切り替えろ。やれることはまだあるはずだ。
邦哉は冷静さを取り戻し、覚えている限りの記憶を手繰り寄せて整理した。
星岬は高濃度のオゾンによって肺をやられた
星岬の全身には縫合痕があった
星岬は何者かによって連れ去られた
その何者かは三角形のシルエットをしている
そして、その三角形のシルエットの大きさは170cm前後あったという事だ。
換気のために開放した窓は“滑り出し窓”という種類の窓で、ヒトが出入りする用途の窓ではないし、その様な使用には不向きだ。故に三角形にはこれを利用して室内に侵入して、人ひとり連れ去るという事は現実的ではないであろう。
そうなると、窓から出入り出来ない以上、この部屋に出入り口は一ヶ所しかないことになる。
結論、彼らはまだ、この室内にいる。
いや、コレは間違っている。
機材が邪魔して見えないところもあるけれど、人が隠れられるだけのスペースが確保できるようには見えない。星岬は、あれで178cmとなかなかの長身。この室内ではどこに隠れても頭隠してなんとやら、だろう。
うっかり星岬が隠れているところを想像してしまい、首を左右に振って思考をリセットすると、邦哉は入室の際に使用したドアに背を向けた。
あの時、自分はこのドアを視界に捉えていた。そしてヤツは気付いた時にはすぐ傍にいた。つまりヤツは、三角形はこの視界の中に突然現れ、そして突然消えた。そう、見当たらないのだから居ないのだ。
どこかに隠し扉か何かがあるのだ!
室内をよく見る。
邦哉は壁伝いに歩きながら壁を軽く叩いて、確認して回った。
あった!
その壁は叩いただけでは分からない程他との差は感じなかったが、床面との隙間に風が吹き抜けているのだ。
どうやったら開閉できるのか?
邦哉は数歩下がってその壁をまじまじと見た。すると上の片隅にひとつ、直径2㎝程の孔が開いているのを発見した。
孔か・・・
少し考えて邦哉は手を伸ばして指を孔に突っ込んだ!
すると・・・すると・・・何も起こらない?
それより、問題が発生した。指が抜けない。・・・!
これは、かなり、ハズカシイ。
抜けろ! 思い切り引っ張った時に“カックン”と指に手ごたえを感じると、大きく手前に壁が開いた。なんと大胆な隠し扉だろう。これ、ほぼ壁一面開いたと言っていい。大きさは、今はいいや。こうなったら行くしかないだろう。それより、マジで指が・・・何かないかと辺りを見回すと、工具箱を見つけた。恐らく機器のメンテナンス用であろう。機械油があるはずだ。期待して足を延ばして引き寄せた。
星岬技術研究所 東研究棟 第3実験室(開かずの間)隠し扉の向こう側
幅1mもないと思われる狭い場所に、勾配のキツイ階段が設置されている。照明らしいものはというと、階段の一段一段が発電機を内蔵しているようで、踏まれることでエネルギーが発生してぼんやりと灯りが点るのだ。邦哉は、まるで足音をたてずにスイスイと階段を下っていく。体感で3フロア分は下った気がする。もう地下なんじゃないだろうか?そう思っていると、薄っすらと灯りが漏れているのに気が付いた。どうやら終点のようだ。
さて、この扉はどうやったら開くんだ?
考えていると、シューと小さな音をたてて扉が開いた。薄暗い室内の中央に、手術台があり星岬が横になっている。その傍らに三角形がいて、こちらを油断なく見て警戒している。
「遅いじゃないか、邦哉」
星岬が声を掛けてくる。
状況が把握できないが、とりあえず“見られたからには生きて帰れるなんて思うなよ”的な事にはならないで済みそうだ。
「星岬、大丈夫なのか?」
「邦哉、頼まれてくれないか」
何をだ?と邦哉が尋ねると星岬は、少しためらってから答えた。
「この身体はもうダメだ。私は別の身体に移る。」
「何を言っている? 別の身体とはどういう意味だ?」
言葉通りだと星岬が答え肘から先で合図をすると、三角形が床面に届いている太くて長い手を延ばして壁にあるスイッチを操作した。すると三角形の背後の壁が左右に開き、メタルフレームのスケルトンが現れた。
「コレはいったい・・・?」
「トランスルーセント、model no.000000(モデルオールゼロ)」
星岬は邦哉の疑問・質問に答えている訳でなく、自分の都合最優先で説明しているに過ぎない。
「私の心臓をオールゼロへ移植して欲しい」
「脳じゃないのか?星岬!」
入り口に突っ立ったままの邦哉は弱っている友の姿に動揺を隠しきれない。
「脳であれば、そこのメタルターニャでも可能だ。だが、心臓(移植)はレクチャーしていない。お前の技能が必要だ。」
「わかった。やろう! だが、なぜ心臓なんだ?」
星岬は、笑おうとして咳きこんだ。邦哉が入り口から一挙動で星岬の傍らに移動すると、メタルターニャと呼ばれた三角形は、対応しきれずひっくり返った。
星岬は見えていたらしく邦哉の眼を見て問いに答えた。
「本当の 想いは ハートに 宿るんだぜ」
「なにメチャメチャなこと言ってんだ、馬鹿野郎!」
ベタな三文芝居が続く中、メタルターニャが何かを察知して静かに退室した。
CHAPTER 7 からのつづき。
落ち込んだ気分で立ち尽くして、気付けば日付が変わってしまっているという始末。
気持ちを切り替えろ。やれることはまだあるはずだ。
邦哉は冷静さを取り戻し、覚えている限りの記憶を手繰り寄せて整理した。
星岬は高濃度のオゾンによって肺をやられた
星岬の全身には縫合痕があった
星岬は何者かによって連れ去られた
その何者かは三角形のシルエットをしている
そして、その三角形のシルエットの大きさは170cm前後あったという事だ。
換気のために開放した窓は“滑り出し窓”という種類の窓で、ヒトが出入りする用途の窓ではないし、その様な使用には不向きだ。故に三角形にはこれを利用して室内に侵入して、人ひとり連れ去るという事は現実的ではないであろう。
そうなると、窓から出入り出来ない以上、この部屋に出入り口は一ヶ所しかないことになる。
結論、彼らはまだ、この室内にいる。
いや、コレは間違っている。
機材が邪魔して見えないところもあるけれど、人が隠れられるだけのスペースが確保できるようには見えない。星岬は、あれで178cmとなかなかの長身。この室内ではどこに隠れても頭隠してなんとやら、だろう。
うっかり星岬が隠れているところを想像してしまい、首を左右に振って思考をリセットすると、邦哉は入室の際に使用したドアに背を向けた。
あの時、自分はこのドアを視界に捉えていた。そしてヤツは気付いた時にはすぐ傍にいた。つまりヤツは、三角形はこの視界の中に突然現れ、そして突然消えた。そう、見当たらないのだから居ないのだ。
どこかに隠し扉か何かがあるのだ!
室内をよく見る。
邦哉は壁伝いに歩きながら壁を軽く叩いて、確認して回った。
あった!
その壁は叩いただけでは分からない程他との差は感じなかったが、床面との隙間に風が吹き抜けているのだ。
どうやったら開閉できるのか?
邦哉は数歩下がってその壁をまじまじと見た。すると上の片隅にひとつ、直径2㎝程の孔が開いているのを発見した。
孔か・・・
少し考えて邦哉は手を伸ばして指を孔に突っ込んだ!
すると・・・すると・・・何も起こらない?
それより、問題が発生した。指が抜けない。・・・!
これは、かなり、ハズカシイ。
抜けろ! 思い切り引っ張った時に“カックン”と指に手ごたえを感じると、大きく手前に壁が開いた。なんと大胆な隠し扉だろう。これ、ほぼ壁一面開いたと言っていい。大きさは、今はいいや。こうなったら行くしかないだろう。それより、マジで指が・・・何かないかと辺りを見回すと、工具箱を見つけた。恐らく機器のメンテナンス用であろう。機械油があるはずだ。期待して足を延ばして引き寄せた。
星岬技術研究所 東研究棟 第3実験室(開かずの間)隠し扉の向こう側
幅1mもないと思われる狭い場所に、勾配のキツイ階段が設置されている。照明らしいものはというと、階段の一段一段が発電機を内蔵しているようで、踏まれることでエネルギーが発生してぼんやりと灯りが点るのだ。邦哉は、まるで足音をたてずにスイスイと階段を下っていく。体感で3フロア分は下った気がする。もう地下なんじゃないだろうか?そう思っていると、薄っすらと灯りが漏れているのに気が付いた。どうやら終点のようだ。
さて、この扉はどうやったら開くんだ?
考えていると、シューと小さな音をたてて扉が開いた。薄暗い室内の中央に、手術台があり星岬が横になっている。その傍らに三角形がいて、こちらを油断なく見て警戒している。
「遅いじゃないか、邦哉」
星岬が声を掛けてくる。
状況が把握できないが、とりあえず“見られたからには生きて帰れるなんて思うなよ”的な事にはならないで済みそうだ。
「星岬、大丈夫なのか?」
「邦哉、頼まれてくれないか」
何をだ?と邦哉が尋ねると星岬は、少しためらってから答えた。
「この身体はもうダメだ。私は別の身体に移る。」
「何を言っている? 別の身体とはどういう意味だ?」
言葉通りだと星岬が答え肘から先で合図をすると、三角形が床面に届いている太くて長い手を延ばして壁にあるスイッチを操作した。すると三角形の背後の壁が左右に開き、メタルフレームのスケルトンが現れた。
「コレはいったい・・・?」
「トランスルーセント、model no.000000(モデルオールゼロ)」
星岬は邦哉の疑問・質問に答えている訳でなく、自分の都合最優先で説明しているに過ぎない。
「私の心臓をオールゼロへ移植して欲しい」
「脳じゃないのか?星岬!」
入り口に突っ立ったままの邦哉は弱っている友の姿に動揺を隠しきれない。
「脳であれば、そこのメタルターニャでも可能だ。だが、心臓(移植)はレクチャーしていない。お前の技能が必要だ。」
「わかった。やろう! だが、なぜ心臓なんだ?」
星岬は、笑おうとして咳きこんだ。邦哉が入り口から一挙動で星岬の傍らに移動すると、メタルターニャと呼ばれた三角形は、対応しきれずひっくり返った。
星岬は見えていたらしく邦哉の眼を見て問いに答えた。
「本当の 想いは ハートに 宿るんだぜ」
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