真贋鑑定士 鹿目和哉

千代原口 桂

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一章

一章 四分の四

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「守田英昭さん。では、お願いします。まず最初に、彼が万引きするところを目撃されましたか?」

「いいえ」

「では、防犯センサーか何かで検知したんでしょうか?」

「違います。保安員からの報告を受けて……それで鞄を確認させて貰いました」

「保安員というと、万引きGメン?」

「そうです。本店からの委託で来ていただいてます」

「なるほど! それで、鞄の中からは何か見つかりました?」

「未精算のCDが出てきました」

「それは今、何処にあります?」

「私が持っています」

 店長はエプロンの胸ポケットから一枚のCDを取り出すと、それを机に置いた。

「因みに、鞄の中身を確認した場所は何処でしょう?」

「CDコーナーを出て直ぐの場所です。うちはコーナー毎に精算するシステムなので……」

「判りました。ありがとうございます。あと、保安員の方にも話を伺いたいのですが……」

「え!」

 一瞬、店長は戸惑った表情を浮かべて続けた。

「ごめんなさい! 夕方五時までの契約なので、もう……」

 既に、定刻から三十分以上が過ぎている。

「そうですか……では、改めて調整して貰うことは出来ますか?」

「伝えておきます」

 洸平は、誰が調整するのかなど、全く気に留めていない様子。臨機応変どころか、自分の方が手順を追うことで掛り切りになっていた。

 その後、一人メモを書き込み続けることしばし……その間を洸平に代わって沈黙が支配する。

 二人は抗えず、成り行きに身を任せるしかない。

 徐々に、沈黙が裏の顔を見せ始めた。

 黙って、顔を突き合わすだけの時間が居たたまれない。

 苦痛をジワジワと侵蝕して苦悶に変わる少し前、「じゃ、今度は君の番だ」そう言って、聴取が再開されたことに二人は安堵した。

「このお店にはよく来るの?」

「偶に、学校帰りに寄ります」

「どれくらいの頻度かな? 例えば、週イチとか?」

「いえ、そんなには……月イチくらいです」

「なるほど。因みに、今までに店から商品を購入したことはある?」

「ありません! というか、プレーヤー持ってないので……」

「ん? じゃ、どうして? 月イチで寄ってるんじゃなかったっけ?」

「それは、付き合いで来てるだけです。友達が音楽好きなので……」

「ふうん、それじゃ今日も付き合い?」

「違います! 今日は一人です」

「んー、なんか矛盾してるよね」

「プ、プレゼントを捜しに……もう直ぐ誕生日だから……」

 少年の頬が染まる。

「ほう、友達は女子か!」

「別に関係ないでしょう! そのことは」

 更に染まる。

「で? プレゼントは?」

 少年の口が急に重くなったのを見て、洸平が先走る。

「……出来心でやっちゃったか?」

「違います、諦めたんです! ピンと来なくて……。そしたら急に鞄の中を見せてくれって、言われて調べてたら……」

「これが出て来た!」

 洸平は机の上のCDを指して反応を確かめた。

「もう、訳が判らなくなって……」

 頭を抱え、ただ項垂うなだれるだけ……これと言って、目を張る様子は無い。

「でも君は身に覚えがないんだよね?」

「はい、そうなんです」

 この質問には顔を上げ、ハッキリと真っ直ぐに返した。

 だが、その様子が洸平には届かない。

 別の気掛かりが浮かんで、既に少年は背景の一部と化していた。

(取り敢えず、示談なら良いけど……告られ告訴されたらどうする? 管轄、何処だっけ? 五条署?)

 その時、携帯のバイブ音が叔父の到着を少年に告げた。

「あっ、叔父が来たみたいです!」
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