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二章
二章 三分の一
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細身の割にガッチリとした体格が、身を包んだ上下紺色のスリーピース・スリム越しからも確認出来る。中々の高身長で、一見すると二十代後半の清涼感漂う普通のサラリーマン……。
しかし、こちらも同じく、手元には薄手の白い手袋。
「鶴太郎がお世話になりました。叔父の鹿目和哉です。」
(いやいや、どうしたって御曹司と執事でしょ!)
その出で立ちを見て、脳内に『黒の蝶ネクタイ』を補填せずにいられない。
この時の洸平は、未だ妄想に耽る余裕があった。
「ご足労いただきまして。店長の守田です。どうぞお掛けください」
誘われるまま、和哉は鶴太郎の席の隣に着いた。
「こちらは、その……」
切り出し難そうにしてる守田を見て、代わりに答える。
「京都府警の三木です」
成り行き次第で『お役御免』も考えられる……洸平は軽い挨拶で済ませた。
「警察の方? 既に通報されていたんですね」
「あ、いえ。私は偶然、居合わせただけです」
「そう、ですか……」
(同じく、両手のソレを外す気配はない……か)
洸平の、その視線を感じた――和哉が、先に動いた。
「うちの男系は手掌多汗症の者が多くて、これは医師からの処方です」
戦慄が走った。
(まさか! 視線を見抜かれた?)
訓練された刑事の視線運びは独特、素人が容易く見抜けるものでない。
ましてや意図まで汲み取られているとなると、お手上げ!
業務なら即、聴取から外される場面だ。
無論、これまでも同様の経験は幾度となくしてきている。
が、それは前科持ちの手練れ相手に何時間も聴取を重ね続けた結果、対応に慣れてしまった相手に合わせての交代――それまでに確たる証拠を掴めなかった、警察組織としての敗北――が殆ど、思考を読まれて早期に聴取役を外されるケースは稀である。
出会って数秒、というのは致命的相性としか言えない。
「それで、何と言いますか……当店と甥御さんとの間で、そのトラブルと言いますか……」
洸平〈善意の第三者〉の動向が掴めない守田は、慎重に話を進めるしかない。
歯切れの悪い対応に、漸く自分を取り戻した洸平が口を開いた。
「あの、私、外しましょうか?」
「そうですね」
守田が安堵したのも束の間、次の一手が予定調和を狂わせる。
「その必要はありません。どうぞお掛けになって下さい」
和哉の意外な反応に、洸平は一度浮かせた腰を再び下ろした。
「宜しいのですか?」
怪訝そうな守田の表情からも、この状況が好ましくないのは明らか……。
しかし、「何も問題ありません」ピシャリと言い切られてしまった!
しかし、こちらも同じく、手元には薄手の白い手袋。
「鶴太郎がお世話になりました。叔父の鹿目和哉です。」
(いやいや、どうしたって御曹司と執事でしょ!)
その出で立ちを見て、脳内に『黒の蝶ネクタイ』を補填せずにいられない。
この時の洸平は、未だ妄想に耽る余裕があった。
「ご足労いただきまして。店長の守田です。どうぞお掛けください」
誘われるまま、和哉は鶴太郎の席の隣に着いた。
「こちらは、その……」
切り出し難そうにしてる守田を見て、代わりに答える。
「京都府警の三木です」
成り行き次第で『お役御免』も考えられる……洸平は軽い挨拶で済ませた。
「警察の方? 既に通報されていたんですね」
「あ、いえ。私は偶然、居合わせただけです」
「そう、ですか……」
(同じく、両手のソレを外す気配はない……か)
洸平の、その視線を感じた――和哉が、先に動いた。
「うちの男系は手掌多汗症の者が多くて、これは医師からの処方です」
戦慄が走った。
(まさか! 視線を見抜かれた?)
訓練された刑事の視線運びは独特、素人が容易く見抜けるものでない。
ましてや意図まで汲み取られているとなると、お手上げ!
業務なら即、聴取から外される場面だ。
無論、これまでも同様の経験は幾度となくしてきている。
が、それは前科持ちの手練れ相手に何時間も聴取を重ね続けた結果、対応に慣れてしまった相手に合わせての交代――それまでに確たる証拠を掴めなかった、警察組織としての敗北――が殆ど、思考を読まれて早期に聴取役を外されるケースは稀である。
出会って数秒、というのは致命的相性としか言えない。
「それで、何と言いますか……当店と甥御さんとの間で、そのトラブルと言いますか……」
洸平〈善意の第三者〉の動向が掴めない守田は、慎重に話を進めるしかない。
歯切れの悪い対応に、漸く自分を取り戻した洸平が口を開いた。
「あの、私、外しましょうか?」
「そうですね」
守田が安堵したのも束の間、次の一手が予定調和を狂わせる。
「その必要はありません。どうぞお掛けになって下さい」
和哉の意外な反応に、洸平は一度浮かせた腰を再び下ろした。
「宜しいのですか?」
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しかし、「何も問題ありません」ピシャリと言い切られてしまった!
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