真贋鑑定士 鹿目和哉

千代原口 桂

文字の大きさ
5 / 30
二章

二章 三分の一

しおりを挟む
 細身の割にガッチリとした体格が、身を包んだ上下紺色のスリーピース・スリム越しからも確認出来る。中々の高身長で、一見すると二十代後半の清涼感漂う普通のサラリーマン……。

 しかし、こちらも同じく、手元には薄手の白い手袋。

「鶴太郎がお世話になりました。叔父の鹿目かなめ和哉かずやです。」

(いやいや、どうしたって御曹司と執事でしょ!)

 その出で立ちを見て、脳内に『黒の蝶ネクタイ』を補填せずにいられない。

 この時の洸平は、未だ妄想にふける余裕があった。

「ご足労いただきまして。店長の守田です。どうぞお掛けください」

 いざなわれるまま、和哉は鶴太郎の席の隣に着いた。

「こちらは、その……」

 切り出し難そうにしてる守田を見て、代わりに答える。

「京都府警の三木です」

 成り行き次第で『お役御免』も考えられる……洸平は軽い挨拶で済ませた。

「警察の方? 既に通報されていたんですね」

「あ、いえ。私は偶然、居合わせただけです」

「そう、ですか……」

(同じく、両手のソレを外す気配はない……か)

 洸平の、その視線を感じた――和哉が、先に動いた。

「うちの男系は手掌しゅしょう多汗症たかんしょうの者が多くて、これは医師からの処方です」

 戦慄が走った。

(まさか! 視線を見抜かれた?)

 訓練された刑事の視線運びは独特、素人が容易たやすく見抜けるものでない。

 ましてや意図まで汲み取られているとなると、お手上げ!

 業務なら即、聴取から外される場面だ。

 無論、これまでも同様の経験は幾度となくしてきている。

 が、それは前科持ちの手練れ相手に何時間も聴取を重ね続けた結果、対応に慣れてしまった相手に合わせての交代――それまでに確たる証拠を掴めなかった、警察組織としての敗北――が殆ど、思考を読まれて早期に聴取役を外されるケースは稀である。

 出会って数秒、というのは致命的相性としか言えない。

「それで、何と言いますか……当店と甥御さんとの間で、そのトラブルと言いますか……」

 洸平〈善意の第三者〉の動向が掴めない守田は、慎重に話を進めるしかない。

 歯切れの悪い対応に、ようやく自分を取り戻した洸平が口を開いた。

「あの、私、外しましょうか?」

「そうですね」

 守田が安堵したのも束の間、次の一手が予定調和を狂わせる。

「その必要はありません。どうぞお掛けになって下さい」

 和哉の意外な反応に、洸平は一度浮かせた腰を再び下ろした。

「宜しいのですか?」

 怪訝けげんそうな守田の表情からも、この状況が好ましくないのは明らか……。

 しかし、「何も問題ありません」ピシャリと言い切られてしまった!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...