真贋鑑定士 鹿目和哉

千代原口 桂

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二章

二章 三分の三

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「判りました……では、そちらは甥の鞄から、この商品が出てきたことを以って、窃盗を主張されるのですね?」

「先程から、そう申し上げてるじゃないですか」

「なるほど、では、これは私のCDです」

「は?」

 流石に意表を突かれた。この展開は予想にない。

 言い訳の範疇はんちゅうを越えた『あきれた嘘』にしか聞こえない。

「ですから、これは私の私物だと言ってるんです!」

 まさかの連打に守田の感情が一気にたかぶる。

「何バカなことを! そんな話、誰が信じるんですか!」

 巫山戯ふざけるな、と言わんばかりに立ち上がって抗議した。

「信じられないのも無理ないでしょうが、事実です。昨日、自宅近くのショップで購入しました」

「そんな偶然、ある訳ないでしょう!」

「何故です? 通報前に警察の方が同席される偶然はあるのに?」

 突然、質問の矛先が洸平に向いた。守田は忿懣ふんまんやるかたない表情でドカッと腰を下ろす。

「鹿目さん、流石にその話は無理でしょう? 説得力がありません」

 洸平は率直な感想を述べる。

 しかし、「それは自宅にあるレシートをお見せしても無理ですか?」の一言で、突拍子もない話だったはずの『呆れた嘘』に説得力を与えた。

「いや、そうなれば話は別ですが……」

「同じことです!」

「……何が同じことなのですか?」

 洸平には和哉の意図が掴めない。

「そろそろ宜しいでしょうか? お互い誤解も解けたようですし、これ以上お話しすることもないでしょう」

 その終結宣言は、あまりに唐突で到底受け入れられるものではないと思えた。

 しかし、洸平の思いを他所よそに、突如幕は下される。

「どうぞ、お引き取りいただいて結構です」

 それは予定調和のような段取りで、守田に受け入れられた。

「え? いやいや、ちょっと待って下さい! どう言うことですか?」

 置いてけぼりの状況に、戸惑いを隠せない洸平が守田に詰め寄る。

「おっと、忘れないうちに」

 和哉は、机のCDを取り上げると鶴太郎にそれを手渡した。

「どう言う経緯か、私の私物が紛れ込んでいたせいで、お前に迷惑をかけた。これは詫びだ」

 悠然と去って行く二つの背中を、洸平は黙って見届けるしかなかった。
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