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五章
五章 四分の二
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「今日はクライアントとして仕事の依頼に来たのよ」
「では、稔侍翁の名代ですか?」
先々代からの贔屓筋として、稔侍翁の依頼は幾度も熟していた。
「違うわよ! まぁ、お爺様も関係はしてるけど……『銀座 匠』としての正式な依頼よ」
だが、瑞稀から直接仕事を頼まれたことは、これまで一度も無かった。
「そうでしたか……まぁ、立ち話もなんですし、奥へどうぞ」
「条件は二つよ!」
少しは前向きに捉えようとした傍からの先制パンチ!
「ちょっと待って下さい……何時承諾すると言いました?」
「いいえ、貴方はこの話を絶対に受ける! でも、いつも見たく勝手気ままに仕事されちゃ困るのよ。だから条件を飲んでもらうの。その一つが期限の厳守よ!」
瑞稀にとって『宿敵の弟』は――弟と言えども、今以って――油断ならない相手なのだ。
「全く、何を言い出すかと思えば……。いいですか、私の仕事は何時だって、迅速かつ明朗がモットーですよ。期限など損なったことは愚か、半分も費やしたことがありません」
「ええ、だからダメなの。今回の依頼は期限を目一杯使って欲しいの、半年間フルにね!」
却って、条件の方に食指が動く。
「……馬鹿馬鹿しいとは思いますが、後学のため二つ目を伺っても?」
「もう一つは、期限内にお爺様を本店に近づけないで欲しいの。鑑定に帯同すれば簡単に済む話でしょ?」
「……それは、稔侍翁が帯同したがる案件ということですか?」
「保証するわ! そんなことで駆け引きしたって意味ないもの」
「因みに、稔侍翁を本店から遠ざける理由はなんです?」
「やだ、和哉ったら! 貴方、何時からそんなことに興味持つようになったの?」
驚いた! 確かに、その通りだと思った。
(何時からも何も、そんなこと気にするようになった自覚がない)
だから、瑞稀の指摘は当然で、驚くに値しない。
驚いたのは自分自身……鹿目和哉に驚いた!
少なくとも、瑞稀の中の人物像に『あの質問』は無い。
同様に、自分の中の鹿目和哉にも『あの質問』は無い。
両者の間で、鹿目和哉の人物像は一致している。
ところが、現実には『あの質問』を投げかけた、所在の知れない鹿目和哉が存在している……。
だが、そこで途絶えた……。それ以上興味を保てない。
和哉は平常通りの思考に安堵して、これに蓋をした。
「では、稔侍翁の名代ですか?」
先々代からの贔屓筋として、稔侍翁の依頼は幾度も熟していた。
「違うわよ! まぁ、お爺様も関係はしてるけど……『銀座 匠』としての正式な依頼よ」
だが、瑞稀から直接仕事を頼まれたことは、これまで一度も無かった。
「そうでしたか……まぁ、立ち話もなんですし、奥へどうぞ」
「条件は二つよ!」
少しは前向きに捉えようとした傍からの先制パンチ!
「ちょっと待って下さい……何時承諾すると言いました?」
「いいえ、貴方はこの話を絶対に受ける! でも、いつも見たく勝手気ままに仕事されちゃ困るのよ。だから条件を飲んでもらうの。その一つが期限の厳守よ!」
瑞稀にとって『宿敵の弟』は――弟と言えども、今以って――油断ならない相手なのだ。
「全く、何を言い出すかと思えば……。いいですか、私の仕事は何時だって、迅速かつ明朗がモットーですよ。期限など損なったことは愚か、半分も費やしたことがありません」
「ええ、だからダメなの。今回の依頼は期限を目一杯使って欲しいの、半年間フルにね!」
却って、条件の方に食指が動く。
「……馬鹿馬鹿しいとは思いますが、後学のため二つ目を伺っても?」
「もう一つは、期限内にお爺様を本店に近づけないで欲しいの。鑑定に帯同すれば簡単に済む話でしょ?」
「……それは、稔侍翁が帯同したがる案件ということですか?」
「保証するわ! そんなことで駆け引きしたって意味ないもの」
「因みに、稔侍翁を本店から遠ざける理由はなんです?」
「やだ、和哉ったら! 貴方、何時からそんなことに興味持つようになったの?」
驚いた! 確かに、その通りだと思った。
(何時からも何も、そんなこと気にするようになった自覚がない)
だから、瑞稀の指摘は当然で、驚くに値しない。
驚いたのは自分自身……鹿目和哉に驚いた!
少なくとも、瑞稀の中の人物像に『あの質問』は無い。
同様に、自分の中の鹿目和哉にも『あの質問』は無い。
両者の間で、鹿目和哉の人物像は一致している。
ところが、現実には『あの質問』を投げかけた、所在の知れない鹿目和哉が存在している……。
だが、そこで途絶えた……。それ以上興味を保てない。
和哉は平常通りの思考に安堵して、これに蓋をした。
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