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八章
八章 五分の三
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旧国立競技場の解体現場に突如現れた、巨大なグラフィティー・アートは価値も推されぬままに取り壊された。
以来、表立った活動を残していない『やつがれトンキー』……。
その儚さが共感を呼び、世界中の創作家の意欲を掻き立てた!
アンサーアートやオマージュは、彼を表舞台に引っ張り出すメッセージばかり、中には喧嘩口調のものまである。
公にされていないが、当時、解体作業中断に奔走した人物が一人いた。
稔侍翁だ。
だが、国家事業の既定路線が簡単に覆ることもなく、作業は続行されてしまう。
最終的には、一部でも残して新たな競技場として生まれ変わらせる案も提唱したが、頭の固い招致委員会に提案ごと握り潰された。
彼ら曰く、「悪戯書きに割く予算は無い」とまで言われて……。
この発言は、後に次大会の開催都市パリの招致委員会から『愚かな発言』と非難され、白日の下に晒される。
フランスで絶大な影響力を持つ『お孫さん』のロビィ活動が挙げた賜物だった。
つまり、曰く付きの相手なのだ。簡単に折れる筈がない!
しかも、相棒は『真贋鑑定士』、昔者は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
手始めの、近畿三ヶ所に点在する十五作品の鑑定には当然、帯同した。
京都六地蔵、大阪阿倍野、滋賀坂本、三つの地域に分かれた理由は単純で、その順番が作品の変遷となっていた。
おそらく当時の『やつがれトンキー』の生活圏だったに相違ない。
滋賀に関しては、旧国立競技場より後に制作されたことも判った。
消息を辿る、重要な発見と言える。
「鑑定でそんなことまで判ってしまうのか!」
稔侍翁が驚くのも無理はないが、これにはカラクリがある。
「判りませんよ。ただ、『やつがれトンキー』が変わり者で、それがオリジナルの特徴でもあるんです!」
「意味が知れん」
「最初に日付を描くんですよ。その上から下地塗りして制作してるんです」
「なんと!」
「だから、作品の正確な作成日が判ります! 嘘の日付じゃ無かったらですけど」
作風に関しては、例に違わずバラバラで地域による類似性も感じられなかった。
「それにしても、こうまで作風の幅が広いとは……」
これには、稔侍翁も唸りをあげた。
以来、表立った活動を残していない『やつがれトンキー』……。
その儚さが共感を呼び、世界中の創作家の意欲を掻き立てた!
アンサーアートやオマージュは、彼を表舞台に引っ張り出すメッセージばかり、中には喧嘩口調のものまである。
公にされていないが、当時、解体作業中断に奔走した人物が一人いた。
稔侍翁だ。
だが、国家事業の既定路線が簡単に覆ることもなく、作業は続行されてしまう。
最終的には、一部でも残して新たな競技場として生まれ変わらせる案も提唱したが、頭の固い招致委員会に提案ごと握り潰された。
彼ら曰く、「悪戯書きに割く予算は無い」とまで言われて……。
この発言は、後に次大会の開催都市パリの招致委員会から『愚かな発言』と非難され、白日の下に晒される。
フランスで絶大な影響力を持つ『お孫さん』のロビィ活動が挙げた賜物だった。
つまり、曰く付きの相手なのだ。簡単に折れる筈がない!
しかも、相棒は『真贋鑑定士』、昔者は胸の高鳴りを抑えきれなかった。
手始めの、近畿三ヶ所に点在する十五作品の鑑定には当然、帯同した。
京都六地蔵、大阪阿倍野、滋賀坂本、三つの地域に分かれた理由は単純で、その順番が作品の変遷となっていた。
おそらく当時の『やつがれトンキー』の生活圏だったに相違ない。
滋賀に関しては、旧国立競技場より後に制作されたことも判った。
消息を辿る、重要な発見と言える。
「鑑定でそんなことまで判ってしまうのか!」
稔侍翁が驚くのも無理はないが、これにはカラクリがある。
「判りませんよ。ただ、『やつがれトンキー』が変わり者で、それがオリジナルの特徴でもあるんです!」
「意味が知れん」
「最初に日付を描くんですよ。その上から下地塗りして制作してるんです」
「なんと!」
「だから、作品の正確な作成日が判ります! 嘘の日付じゃ無かったらですけど」
作風に関しては、例に違わずバラバラで地域による類似性も感じられなかった。
「それにしても、こうまで作風の幅が広いとは……」
これには、稔侍翁も唸りをあげた。
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