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八章
八章 五分の二
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視える……和哉がそう表現する『視える』は、ちょっと特殊で、一般的な意味としては『触れる』に近い。
それも『或る特定の部位に触れる』こと、具体的には左手の薬指のつけ根にある『痣に触れる』ことを指す。
その痣に直接モノが触れると不思議なことにモノに残された痕跡〈記録〉を感じ取ることが出来るという。
時代を経ても色褪せることがなく、時には触れた人の意思や感情までも伝えようとしてくる……痕跡。
鹿目家は代々、その能力を受け継いできた家系――辿れば、開祖は江戸時代後期まで遡る。
松平治郷、出雲国松江藩は雲州松平家、第七代松江藩藩主。
不昧公の名で知られる大名茶人は、自身で収集した茶道具の目録『雲州名物帳』執筆中に、偶然できた痣から名物の声が聞こえるようになったと口伝されている。
後に刊行される大名物図鑑『古今名物類聚』は、その能力を揺るぎなくした名著と言われ、現代に続く古美術鑑定の基礎を築いた『真贋鑑定士』誕生の秘話として囁かれている。
不昧公の没後『心眼』と称された能力は、痣と共に、その系譜に不定期ながらも脈々と受け継がれ、現在に至っている。
しかし、その事実は殆ど公表には至らない。
鑑定における『絶対を保証出来る能力』など、身を危険に晒すだけで命がいくつあっても足りないのだ。
それは今回スポンサーを務める、花山瑞稀も例外ではない。
依頼は、新たに発見された『やつがれトンキー』の現存作品と目される十五点の真贋鑑定、及び作者の特定と契約の締結……。
だが、鑑定以降の結果は二の次だ。
「春先まで、お爺ちゃんのお世話をお願い!」
帯同する依頼人、稔侍翁に本店を離れさせることが真の狙い。
期間を目一杯使って、関西圏に留めて欲しいと言われた。
ところが思惑は交錯する。
「最後にもう一花、世界に羽ばたく若者を育てるんじゃ!」
同時に、この依頼は稔侍翁の悲願でもあるのだ。
それも『或る特定の部位に触れる』こと、具体的には左手の薬指のつけ根にある『痣に触れる』ことを指す。
その痣に直接モノが触れると不思議なことにモノに残された痕跡〈記録〉を感じ取ることが出来るという。
時代を経ても色褪せることがなく、時には触れた人の意思や感情までも伝えようとしてくる……痕跡。
鹿目家は代々、その能力を受け継いできた家系――辿れば、開祖は江戸時代後期まで遡る。
松平治郷、出雲国松江藩は雲州松平家、第七代松江藩藩主。
不昧公の名で知られる大名茶人は、自身で収集した茶道具の目録『雲州名物帳』執筆中に、偶然できた痣から名物の声が聞こえるようになったと口伝されている。
後に刊行される大名物図鑑『古今名物類聚』は、その能力を揺るぎなくした名著と言われ、現代に続く古美術鑑定の基礎を築いた『真贋鑑定士』誕生の秘話として囁かれている。
不昧公の没後『心眼』と称された能力は、痣と共に、その系譜に不定期ながらも脈々と受け継がれ、現在に至っている。
しかし、その事実は殆ど公表には至らない。
鑑定における『絶対を保証出来る能力』など、身を危険に晒すだけで命がいくつあっても足りないのだ。
それは今回スポンサーを務める、花山瑞稀も例外ではない。
依頼は、新たに発見された『やつがれトンキー』の現存作品と目される十五点の真贋鑑定、及び作者の特定と契約の締結……。
だが、鑑定以降の結果は二の次だ。
「春先まで、お爺ちゃんのお世話をお願い!」
帯同する依頼人、稔侍翁に本店を離れさせることが真の狙い。
期間を目一杯使って、関西圏に留めて欲しいと言われた。
ところが思惑は交錯する。
「最後にもう一花、世界に羽ばたく若者を育てるんじゃ!」
同時に、この依頼は稔侍翁の悲願でもあるのだ。
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