ルビアーナの恋

素亭子

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その日も雨が降っていた。

梅雨寒という感じで朝から冷たい雨が降り続いて、時々激しくたたきつけるように降っ

てくる。こんな日に限って、勤務者が少ないどうしても休めない出勤日だ。御者に申し訳

なく思いながらも、雨の中馬車で病院まで送ってもらう。リンデルがいたらこんな寒い雨

の日に仕事?!と怒られそうだが、幸い?今は商社の方が忙しいらしく、州都と王都を行

ったり来たりでここ何日か領主館には帰ってきていなかった。

馬車を降りて仕事に遅れそうなので慌てて小走りになりながら、私は無意識にお腹をさす

っていた。ようやくつわりが良くなってきた感じがするけれど、ここ2,3日、なんだがお

腹に違和感を感じていたのだ。


雨でも患者さんはやって来る。あっという間に午前中が過ぎ、やれやれ・・と持たせても

らったお弁当を持って食堂に向かう。

同僚との話に夢中になって、よそ見をしていたのが悪かった。廊下のちょっとした雨の水

たまりに足を滑らせて、横向きに転んで思い切り腰の横を打ち付けてしまった。ぶつけた

所が凄く痛かったけど、周りがオロオロするのがいたたまれなくて、直ぐに立ち上がって

大丈夫、と手を振った。

異変が起きたのは夜だった。ベッドに横になって布団をかぶって寝ようとすると、シクシ

クした痛みから、突然刺されるような激痛に変わったお腹の痛みで動けなくなった。

呼び鈴でメイドを呼びたいがベルはサイドテーブルの上だ。なんとかベッドの上を這うよ

うにして体をずらして呼び鈴を鳴らす。トイレに行けば少し良くなるかも・・・サイドテ

ーブルに手をついてなんとか立ち上がると、太ももの内側を生温かいものが流れるのがわ

かった。痛みで朦朧となりながら足元を見ると赤い血だまりが見えて、私は崩れるように

座り込み、意識がなくなった。


目が覚めると、自分の部屋でも、夫婦の寝室でもない白い天井が見えた。知らないうちに

涙がどんどん流れ落ちて、上を向いているので頭の左右の枕を濡らしていった。出したく

ないのに声が出てしまう・・・。「うっ・・・ううっくっ・・」両手で口を覆うが体まで

揺れてきて、声なんて出したくないのに泣き声が止められなくなった。

どうして転んだ時にすぐ医者(先生)に見せなかったんだろう・・・病院に居たのに・・・
どうしてお腹が変だと思ったのに仕事に行ったんだろう・・・・
どうしてもっと気をつけなかったんだろう・・・
どうして・・・

「ルビアーナ!!」

泣き声が聞こえたのかリンデルが突然入ってきて、布団の上から私をギュッと抱きしめ

た。「まだどこか痛むの?大丈夫だよ、私はずっとここにいる。」抱きしめて、頭をやさし

く撫でられると、悲しくて余計に涙が止まらなくなった。

「ごめんなさい・・あんなに楽しみにしてくれていたのに・・・私・・・私はっ・・・」

ごめんなさいリンデル・・・ごめんなさい赤ちゃん・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・

私はこの子が欲しかった・・・私はこの子が大切だった・・・・私とリンデルを繋いでくれる・・・私の大切な人との大事な子・・・。

そう・・・私はいつのまにか・・・リンデルのことを愛していたのだ・・・。
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