ルビアーナの恋

素亭子

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16 リンデルside

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その夜のルビアーナは明らかに変だった。「一緒に王都に行きたい」と言ってくれた彼女を、州都の領主館に置いてきたことに一種の心苦しさを覚えながら、毎晩王都から電話をしていた。最初は戸惑っていた彼女も、毎日同じ時間帯に電話で話すことで少しずつ慣れてきて、本来の明るさを取り戻してきていたようだった。離れていても毎晩彼女の声を聴けることが、毎日の私自身の励みにもなっていた。だからこそ、王都に来て5日目のあの夜は彼女から電話をしてくれることを楽しみにしていたのだ。

その日は、朝からアンジェラの新しいオフィスとなるところで最後の詰めの作業を行っていた。アンジェラと義母は元々王都の旧家出身の貴族だ。父が王都での事業拡大をねらって未亡人となっていた義母と再婚したのも、王都での義母とその兄の旧家が持つ、貴族間のつながりを当てにしてのことだった。アンジェラにとって伯父にあたる旧家の伯爵は、年の離れた妹にあたる義母が若くして未亡人となったことを不憫に思っており、その娘のアンジェラのことも本当の孫のようにかわいがっていた。だからこそ私が領主と成った時にはアンジェラとの婚姻を強くすすめたし、それがダメなら自分の息のかかった貴族の娘を領主婦人にさせようと必死になっていたのだ。私が自領の代官の娘、ルビアーナを妻に迎えたときは、王都での仕事に地味な嫌がらせをしてきた。まぁ、それは、アンジェラがカナンで自分がないがしろにされている!!と伯父に泣きついたというのもあるのだろうが・・・。

だからこそ私は決めたのだ。州都からアンジェラを遠ざけ、二度と領主館に来ることがないようにすると。元々カナンを田舎と言って嫌がり、王都での暮らしが好きなアンジェラに、王都での居場所を作ってやって、王都から離れられないようにすることを。
はっきりいってアンジェラに経営ができるとは思えないが、大枚をはたいて仕事の後押しをしてやれば、自分がないがしろにされているなどとは言えなくなるはずだ。その上で契約書に二度と領主館に足を踏み入れないこと、私やルビアーナに関わらないことを記入しておけばいい。今回王都に来たのは、その目的のためだったといってもいい。まぁ綺麗なことばかりではないので、ルビアーナに見せたくなかったというのもあるのだが・・・。

そう、その日アンジェラのオフィスで夕方まで作業に追われ、気が付けば時計は六時を回っていた。宿にしているホテルはアンジェラもアンドリューも同じところなので、アンジェラは一緒に馬車で帰ることを進めたが、別作業でアンドリューがいないのに2人きりで馬車に乗るのはごめんこうむりたかった。先にアンジェラを帰らせ、私がオフィスを出ると、雨が降り出したばかりだった。

走ればホテルまでは10分とかからない。ルビアーナからの電話には何としても間に合いたかった。私は小走りにホテルまでの道を急いだが、雨が途中から本降りとなって、ホテルに着く頃は下着まで雨でぐっしょりという悲惨な状況だった。フロントで鍵を受け取るつもりが既にアンジェラが私の部屋の鍵まで受け取って上がったという。余計なことを!と内心舌打ちして、急いで部屋に上がる。自分の部屋をノックすると、アンジェラが顔を出し、雨に濡れて帰るだろうからお風呂を入れておいた、自分はもう部屋に帰るところだという。「すまない」そう言って慌てて浴室に入って鍵をかける。あと15分で7時になってしまう、濡れた寒さで少し震えながら慌てて風呂につかりながらシャワーを浴びた。いつのもところに手を伸ばすとバスタオルがない!・・・。慌てて裸に浴用タオルを腰に巻き付けて外に出ようとしたが、未だアンジェラが部屋にいるのならこの格好で出るのはまずい。7時まであと10分を切っている。浴室のドアを少し開け「アンジェラ!バスタオルどこやったんだ!」と、もうすでにいないかもしれないと思いながら確かめるつもりで声をかけた。するとアンジェラがこちらに来て、さっき手を洗ったときに使って、外にだしてしまったとドア越しにバスタオルを渡してきた。なんで未だ居たんだ?と思いながら着替えて浴室からでると、アンジェラはもういなかった。

7時5分前、そろそろかとルビアーナからの電話を待つ。5分、10分と待つがいっこうに電話が鳴らないことに焦れて、7時15分には自分から電話を掛けてしまった。暫く呼び出し音がしたあとに出たロバートが、「旦那様?!先ほど奥様がお電話されてお話されたのではないのですか?」とビックリしたように言う。
??!!シャワーをしていた時に電話してくれてたのか!
雨に濡れてシャワーを浴びていた、せっかく電話してくれたのにごめん、と謝ると、「そう・・」と少し小さな声でルビアーナは答える。いつものように色々な話を振るが、ハイ・・ハイ・・とそっけない返事が返ってくるだけだった。

おかしい・・・何かあったのか?話しながらルビアーナの様子がいつもと違うことに気が付いたが、彼女は「大丈夫・・」というだけで何も話してくれなかった。
近くにいないのがもどかしく感じ、なんとか予定を早めて・・・明後日には帰ろうと決めた。

(愛してるよ、ルビアーナ)そう言いたかったが、電話で初めていうことじゃない、全てをかたずけて、目の前にいる彼女を抱きしめて言いたいと思った。

だが・・・・・
電話を切った翌日、彼女は領主館からいなくなってしまった。

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