16 / 24
16 リンデルside
しおりを挟む
その夜のルビアーナは明らかに変だった。「一緒に王都に行きたい」と言ってくれた彼女を、州都の領主館に置いてきたことに一種の心苦しさを覚えながら、毎晩王都から電話をしていた。最初は戸惑っていた彼女も、毎日同じ時間帯に電話で話すことで少しずつ慣れてきて、本来の明るさを取り戻してきていたようだった。離れていても毎晩彼女の声を聴けることが、毎日の私自身の励みにもなっていた。だからこそ、王都に来て5日目のあの夜は彼女から電話をしてくれることを楽しみにしていたのだ。
その日は、朝からアンジェラの新しいオフィスとなるところで最後の詰めの作業を行っていた。アンジェラと義母は元々王都の旧家出身の貴族だ。父が王都での事業拡大をねらって未亡人となっていた義母と再婚したのも、王都での義母とその兄の旧家が持つ、貴族間のつながりを当てにしてのことだった。アンジェラにとって伯父にあたる旧家の伯爵は、年の離れた妹にあたる義母が若くして未亡人となったことを不憫に思っており、その娘のアンジェラのことも本当の孫のようにかわいがっていた。だからこそ私が領主と成った時にはアンジェラとの婚姻を強くすすめたし、それがダメなら自分の息のかかった貴族の娘を領主婦人にさせようと必死になっていたのだ。私が自領の代官の娘、ルビアーナを妻に迎えたときは、王都での仕事に地味な嫌がらせをしてきた。まぁ、それは、アンジェラがカナンで自分がないがしろにされている!!と伯父に泣きついたというのもあるのだろうが・・・。
だからこそ私は決めたのだ。州都からアンジェラを遠ざけ、二度と領主館に来ることがないようにすると。元々カナンを田舎と言って嫌がり、王都での暮らしが好きなアンジェラに、王都での居場所を作ってやって、王都から離れられないようにすることを。
はっきりいってアンジェラに経営ができるとは思えないが、大枚をはたいて仕事の後押しをしてやれば、自分がないがしろにされているなどとは言えなくなるはずだ。その上で契約書に二度と領主館に足を踏み入れないこと、私やルビアーナに関わらないことを記入しておけばいい。今回王都に来たのは、その目的のためだったといってもいい。まぁ綺麗なことばかりではないので、ルビアーナに見せたくなかったというのもあるのだが・・・。
そう、その日アンジェラのオフィスで夕方まで作業に追われ、気が付けば時計は六時を回っていた。宿にしているホテルはアンジェラもアンドリューも同じところなので、アンジェラは一緒に馬車で帰ることを進めたが、別作業でアンドリューがいないのに2人きりで馬車に乗るのはごめんこうむりたかった。先にアンジェラを帰らせ、私がオフィスを出ると、雨が降り出したばかりだった。
走ればホテルまでは10分とかからない。ルビアーナからの電話には何としても間に合いたかった。私は小走りにホテルまでの道を急いだが、雨が途中から本降りとなって、ホテルに着く頃は下着まで雨でぐっしょりという悲惨な状況だった。フロントで鍵を受け取るつもりが既にアンジェラが私の部屋の鍵まで受け取って上がったという。余計なことを!と内心舌打ちして、急いで部屋に上がる。自分の部屋をノックすると、アンジェラが顔を出し、雨に濡れて帰るだろうからお風呂を入れておいた、自分はもう部屋に帰るところだという。「すまない」そう言って慌てて浴室に入って鍵をかける。あと15分で7時になってしまう、濡れた寒さで少し震えながら慌てて風呂につかりながらシャワーを浴びた。いつのもところに手を伸ばすとバスタオルがない!・・・。慌てて裸に浴用タオルを腰に巻き付けて外に出ようとしたが、未だアンジェラが部屋にいるのならこの格好で出るのはまずい。7時まであと10分を切っている。浴室のドアを少し開け「アンジェラ!バスタオルどこやったんだ!」と、もうすでにいないかもしれないと思いながら確かめるつもりで声をかけた。するとアンジェラがこちらに来て、さっき手を洗ったときに使って、外にだしてしまったとドア越しにバスタオルを渡してきた。なんで未だ居たんだ?と思いながら着替えて浴室からでると、アンジェラはもういなかった。
7時5分前、そろそろかとルビアーナからの電話を待つ。5分、10分と待つがいっこうに電話が鳴らないことに焦れて、7時15分には自分から電話を掛けてしまった。暫く呼び出し音がしたあとに出たロバートが、「旦那様?!先ほど奥様がお電話されてお話されたのではないのですか?」とビックリしたように言う。
??!!シャワーをしていた時に電話してくれてたのか!
雨に濡れてシャワーを浴びていた、せっかく電話してくれたのにごめん、と謝ると、「そう・・」と少し小さな声でルビアーナは答える。いつものように色々な話を振るが、ハイ・・ハイ・・とそっけない返事が返ってくるだけだった。
おかしい・・・何かあったのか?話しながらルビアーナの様子がいつもと違うことに気が付いたが、彼女は「大丈夫・・」というだけで何も話してくれなかった。
近くにいないのがもどかしく感じ、なんとか予定を早めて・・・明後日には帰ろうと決めた。
(愛してるよ、ルビアーナ)そう言いたかったが、電話で初めていうことじゃない、全てをかたずけて、目の前にいる彼女を抱きしめて言いたいと思った。
だが・・・・・
電話を切った翌日、彼女は領主館からいなくなってしまった。
その日は、朝からアンジェラの新しいオフィスとなるところで最後の詰めの作業を行っていた。アンジェラと義母は元々王都の旧家出身の貴族だ。父が王都での事業拡大をねらって未亡人となっていた義母と再婚したのも、王都での義母とその兄の旧家が持つ、貴族間のつながりを当てにしてのことだった。アンジェラにとって伯父にあたる旧家の伯爵は、年の離れた妹にあたる義母が若くして未亡人となったことを不憫に思っており、その娘のアンジェラのことも本当の孫のようにかわいがっていた。だからこそ私が領主と成った時にはアンジェラとの婚姻を強くすすめたし、それがダメなら自分の息のかかった貴族の娘を領主婦人にさせようと必死になっていたのだ。私が自領の代官の娘、ルビアーナを妻に迎えたときは、王都での仕事に地味な嫌がらせをしてきた。まぁ、それは、アンジェラがカナンで自分がないがしろにされている!!と伯父に泣きついたというのもあるのだろうが・・・。
だからこそ私は決めたのだ。州都からアンジェラを遠ざけ、二度と領主館に来ることがないようにすると。元々カナンを田舎と言って嫌がり、王都での暮らしが好きなアンジェラに、王都での居場所を作ってやって、王都から離れられないようにすることを。
はっきりいってアンジェラに経営ができるとは思えないが、大枚をはたいて仕事の後押しをしてやれば、自分がないがしろにされているなどとは言えなくなるはずだ。その上で契約書に二度と領主館に足を踏み入れないこと、私やルビアーナに関わらないことを記入しておけばいい。今回王都に来たのは、その目的のためだったといってもいい。まぁ綺麗なことばかりではないので、ルビアーナに見せたくなかったというのもあるのだが・・・。
そう、その日アンジェラのオフィスで夕方まで作業に追われ、気が付けば時計は六時を回っていた。宿にしているホテルはアンジェラもアンドリューも同じところなので、アンジェラは一緒に馬車で帰ることを進めたが、別作業でアンドリューがいないのに2人きりで馬車に乗るのはごめんこうむりたかった。先にアンジェラを帰らせ、私がオフィスを出ると、雨が降り出したばかりだった。
走ればホテルまでは10分とかからない。ルビアーナからの電話には何としても間に合いたかった。私は小走りにホテルまでの道を急いだが、雨が途中から本降りとなって、ホテルに着く頃は下着まで雨でぐっしょりという悲惨な状況だった。フロントで鍵を受け取るつもりが既にアンジェラが私の部屋の鍵まで受け取って上がったという。余計なことを!と内心舌打ちして、急いで部屋に上がる。自分の部屋をノックすると、アンジェラが顔を出し、雨に濡れて帰るだろうからお風呂を入れておいた、自分はもう部屋に帰るところだという。「すまない」そう言って慌てて浴室に入って鍵をかける。あと15分で7時になってしまう、濡れた寒さで少し震えながら慌てて風呂につかりながらシャワーを浴びた。いつのもところに手を伸ばすとバスタオルがない!・・・。慌てて裸に浴用タオルを腰に巻き付けて外に出ようとしたが、未だアンジェラが部屋にいるのならこの格好で出るのはまずい。7時まであと10分を切っている。浴室のドアを少し開け「アンジェラ!バスタオルどこやったんだ!」と、もうすでにいないかもしれないと思いながら確かめるつもりで声をかけた。するとアンジェラがこちらに来て、さっき手を洗ったときに使って、外にだしてしまったとドア越しにバスタオルを渡してきた。なんで未だ居たんだ?と思いながら着替えて浴室からでると、アンジェラはもういなかった。
7時5分前、そろそろかとルビアーナからの電話を待つ。5分、10分と待つがいっこうに電話が鳴らないことに焦れて、7時15分には自分から電話を掛けてしまった。暫く呼び出し音がしたあとに出たロバートが、「旦那様?!先ほど奥様がお電話されてお話されたのではないのですか?」とビックリしたように言う。
??!!シャワーをしていた時に電話してくれてたのか!
雨に濡れてシャワーを浴びていた、せっかく電話してくれたのにごめん、と謝ると、「そう・・」と少し小さな声でルビアーナは答える。いつものように色々な話を振るが、ハイ・・ハイ・・とそっけない返事が返ってくるだけだった。
おかしい・・・何かあったのか?話しながらルビアーナの様子がいつもと違うことに気が付いたが、彼女は「大丈夫・・」というだけで何も話してくれなかった。
近くにいないのがもどかしく感じ、なんとか予定を早めて・・・明後日には帰ろうと決めた。
(愛してるよ、ルビアーナ)そう言いたかったが、電話で初めていうことじゃない、全てをかたずけて、目の前にいる彼女を抱きしめて言いたいと思った。
だが・・・・・
電話を切った翌日、彼女は領主館からいなくなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる