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季節は晩秋から冬の気配を感じさせるものに変わってきていた。内陸で、シマエーガより少し北にあるテンバーの方が、少し早く季節が進んでいる気がした。
やっとリンデルに少し返せるものができたことばかり気にしていたので、住んでいる町から商会宛に送金してしまったと後から気が付いた。
(彼は私を探すだろうか?)
(私は探して欲しいのかな・・・)彼の傍に居たくないわけじゃない、でも、自分以外の誰かが傍にいるのは見たくない・・・。
はぁ・・・気づかないうちに何度も溜め息をついてしまっていたみたいだ。
「今日はなんだかずっと上の空みたいだな」ベンに言われて初めて気が付いた。
彼の方を見ると、なんだか思いつめたような眼をして、いつもとは雰囲気が違う気がした。
「貴方もなんだか今日は元気がない気がするけど?」
「そう?今日はさ、誕生日なんだよね、俺の」椅子に寄りかかりながら頭の後ろで腕を組み、彼が答える
「?じゃあ、おめでたい日なんじゃないの?なんでそれで元気がないのかわからないんだけど?」
「うん・・・誕生日だけど・・・・・・命日なんだよね・・・・。俺の家族の・・・。」
「え!?どういうこと??!」そういえば、指輪をしてるから結婚はしてるんだろうけど、御家族のことは聞いたことなかったかも・・・・・でも命日って・・・・。
「知り合って半年近くなるけど、お互いのこと全く話さないもんな、俺たち」
「・・・・・・・」
「君だって指輪してるけど、一人暮らしだろ?不思議だったけど、まぁ詮索するようなことじゃないし、仕事に関係ないしな」
「今日さ、夕飯一緒に食べてくれない?湖亭でごちそうするからさ」
「俺も一人暮らしなんだよね、実は。でも今日は、晩飯一人で取る気になれないから」
「一人暮らし?・・・・・」ベンも一人暮らしって・・・どういうこと?
患者さんがみえたので、一旦この話は中断したけれど、その後からベンのことが気になって仕方なかった。リンデル以外の人のことをこんなに考えるのは本当に久しぶりな気がした。
「もう分かっちゃったかもしれないけど、俺の家族っていうのは、奥さんと子供のことね」その日、湖亭で聞いたベンの話は衝撃的なものだった。彼は左手の指輪を時折触りながら話をしてくれた。
「もう7年前になるけど、その頃俺は王都の病院に勤めてたんだよね。まだ医者になったばっかりで、やる気だけはあるけど、たいして使えない新人でさ」
「奥さんは俺と幼馴染で、ルビアーナと同じ、看護師だったんだよ」
どこか懐かしむような遠い目をして、ベンは続ける。
「結婚して初めての自分の誕生日なんて忘れててさ、その日、当直してたんだよ」
「そしたら・・・そこに奥さんが弁当差し入れてくれて・・・俺の好物ばっかりでさ・・・帰ってきたら凄いプレゼントがあるからって嬉しそうに話してくれて・・・。」
そのあと、ベンは目の前のビールを飲んで、ぐっと口を拭った後、一息ついて続けた。
「プレゼントって何?って聞いても教えてくれなくてさ、明日楽しみに帰ってきてって・・・・でも彼女は帰りに・・・」
「・・・・・ベン?」
話を続けられなくなって、目をつぶって必死に涙をこらえている彼を見ていられなくなった。思わずテーブルの上で握りしめているベンの手にそっと触れると、ビクッとしたようにベンは体を動かして、目を何度もしばたたかせた。
「ごめん、彼女と彼女のお腹の子を無くしてから、初めて人にこの話をした・・。」
「馬車の事故で二人を亡くして・・・辛くて、王都にいられなくて、彼女の故郷でもあるテンバーに来たんだ。俺たち2人とも王都にいるころに親を亡くしてるから、知り合いもたいしていないから詮索されることもないし」
ベンは普段口も悪いし、基本明るいけど、時々思いつめたように黙って遠くを見ていることがあった。
会いたいけど、もう決して会えない大切な人・・・。ベンの気持ちを考えると、私もいつの間にか涙ぐんでしまっていた。
「ありがとう、聞いてくれて・・・・ごめんな、泣かせちまって・・・。」
差し出してくれたハンカチを断って、自分の持っていたもので涙を拭きながらゆっくりと首を横に振る。
「いつもは浴びるほど酒飲んで無理やり寝るんだけどさ、ルビアーナには話を聞いてもらってもいい気がして・・・・」
「彼女とさ、顔は似てないけど、雰囲気が似てるんだ・・優しくて、ちょっとたれ目なとことかも・・・」
「ルビアーナも俺のこと誰かと重ねて見てるだろ?」
その言葉にビックリしてベンを見ると、優しそうに微笑んでるベンと目が合った。
「時々、俺のこと、少し悲しそうにジッと見てる・・・・・だろ?」
そう言われて、顔が赤くなってしまったのがわかる。
「ごめんなさい・・・」
「いいよ、別に。嫌じゃないし」
ビールのグラスを持つと、私にも飲み物のグラスを持つよう促した。
「今日は付き合ってくれてありがとな、これからもよろしく、ルビアーナ!」
この日の食事会から、私とベンとの距離は少し近くなっていった。
やっとリンデルに少し返せるものができたことばかり気にしていたので、住んでいる町から商会宛に送金してしまったと後から気が付いた。
(彼は私を探すだろうか?)
(私は探して欲しいのかな・・・)彼の傍に居たくないわけじゃない、でも、自分以外の誰かが傍にいるのは見たくない・・・。
はぁ・・・気づかないうちに何度も溜め息をついてしまっていたみたいだ。
「今日はなんだかずっと上の空みたいだな」ベンに言われて初めて気が付いた。
彼の方を見ると、なんだか思いつめたような眼をして、いつもとは雰囲気が違う気がした。
「貴方もなんだか今日は元気がない気がするけど?」
「そう?今日はさ、誕生日なんだよね、俺の」椅子に寄りかかりながら頭の後ろで腕を組み、彼が答える
「?じゃあ、おめでたい日なんじゃないの?なんでそれで元気がないのかわからないんだけど?」
「うん・・・誕生日だけど・・・・・・命日なんだよね・・・・。俺の家族の・・・。」
「え!?どういうこと??!」そういえば、指輪をしてるから結婚はしてるんだろうけど、御家族のことは聞いたことなかったかも・・・・・でも命日って・・・・。
「知り合って半年近くなるけど、お互いのこと全く話さないもんな、俺たち」
「・・・・・・・」
「君だって指輪してるけど、一人暮らしだろ?不思議だったけど、まぁ詮索するようなことじゃないし、仕事に関係ないしな」
「今日さ、夕飯一緒に食べてくれない?湖亭でごちそうするからさ」
「俺も一人暮らしなんだよね、実は。でも今日は、晩飯一人で取る気になれないから」
「一人暮らし?・・・・・」ベンも一人暮らしって・・・どういうこと?
患者さんがみえたので、一旦この話は中断したけれど、その後からベンのことが気になって仕方なかった。リンデル以外の人のことをこんなに考えるのは本当に久しぶりな気がした。
「もう分かっちゃったかもしれないけど、俺の家族っていうのは、奥さんと子供のことね」その日、湖亭で聞いたベンの話は衝撃的なものだった。彼は左手の指輪を時折触りながら話をしてくれた。
「もう7年前になるけど、その頃俺は王都の病院に勤めてたんだよね。まだ医者になったばっかりで、やる気だけはあるけど、たいして使えない新人でさ」
「奥さんは俺と幼馴染で、ルビアーナと同じ、看護師だったんだよ」
どこか懐かしむような遠い目をして、ベンは続ける。
「結婚して初めての自分の誕生日なんて忘れててさ、その日、当直してたんだよ」
「そしたら・・・そこに奥さんが弁当差し入れてくれて・・・俺の好物ばっかりでさ・・・帰ってきたら凄いプレゼントがあるからって嬉しそうに話してくれて・・・。」
そのあと、ベンは目の前のビールを飲んで、ぐっと口を拭った後、一息ついて続けた。
「プレゼントって何?って聞いても教えてくれなくてさ、明日楽しみに帰ってきてって・・・・でも彼女は帰りに・・・」
「・・・・・ベン?」
話を続けられなくなって、目をつぶって必死に涙をこらえている彼を見ていられなくなった。思わずテーブルの上で握りしめているベンの手にそっと触れると、ビクッとしたようにベンは体を動かして、目を何度もしばたたかせた。
「ごめん、彼女と彼女のお腹の子を無くしてから、初めて人にこの話をした・・。」
「馬車の事故で二人を亡くして・・・辛くて、王都にいられなくて、彼女の故郷でもあるテンバーに来たんだ。俺たち2人とも王都にいるころに親を亡くしてるから、知り合いもたいしていないから詮索されることもないし」
ベンは普段口も悪いし、基本明るいけど、時々思いつめたように黙って遠くを見ていることがあった。
会いたいけど、もう決して会えない大切な人・・・。ベンの気持ちを考えると、私もいつの間にか涙ぐんでしまっていた。
「ありがとう、聞いてくれて・・・・ごめんな、泣かせちまって・・・。」
差し出してくれたハンカチを断って、自分の持っていたもので涙を拭きながらゆっくりと首を横に振る。
「いつもは浴びるほど酒飲んで無理やり寝るんだけどさ、ルビアーナには話を聞いてもらってもいい気がして・・・・」
「彼女とさ、顔は似てないけど、雰囲気が似てるんだ・・優しくて、ちょっとたれ目なとことかも・・・」
「ルビアーナも俺のこと誰かと重ねて見てるだろ?」
その言葉にビックリしてベンを見ると、優しそうに微笑んでるベンと目が合った。
「時々、俺のこと、少し悲しそうにジッと見てる・・・・・だろ?」
そう言われて、顔が赤くなってしまったのがわかる。
「ごめんなさい・・・」
「いいよ、別に。嫌じゃないし」
ビールのグラスを持つと、私にも飲み物のグラスを持つよう促した。
「今日は付き合ってくれてありがとな、これからもよろしく、ルビアーナ!」
この日の食事会から、私とベンとの距離は少し近くなっていった。
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