転生幼女は発酵スキルで、異世界に和食革命を起こす!味噌、醤油、酢を作って餌付けしたら、いつの間にか世界に名が轟いていた件

西野和歌

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第7章 四大精霊と救世主

第99話 夢の中へ

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「おい、俺たちは平気だが、人は食べなきゃ倒れるだろう。鍋をかき回す程度なら代わってやるから、とっとと飯食ってこい」

 アールが交代を引き受け、私としゅーさんとティナは家に入った。
 デブは

「一人足りへんし、ワイはここでは大人やさかい、あんたら子供が食べて来たらええねん」

 と男気を出した。デブだから一食・二食抜いても大丈夫だろう。
 中に入り、私は暖炉前のジョージの入った桶の横に、毛布を敷いて軽く横になる。
 既に体力は限界だ。
 それを見越して暖炉前の石畳の床の上に、厚手の敷物とクッションで、寝床をティナが作ってくれていた。

「まゆまゆ、この後は、どうするんだい?」
「ん……一晩かけて、弱火で焦がさないように煮込む……でしゅ……」
「それだけかい?」
「とりあえず……は」

 フラフラと限界突破している私を抱きしめて、しゅーさんは耳元で囁いた。

「その疲れを僕が代わってあげたいよ。とりあえずおやすみ、まゆまゆ」
「ご、ごはん」
「起きたら一杯食べようね、この様子だと……うん、やっぱり寝ちゃったね」

 遠くで、しゅーさんの声を聞きながら、私は力尽きて気絶するように眠りに落ちたのだった。

 だから知らなかった。
 その晩に、精霊たちとデブが一晩かけて煮込みを担当してくれていた事。
 晩御飯や朝ごはんはティナが作って、精霊たちへも提供してくれていた事。
 何よりも、しゅーさんが夢の中で必死に祈って、女神とコンタクトをとっていた事をだ。

 *****

 夜も更けて、一人抜け出す幼い影か一つ。
 薄暗がりの中で、階段を降りて火の番をする精霊たちのもとへ向かう。

「おい王子、子供は寝る時間だろう」

 鍋にあたる轟々とした炎に手を当てて、狼はすげなくあしらおうとする。
 火の鳥は寒さに耐えきれず、今は居間の暖炉の前で丸くなっていた。
 本当なら、この国にいる事すら辛いだろうに、自分を心配しての事なのだとわかっている。

 ―― だから、少しでも僕が頑張らなくてはいけない ――

 もう二度と、誰かに責任を負わせて後ろめたい思いをして生きる人生は嫌なのだ。

 前世において、自分でもわかっていたのだ。
 その署名をするのは地獄への入口かも知れないと。
 だが、目の前で懇願する古き友は、幼い赤子を抱いてやつれて、目の光を失っていた。
 自分が訪ねたその時に、吊ろうとした縄が不気味にユラユラと天井から揺れている。

 赤子が泣いたのだ。
 我が子と同じ月齢のその子に、何の罪があるのかと。
 だから言った。

「仕事も紹介してやる。自己破産が無理ならできる限りでいいから働いて返そう。この子のためにも」

 母親は赤ん坊を押し付けて、若い男と逃げたという。
 タチの悪い所から借りた借金は、少しでもマシな所から借りなおして返済させた。
 その時点で、元金の10倍にも跳ね上がっていた。
 ともかく、赤ん坊と精神をおかしくした友の身の安全が第一だった。
 
 警察は動かない。何か起こったら来てくださいだ。
 弁護士を雇う金もなく、国選弁護士は順番待ちで、待っている間にも利息は積もっていく。
 ともかく、幼い命を助けたかった。
 だから、僕はサインしたんだ。
 保証人と書かれたその書類、まさか友が俺をだますなんて。
 限定という、金額が制限された書類は偽装され、無制限の保証人に僕の名は刻まれていた。

 ともかく赤ん坊は児相に来てもらい、福祉の手に委ねて帰ったその晩に、僕の妻は言ったのだ。

「その父親は自己責任だけど、赤ん坊なら連れて帰ってくれば良かったのに」

 いまさら一人増えても平気だよと、笑った彼女にどれだけ救われた事か。
 そして、それから数か月後に友は自らの命を消した。

 残された借金は全てこちらに回ってきた。
 一億近い額に、我が家は子供が三人もいた。
 僕はしがないサラリーマンで、彼女は子育てで働くことも不可能だった。

 ただただ、僕は彼女に頭を下げるしかなかった。
 僕の弱さと偽善行為から、本当に守るべき家族を苦しめることになる。
 だったら離婚して、僕が借金を背負うというと、彼女はキレた。

「家族ってのは、一緒にいるから家族なの!」

 そして、笑って腕まくりして晩御飯を出してくれた。
 今までと違う、より質素で品数の少ない食卓。

「お腹がすいてるからダメなのよ」

 唖然とする僕に、山盛りのご飯茶碗を差し出して豪快に笑った。

「任せてよ、節約は得意だから! これから楽しくなるわね」

 そんな君に苦労をさせたからこそ、今度はちゃんと守り抜くと決めたんだ。

 ―― 魂をかけて!!

「精霊様方とゼンさん、三人ともにお疲れではないですか?」
「おや、気遣いのできる坊やですね。ですが子供は余計な気を使わなくて宜しいのです」

 黒羊が丸太の椅子を各鍋の前に並べて、それぞれが座る。
 空いている一つに、精霊様とゼンの間の一つにチョコンと座った。

「坊ちゃん、風邪引いてまうさかい、はよ布団に入りや」
「はい、ですが少しだけ手伝いをさせて下さい」
「手伝い? なんや? 心配せんでも、かき混ぜるだけなら、ワイが交互に二つくらいは……」
「火の強さを一定に保てば、より楽になれると思うんです」

 僕は手に力を込めて、エバ様より頂いたスキルを発動した。

「炎よ、朝が来るまで熱を保て! この鍋が焦げないように!」

 僕の手のひらに、赤い熱が集中して、炎のビームが炸裂する。
 それは四本の筋となって、各自の鍋の下の燃え盛る木に乗り移った。

「お前、何してんだ?」
「はい、アール様。僕の力でも少しは腹の足しになるでしょう? それに火が消えたら彼女が寂しがります」
「……確か、エバから加護を3つ貰っていたな」
「僕にできる事はこれ位ですから、ではおやすみなさい」

 椅子から降りて、きちんと王族として礼をする。
 そして僕は彼らの元から、彼女の元へ舞い戻った。

 スヤスヤと眠る天使のほっぺをフニフニとつつく。

「女神様、僕にできる事があるならば、この魂を使ってもいいです。どうか彼女にできる事を僕にも与えてください」

 暗闇の中で両手を組んで心で祈る。
 そして、どれだけの時間が過ぎたのか、僕の頭上から金の粉がパラパラと振りかけられた。
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