転生幼女は発酵スキルで、異世界に和食革命を起こす!味噌、醤油、酢を作って餌付けしたら、いつの間にか世界に名が轟いていた件

西野和歌

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第10章 金色の光へ

第130話 女神の名は

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 聖女の目が赤く染まり、体が黒く肉塊がブクブクと増殖し、城の全てを取り囲んでいく。
 ドラゴンが空を舞い、こちらを伺っている気配を感じ、私は空に向かって怒鳴った。

「手出し無用でしゅよ! ドラちゃん!」

 その声に反応したのか、白いブレスは中断された。油断も隙もない。
 デブが光る何かをつかんで、妹に突進しようとしたのを、アールが素早く剣を抜いて剣先で振り払う。
 カキンと音がして、シュルシュルと地に落ちた包丁が転がっていく。
 それでも、妹に向かっていこうとするゼンを、背後から兄が羽交い絞めして止めた。

「は、離してんか! もうあかん! 魔王になりきる前にワイが!」
「兄として妹を止めるなら、最後まであきらめるな」
「おーい王子、関節きめるの、もうちょい下だ下」
「ん? ああ、こうか」

 兄がガッシリとゼンの脇を抑え込む。これでゼンは動きを封じられた。
 私の目の前の聖女は、とうとう壊れたみたいだ。
 それを私は冷めた目で見つめていた。

「まだマトモだったら、少しはBLについて議論できたと思うでしゅよ」
「あはははっ、あはっ、夢で生きるの、ここはゲームで嘘の世界なの。だからっ、だからぁぁぁぁぁっ!」
「同情はしないでしゅ。自分で気づくチャンスはあったでしゅよ」

 私は口元を腕でグイッとぬぐうと、米粒がついていた。
 指で米粒をつまみ、私はため息をついた。

「子供を産んだ時点で、母親になったんでしゅよ。この米粒みたいに小さな幸せを大事にすれば良かったんでしゅよ」
「し、ししし、幸せって何? もう誰もいないーっ! 私だけぇーっ」
「おーい、兄の存在は?」

 呆れたアールの声に、聖女はガクガクと笑う。

「あんた見た事あるぅぅうう? どのゲーム? んー兄ちゃんはー学校行ってるよぉ」
「壊れて記憶も意識も、混濁してやがる!」
「ううっ、頼む、もう殺してやってくれ。妹はもうあかん」
「だから、すぐにあきらめるな! アーリー何かできる事はあるか?」
「ないでしゅ」
「そ、そんな……」

 こんな風に、きっと助けてくれる人もいたはずなんだ。
 私がまゆみとアリアナが混ざり合ったように、新たな生き方ができたはず。
 このままでは魔界だけでなく、きっと全てを恨んで吞み込んでいくだろう。
 聖女の成れの果てに、そろそろ引導を渡そうと、私は天を見つめた。

「聖女じゃなくって、アカリちゃんに聞くでしゅ! 最後はどうしたいでしゅか?」
「あ、ああああ、わ、私」
「聖女になってなかったら、どうしたかったでしゅか?」

 優しく私は聞いてみた。
 ガクガクとした動きがピタリと止まった。流していた血の涙も止まる。
 朱色の目を見開いた、哀れな中年女は、魂の声を振り絞った。
 それがきっと、彼女としての最後の意思の言葉。

「お……おがぁぁさぁああああんっっ――!!」
「わかったでしゅ」

 私は天に向かって、今度は心から届くように呼びかけた。

「約束は果たすでしゅ! 最後のケリつけろいでしゅ! 女神――っと……ああっ!」

 ああああ――っ! やばいっ! 今気づいたっ!
 ワチャワチャと、即席ケチャダンスで慌てる私に、周囲の目が点になる。
 やばやばやばっ!

「おい、どうした?」

 アールの言葉に私はハッとする。

「女神の名前知らないでしゅよーっ! 呼び出す時は名前呼べって言ってたでしゅよーっ!」
「はぁぁぁ?」

 そんなこんなしていても、聖女はガンガン世界を黒く染めていく。
 肉は津波となって、地を這い魔界を紫の触手たちが浸食していく光景は悪夢そのものだ。

「竜の血肉も食べたのにぃいいいっ! なんでぇ、なんでぇ私だけぇぇぇっ!」

 聖女の雄たけびに、天に控えていた竜の唸りが聞こえる。
 ドラちゃんも、いつ怒りに任せて攻撃してくるかわからない。

「名前は〇だっ!」「きこえないでしゅ!」

 大きな稲妻が無数に地を突き刺し、竜巻の柱がいくつも周囲に発生している。
 まさに世紀末というか破滅寸前、必死で焦る私たち。
 アールが再度、怒鳴ってきた。

「だから! パイパイタプリーナ様だぁぁーっ!」
「なめてんのかーっ! 何でしゅかーっその名前!」
「小さくたっていいんだよーっ!」
「女神様ーっ! 来てくださぁぁぁーいっ!」

 最後にゼンが絶叫した。

「ワイらを元に戻してくれぇぇぇぇっ! 女神はんっ!」
「ゲタゲタゲタゲタっ。あははははーっ、引き裂く、全て、消えちゃえーっ!」

 最後の聖女だけ楽しそうだな。
 途中で変なの挟んだけど、ともかく来い女神!

「来たれ、女神パイパイタプリーナ! とっととケジメつけろいっゴラァァァ!!」

 私の言葉と同時に、暗闇に七色の円形の光がさし、幕をはるように金色の金粉がキラキラと大量に舞い降りた。
 どこからか鈴の音がシャンシャンと聞こえる。
 ああ、これだ、やっと来た。あの乳デカめ。

 ずっと笑っていた聖女が、その気配に動きを止める。
 そして静かに降下した竜が、城の斜塔に爪を立て、しがみつくように停止した。

 光は金色となり、そしてこの城を包み込む。

「ぐぁぁぁっ、ぐぁああ!」

 魔王と化した聖女が、その聖なる光にもがき始める。
 私は口をギュッと閉じて天を睨みつけた。
 ふんばる私の手をソッと握ってくれたのは、しゅーさんだ。
 何も言わず、その手から優しい力が注がれた。

 そして、女神が私たちの前に舞い降りたのだった。
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