こんにちは、最強騎士にお持ち帰りされたダメエルフです~もう逃げられません~

西野和歌

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『まだ噂の段階だが、まもなく正式に発表されるであろう、社交界きっての女泣かせの第一騎士団の隊長ウェダー・ウェールズ卿が、とうとう年貢の納め時か?相手は最近、突然羽振りの良くなったアンバサー家の伯爵令嬢キャサリン・アンバサー21歳で……』



 昨日現れた彼女が、白黒の写真で満面の笑顔で婚約者の腕に顔を寄せていた。

 そう、彼女の甘える男性の顔は間違いない……ウェダーだ。

 笑顔こそないが、振り払う表情ではなく、彼女を受け入れているように見える。

 つまり、彼女の昨日の言葉は本当だったのだ。



 マーロさんは何度も私に、あれはキャサリンの妄想なのだと言っていた。

 ならこの画像は?この記事は?

 これは悪夢なの?



 顔を青ざめ新聞を握りしめていると、部屋に入ってきたマーロがすぐに気づく。





「シャーリー一体どうしたんだ?……って、新聞?」



 そのまま強引にシャーリーから新聞を取り上げて、開かれたままのページを見て、すぐに事情が理解できたようだ。

 怒りのままに、使用人に叫んだ。



「二度とこんなゴシップ新聞を当家に持ち込むな!」

「はいっ!申し訳ございません!」



 親切のつもりで手渡した新聞が、まさかこんな事になるとは思わなかった使用人は、そのまま慌てて部屋から出て行った。

 朝から怒り心頭のマーロは、息を整えてシャーリーの名を呼ぶ。

 だが、エルフは遠くを見つめ無反応である。

 余程ショックだったのか、顔色を悪くしたまま身動き一つ取れなかった。



「シャーリー……シャーリーよくお聞き。あの新聞は二流のでまかせが多い事で有名な奴だ。ドフが、それでも稀に有益なスクープ目当てに購買してたんだが、君には二度と目に触れさせない」



 そのままマーロは椅子に座って石像のように冷たく固まったシャーリーを抱きしめた。

 このエルフは純粋で、どれだけ冒険の度に人に傷つけられても、必死で立ち上がってきた子なのだ。

 自分で言っていたように、立ち直るために心の傷を隠して、前向きに努力してきたエルフが、絶望を瞳に宿している。

 とても見ていられず、何度もそれは嘘だとマーロは言い聞かせてきた。



 真実をマーロは知っている。

 ドフから届いた手紙には、実は軽く事情が書かれていた。

 そこにはシャーリーが狙われる可能性が高い事、そして例のキャサリンという女が全ての鍵を握っている事。

 その為に、あえてウェダーは偽装するが、何よりシャーリーに知られないようにと注意されていたのに。



 突然侵入までしてくるキャサリンに驚きもしたが、あの狂気は確かにウェダーが嫌悪するだけでなく逃げ出すレベルだった。

 何より、この新聞の記事の画像……視線をきちんとカメラに向けている。

 魔道具であるカメラは、光を放たない。

 小さな魔力で発動して、人の姿を特別な紙に写す仕組みだが、あの伯爵令嬢には魔力など感じなかった。



 カメラが発動した瞬間の魔力も感知できないのに、ちゃんと目線を合わせ口元に笑みまであった。

 つまり新聞社にリークしたのは、あの女本人で間違いない。



「なんと姑息な」



 ギリッと歯を噛みしめ、ひたすらシャーリーの心が戻るまで頭を優しく撫でてやる。

 食事の香りすら、今はこの場を温かくはしない。

 外の穏やかな小鳥の囀りすら、別世界の感覚すらある。



「どうして……」

「シャーリー。ちゃんと説明させてくれ。ともかく、あの新聞は……」

「ちゃんと聞いてました。嘘ばかりなんですよね?」



 マーロは気づいた。

 シャーリーは声すら出さず、静かに涙を流していた。

 目を見開いた視線の先は、何も見えてはいない。



「でも、あの女性の自信の根拠は、この写真だと思うんです」

「これは、あの女が世間に無理やり広める為に、自分でリークしたんだ。ほらシャーリー、この画像でこの女だけがカメラをちゃんと見つめている」

「でもウェダーさんは、拒否していないです」

「……っ」



 壊れそうな笑顔のまま、シャーリーは気づいていた。



「本気で嫌なら、ウェダーさんなら腕を絡ませるなんてしません。でも、彼は受け入れています」

「それには理由があるんだ」

「理由?私に直接何も言えない理由が、別の女性との婚約なんですか?」

「だから……」



 マーロがもう限界だと、全てを晒すつもりで声をあげた。

 だが、一瞬にして声が消える。

 目の前のエルフが、ゆっくりと立ち上がった。



 こんな悲痛なエルフを見ることになるとは……流石のマーロも、あまりの痛々しさに感情すら消える。

 今にも消えてしまいそうな儚げな悲しみを称えて、シャーリーは笑うのだ。

 もう瞳には何の感情も宿っていない、暗い陰りだけが彼女を染める。

 太陽が突然、光を奪われたように、使用人たちまで声をなくした。



「もう、ここにはいたくありません。マーロさんにはお世話になりました。すぐに首都を出て、森に戻ろうと思います」

「待ってくれシャーリー。ちゃんと説明だけは聞いてくれ」

「流石に森ならば、人はおいそれと近づけないです。私の居場所はそこにしかなかったみたいです」

「だから……」



 去ろうとするシャーリーに、咄嗟に伸ばした手は寸前で弾かれた。

 驚愕の目でマーロはシャーリーを見たが、何も答えずシャーリーは自ら与えられた部屋に戻って行った。



「無意識で魔力が暴走してる……やはり、一人にしておくのは危険だ」



 魔法を教えたのは自分、そして守る事も出来なかったのも自分だ。

 マーロは覚悟を決めて、使用人たちにシャーリーを屋敷から出さないように命じたのちに、急いで早馬で本部に手紙を届けさせた。

 だが、マーロはシャーリーを甘く見ていたようだ。

 手紙を書いていた、ほんの少しの間に、本来荷物の少ないシャーリーは、冒険者だった時の身軽さを生かして、木に登り塀を乗り越えて屋敷から去っていたのだった。



 --------------



 シャーリーが突然消えた後、勿論マーロ達は大騒ぎになった。

 そして、誰よりも一番知られてはいけない、だが知らなくてはいけない人物に伝えられる。



「なんだと!」



 その日、騎士団本部第一騎士団の執務室では、大人二人が座れるほどの、歴史ある頑丈な机が真っ二つに叩き割られた。しかも、拳でだ。



 あまりの迫力に、見習いの騎士は腰を抜かし悲鳴すら抑える事が出来なかった。

 それを聞きつけて、他の者たちが集まる中で、ウェダーは怒鳴りつけた。

 あまりの怒声に、窓がビリリと音を立てて揺れた。

 それ程の怒りを隠す事すらせず、ウェダーは書類をまき散らす。



「なんのために、醜い女と我慢して婚約ごっこまでしてると思ってるんだ!やっと伯爵家から正式に、例の別荘に招待されるまでこぎつけたのに!」



 シルバーの髪を乱暴にかき回し、深呼吸をした。

 遠くの通路から、ドフの足音が近づいてるのがわかる。

 顔をあげ、三階の窓を開けると、涼やかな風が頬を撫でた。



「もう限界だ」



 ウェダーは周囲が唖然とする中で、窓から身を乗り出した。

 ドフが扉を開けた瞬間、三階から飛び降りたウェダーの指先だけが見えた。



「ウェダーお前っ!」

「明日には戻ります!」



 上司の声に着地すると同時に怒鳴り返し、振り向きもせず全力で走り出す。

 騎士団の厩舎から一頭の黒い馬を引き出して、ヒラリとその背に乗った。

 この愛馬以外は、ウェダーの血をかぎとり怯えて歩む事すら出来ないのだ。



 頭の中は感情が高ぶりゴチャゴチャで、冷静になどなれない。

 浮かぶのは、愛しい番を捕まえる事だけ。



 ――逃がさない、俺だけの番。何があろうと、どんな犠牲をはらおうと、君だけは――



 軽く急ぎで届いたマーロの手紙を思い出す。

 緊急だと慌てたせいか、乱れた字だったが、内容はあの女だった。

 写真を撮られていたのはわかっていた。

 だから新聞社各位には、騎士団より圧力をかけて記事にしないように命令した。



 だが、あの三流の新聞社は、騎士団ではなく目先の伯爵家の金に従ったようだ。

 なんでも話すとキャサリンは甘えるわりに、本人は理解していないのか肝心な内容は要領が得ないものばかりだった。

 それでも迫る女の武器をかわして、一度として抱く事もなく、やっと本命に行きついた。



「黄金の秘密を知る権利はありますものね。私の夫となられたら、共に協力して頂かないと」



 父親だけが鍵を持つアンバサー家の首都近くの森の別荘に、身内だけの婚約祝いの食事を兼て招待された。

 そこで伯爵は、本気で俺が味方になるのか見極めたうえで、その秘密を暴露して共犯に巻き込むつもりだろう。

 その別荘は幾つかある候補の中でも、特に注意を払っていた場所だ。



「あと少しの辛抱なんだ、シャーリー。なのに……」



 馬は幾つもの大きな門を抜けて、首都の街に向かう。

 シャーリーは地理も知らない。

 ウェダーとて、いくら鼻が良くても、これだけ人口が多く広い市街では見つけるのも困難だ。

 慣れぬ彼女が森に戻るために、まず頼るのはどこか?



「決まってる。ギルドだ」



 国の中心のここには、ギルド本部もある。

 馬の手綱は迷うことなく、そこに向かう。

 首都の石畳は整備され、歩道に挟まれるように馬車の道が中央に続く。



 ゆっくりと走る馬車を追い越し、騎士団の制服のままギルドに辿り着いたウェダーは、息せき切って飛び込んだ。

 この国のギルド本部なだけあり、四階建ての巨大な建物だ。

 一階は全ての冒険者の各受付の為に、開放されていた。

 何度か仕事で訪れた事もあり、職員も内部も把握している。



 ここには相談所も併設されており、冒険者たちの駆け込み場ともなっていた。

 中に入るなり、吹き抜けの大きな広間に天窓から昼の光が射しこんでいた。



 大勢の冒険者たちでにぎわっている中、ウェダーは迷うことなく進んで行く。

 突然現れた鬼気迫る男にギョッとするものの、皆は騎士と関わるまいと道を開けていった。

 冒険者にとって騎士とは、何かしらの事件があった場合のみ関わる存在、それも悪い意味でだ。



 男も女も、無言の気迫を感じ後ずさりして停止しては、ウェダーを見送った。

 ずんずんと、まるで目的が明確であるかのようにウェダーの足は真っ直ぐに進む。

 この建物に入った事で、ウェダーは百人近い人であふれる広間の中から、愛しい番の匂いをかぎ分けていた。



 何も知らないシャーリーは、必死に相談カウンターで泣きついている最中だった。



「なんとか路銀を稼ぎたいんです!ソロで私のレベルで出来て、なおかつ西の方向に向かうクエストとか……」

「申し訳ないですが、ここは都会ですので。護衛クエストは剣士や戦闘系の方向きですし、信用が大事ですので、女性でなおかつ未経験のエルフはちょっと……」

「こう見えて家事も得意です!雑用もこなせますし、路銀は少な目でも大丈夫です。ともかく交通費代わりに同行させて貰えるのがいいんです」

「ですから、紹介状も推薦もない狩人の低レベルでは難しいです……って、えええっ!ウェールズ騎士様!」

「へっ?」



 驚くギルド職員に目を丸くしたシャーリーは、即座に後ろから抱きすくめられた。

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