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第十話
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「人間の頭の中にはね、量子的重なりあいが存在するという説がある。つまり元々人間の頭脳は、アルターな世界へと繋がる可能性があるんです。しかし重なり合いが収縮することにより、意識は現実へ接続される。収縮が阻害されると、どうなると思います?」
「それが魔法と仰るんですか?」
「多分、統合失調症のような病も似たような現象だとは思ってるんですけどね。あくまでも想像にすぎませんが。脳は色々な平行世界へと繋がる可能性を持っている。思考すると同時にそれは単一の世界へと収縮する。でも収束した以外の平行世界は消えるのではなく、負の存在確率となりとどまっている」
ノートパソコンの画面に、五芒星の画像が浮かび上がる。そこには様々なルーン文字の呪文や絵文字が書き込まれていた。魔方陣と呼ばれるものなのだろうか。元春はそれを見て、満足げに頷く。
「さて、死者の世界もそうしたアルターな平行世界のうちのひとつ。で、これからこのノートパソコンを死者の世界へと接続しようと思うのですが」
元春は、液晶ディスプレイの上部にテレビ電話システム用のカメラを接続する。そして、ヘッドホーンとマイクが一体化したヘッドセットを私に手渡した。
「この降霊システムは私の友人、プロフェッサー椿の考案したものなんですけどね、使ってみてください」
私はそのヘッドセットを装着する。
「魔法というのは本来言語をウィルスのように作用させ、アルターな世界との接続を実現するものですが、あなた方は困ったものをこの世にもたらした」
私は元春を見る。元春はにっこりと私に微笑みかけた。
「あなた方が、南極で見つけたあのウィルスですよ」
突然。
ノートパソコンにウィンドウが開き、男性の顔が表示される。それはよく知っている男の顔だった。
『よう、美奈子』
男の言葉に息をのむ。
「秋夫なの?」
『やっと話ができる』
「ちょっとまって。一体これはどういうこと?」
いくつかの可能性が考えられる。もっともありそうなのは
『そうじゃないぜ』
私の考えを読んだような言葉に、私は息をのむ。
『おれの画像と音声を合成し、実際に喋っているのは別の人間。そう思ったんだろ。まあそう思うのは無理もないよな。何しろ君はおれの死体を確認したはずなんだから。多分』
秋夫は、皮肉な笑みを見せる。
『おれが、君の死体を確認したようにね』
「一体何を言っているの?」
『君だって、コペンハーゲン解釈が何か知っているだろう。平行世界は生と死が同時に存在する状態を作り出す。そのどちらかに収縮させるのは』
「観測だっていうの? まさか」
『そうだ。おれたちが見つけ出したウィルスはその収縮を阻害する。その結果脳は負の存在確率の状態を、認識しはじめる』
「でも」
『どちらに収縮するかは、つまり死んだのがおれか君か、それは誰が決定するのかということだろう』
「そうよ。あなたはあなたの平行世界にいて、私は私の平行世界にいる。どちらも、現実のはず」
『そうだといいたい。だが、残念ながらそうじゃない』
「どういうこと?」
『君の世界は、収縮していない。君の端末は多重のアクセスを行っている。同時に何人もの君がアクセスしているようにね。君は、一意に収縮できない世界に存在している。 それに』
「それに?」
秋夫は不思議な笑みを見せる。
『ギムレットを、頼んだんだろう?』
私は、少し苦笑する。
「あれは、夢よ」
秋夫は、頷く。
『そうだ、夢なんだ。それは終わりを告げる。君の夢の終わりを』
「ゆ、め、の、終わり ?」
ざわめき。音楽。人々の笑い声。
私は立ち上がり振り向く。
廊下を仮面をつけた人々が歩いていた。薄暮の世界を流離う影のような、しかし華やかで音楽を纏っているように楽しげな。
彼らは笑みを仮面に隠し、歩いてゆく。私はいつのまにか彼らと共に歩いていた。
「それが魔法と仰るんですか?」
「多分、統合失調症のような病も似たような現象だとは思ってるんですけどね。あくまでも想像にすぎませんが。脳は色々な平行世界へと繋がる可能性を持っている。思考すると同時にそれは単一の世界へと収縮する。でも収束した以外の平行世界は消えるのではなく、負の存在確率となりとどまっている」
ノートパソコンの画面に、五芒星の画像が浮かび上がる。そこには様々なルーン文字の呪文や絵文字が書き込まれていた。魔方陣と呼ばれるものなのだろうか。元春はそれを見て、満足げに頷く。
「さて、死者の世界もそうしたアルターな平行世界のうちのひとつ。で、これからこのノートパソコンを死者の世界へと接続しようと思うのですが」
元春は、液晶ディスプレイの上部にテレビ電話システム用のカメラを接続する。そして、ヘッドホーンとマイクが一体化したヘッドセットを私に手渡した。
「この降霊システムは私の友人、プロフェッサー椿の考案したものなんですけどね、使ってみてください」
私はそのヘッドセットを装着する。
「魔法というのは本来言語をウィルスのように作用させ、アルターな世界との接続を実現するものですが、あなた方は困ったものをこの世にもたらした」
私は元春を見る。元春はにっこりと私に微笑みかけた。
「あなた方が、南極で見つけたあのウィルスですよ」
突然。
ノートパソコンにウィンドウが開き、男性の顔が表示される。それはよく知っている男の顔だった。
『よう、美奈子』
男の言葉に息をのむ。
「秋夫なの?」
『やっと話ができる』
「ちょっとまって。一体これはどういうこと?」
いくつかの可能性が考えられる。もっともありそうなのは
『そうじゃないぜ』
私の考えを読んだような言葉に、私は息をのむ。
『おれの画像と音声を合成し、実際に喋っているのは別の人間。そう思ったんだろ。まあそう思うのは無理もないよな。何しろ君はおれの死体を確認したはずなんだから。多分』
秋夫は、皮肉な笑みを見せる。
『おれが、君の死体を確認したようにね』
「一体何を言っているの?」
『君だって、コペンハーゲン解釈が何か知っているだろう。平行世界は生と死が同時に存在する状態を作り出す。そのどちらかに収縮させるのは』
「観測だっていうの? まさか」
『そうだ。おれたちが見つけ出したウィルスはその収縮を阻害する。その結果脳は負の存在確率の状態を、認識しはじめる』
「でも」
『どちらに収縮するかは、つまり死んだのがおれか君か、それは誰が決定するのかということだろう』
「そうよ。あなたはあなたの平行世界にいて、私は私の平行世界にいる。どちらも、現実のはず」
『そうだといいたい。だが、残念ながらそうじゃない』
「どういうこと?」
『君の世界は、収縮していない。君の端末は多重のアクセスを行っている。同時に何人もの君がアクセスしているようにね。君は、一意に収縮できない世界に存在している。 それに』
「それに?」
秋夫は不思議な笑みを見せる。
『ギムレットを、頼んだんだろう?』
私は、少し苦笑する。
「あれは、夢よ」
秋夫は、頷く。
『そうだ、夢なんだ。それは終わりを告げる。君の夢の終わりを』
「ゆ、め、の、終わり ?」
ざわめき。音楽。人々の笑い声。
私は立ち上がり振り向く。
廊下を仮面をつけた人々が歩いていた。薄暮の世界を流離う影のような、しかし華やかで音楽を纏っているように楽しげな。
彼らは笑みを仮面に隠し、歩いてゆく。私はいつのまにか彼らと共に歩いていた。
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