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第十一話
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白衣の男は、その部屋へ入った。
誰もいない部屋。
カーテンによって窓は覆われているが、その隙間から陽ざしが幾筋か差し込んでいた。
中心に大きなテーブルが置かれている。そして、そのテーブルにはノートパソコンが置かれていた。そのディスプレイには時折女の顔が浮かび上がり、それが消えると男の顔が浮かび上がる。
白衣の男はテーブルの前に立つ。テーブルの向こう側に影がある。その影がじっとこちらを見つめていた。
白衣の男は、影に語りかける。
「長曽我部だな」
(やあ、椿さん)
その声は椿の心の中に直接響く。
「なんという様だ。霊能力者が霊となるとは」
(いやあ。それにしてもコンピュータに悪魔が憑くなんて、完全に僕の守備範囲外ですもの)
椿はテーブルにアタッシュケースを置く。そこからノートパソコンを取り出した。
「そんなものが守備範囲になる人間なんていないさ」
(そりゃそうですけどね)
椿はケーブルでパソコン同士を接続してゆく。そして、自身のノートパソコンを起動した。
「始めるぞ」
影は頷くと、薄闇の中へと消えていった。
椿はふと、気配を感じ顔をあげる。そこには、あの赤いパーティードレスの女がいた。今はほぼ実在しているとしか思えないような、存在感がある。
「これは、ご機嫌麗しく。レディ・ミストレス」
赤いパーティードレスのミストレスは、苦笑する。
「何、その頭痛が痛い的な変な呼び方。ミストレスで、いいわよ」
椿は、頷く。
「それで、如何なる御用ですか?」
ミストレスは、赤い唇を凶暴に歪める。
「貴方たちのやり方は、本当に雑だわ。昔の聖教会がやってた秘儀が、欠片も残っていない。そんなんじゃ、駄目だっていうの」
椿はふうと、ため息をつく。
「では、どうすれば?」
ミストレスは、昏く目をつりあげると妖艶な笑みを浮かべて椿を見つめる。
「なんとかしてあげるわ。だから、よこしなさい。あれを」
椿は困惑したように、眉を顰める。
「血を吸わせろ、ですか?」
ミストレスは、指を横に振る。
「無粋な言い方しないの。血は比喩的な意味だから」
「では、何を」
ミストレスは、くすりと笑う。
「決まってるじゃない。血を吸うのよ、比喩的に」
椿は、苦笑する。
「困りますね、それ」
「あ、ちょっとだけで、いいから。ちょっとだけ、牙の先っちょを入れるくらい」
椿は、肩を竦めた。
「仕方が無いですね」
ミストレスは、ぱあっと笑みを広げる。
「大丈夫、貴方好みじゃないから、そんな牙を奥まで挿さないし、痛くしないよ。ね?」
そう言うとミストレスは、はらりとドレスを脱ぎ去る。赤いドレスがふわりと床に落ちた。夜の庭園にひっそりと咲き月に蒼く染められた白百合のように輝く裸体を晒す。
ミストレスの裸体は、息をのむほど美しく艶めかしい。薄闇の中に、白い肌が密やかに息づき、胸の双丘は先端に赤い蕾を固く膨らませる。
下腹の茂みは奥に濡れた花弁が蠢いており、滴る蜜がそっと光っているかのようだ。
ミストレスは見惚れる椿の顎に手をかけると、ぐっと唇を押し当てる。そのまま強引に舌が侵入し、椿の口腔内を蹂躙した。
ミストレスは唇を離すと、はあっと息をつく。そして、大きな牙を剥き出しにして首筋へと顔を降ろす。
ざくりと牙が突き立てられたが、意外にも苦痛はなく椿に襲いかかったのは甘美な快楽であった。そしてミストレスが血は比喩と言ったように、血と言うよりも生命そのものを吸われているような気持ちになる。
椿がもしかすると自分はこの甘美な陶酔と共に死ぬのだろうかと、漠然と思いはじめたころミストレスの口が首筋から離れた。暗い目眩に襲われ、椿は首を振る。
「少しだけって、言ってませんでした?」
ミストレスは、凶暴なまでに美しく真夜中の太陽がごとき存在感を放っている。
「何よ、ヴァチカンが終末の獣と呼ぶ夜の眷属に血を吸われて生きてるんだから、文句言わずに感謝しなさいよ」
椿は、ため息をついた。
「では、よろしくお願いします」
ミストレスは、椿の言葉に頷く。
「まかせなさいな」
すうっとミストレスは螺旋状に絡みつく極彩色の虹になると、パソコンの画面にある魔法陣へ吸い込まれるように消えていった。
誰もいない部屋。
カーテンによって窓は覆われているが、その隙間から陽ざしが幾筋か差し込んでいた。
中心に大きなテーブルが置かれている。そして、そのテーブルにはノートパソコンが置かれていた。そのディスプレイには時折女の顔が浮かび上がり、それが消えると男の顔が浮かび上がる。
白衣の男はテーブルの前に立つ。テーブルの向こう側に影がある。その影がじっとこちらを見つめていた。
白衣の男は、影に語りかける。
「長曽我部だな」
(やあ、椿さん)
その声は椿の心の中に直接響く。
「なんという様だ。霊能力者が霊となるとは」
(いやあ。それにしてもコンピュータに悪魔が憑くなんて、完全に僕の守備範囲外ですもの)
椿はテーブルにアタッシュケースを置く。そこからノートパソコンを取り出した。
「そんなものが守備範囲になる人間なんていないさ」
(そりゃそうですけどね)
椿はケーブルでパソコン同士を接続してゆく。そして、自身のノートパソコンを起動した。
「始めるぞ」
影は頷くと、薄闇の中へと消えていった。
椿はふと、気配を感じ顔をあげる。そこには、あの赤いパーティードレスの女がいた。今はほぼ実在しているとしか思えないような、存在感がある。
「これは、ご機嫌麗しく。レディ・ミストレス」
赤いパーティードレスのミストレスは、苦笑する。
「何、その頭痛が痛い的な変な呼び方。ミストレスで、いいわよ」
椿は、頷く。
「それで、如何なる御用ですか?」
ミストレスは、赤い唇を凶暴に歪める。
「貴方たちのやり方は、本当に雑だわ。昔の聖教会がやってた秘儀が、欠片も残っていない。そんなんじゃ、駄目だっていうの」
椿はふうと、ため息をつく。
「では、どうすれば?」
ミストレスは、昏く目をつりあげると妖艶な笑みを浮かべて椿を見つめる。
「なんとかしてあげるわ。だから、よこしなさい。あれを」
椿は困惑したように、眉を顰める。
「血を吸わせろ、ですか?」
ミストレスは、指を横に振る。
「無粋な言い方しないの。血は比喩的な意味だから」
「では、何を」
ミストレスは、くすりと笑う。
「決まってるじゃない。血を吸うのよ、比喩的に」
椿は、苦笑する。
「困りますね、それ」
「あ、ちょっとだけで、いいから。ちょっとだけ、牙の先っちょを入れるくらい」
椿は、肩を竦めた。
「仕方が無いですね」
ミストレスは、ぱあっと笑みを広げる。
「大丈夫、貴方好みじゃないから、そんな牙を奥まで挿さないし、痛くしないよ。ね?」
そう言うとミストレスは、はらりとドレスを脱ぎ去る。赤いドレスがふわりと床に落ちた。夜の庭園にひっそりと咲き月に蒼く染められた白百合のように輝く裸体を晒す。
ミストレスの裸体は、息をのむほど美しく艶めかしい。薄闇の中に、白い肌が密やかに息づき、胸の双丘は先端に赤い蕾を固く膨らませる。
下腹の茂みは奥に濡れた花弁が蠢いており、滴る蜜がそっと光っているかのようだ。
ミストレスは見惚れる椿の顎に手をかけると、ぐっと唇を押し当てる。そのまま強引に舌が侵入し、椿の口腔内を蹂躙した。
ミストレスは唇を離すと、はあっと息をつく。そして、大きな牙を剥き出しにして首筋へと顔を降ろす。
ざくりと牙が突き立てられたが、意外にも苦痛はなく椿に襲いかかったのは甘美な快楽であった。そしてミストレスが血は比喩と言ったように、血と言うよりも生命そのものを吸われているような気持ちになる。
椿がもしかすると自分はこの甘美な陶酔と共に死ぬのだろうかと、漠然と思いはじめたころミストレスの口が首筋から離れた。暗い目眩に襲われ、椿は首を振る。
「少しだけって、言ってませんでした?」
ミストレスは、凶暴なまでに美しく真夜中の太陽がごとき存在感を放っている。
「何よ、ヴァチカンが終末の獣と呼ぶ夜の眷属に血を吸われて生きてるんだから、文句言わずに感謝しなさいよ」
椿は、ため息をついた。
「では、よろしくお願いします」
ミストレスは、椿の言葉に頷く。
「まかせなさいな」
すうっとミストレスは螺旋状に絡みつく極彩色の虹になると、パソコンの画面にある魔法陣へ吸い込まれるように消えていった。
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