1 / 13
薔薇色の宇宙
しおりを挟む
「ねえ、ひとつ聞いていいかな」
彼の問いかけに、あたしはベッドの上から答える。
「うん、いいよ。なにかな」
「どうして夏でも手袋をしているのさ」
「やかないため」
「ああ、日焼け防止ってこと? でもさ」
彼は、トレイに二つの皿を載せて部屋に入ってくる。それにしてもこの子はなぜ餡掛けチャーハンなどという器用な料理ができるのだろうか。なぞである。
「だったら部屋のなかではとればいいのに」
あたしは、自分の両手を見る。
指先だけが出たニットの手袋。
手のひらから肘の手前までは、いつもその手袋に覆われている。
「そうじゃあないの。言っても理解できないから」
あたしは、トレイからチャーハンとスプーンをとると、一口ほお張る。おいしい。彼は家事ならなにをさせても上手だ。おまけに繊細で優しげな顔立ち。欠点があるとすれば、職業が詩人ということだけだ。
「何みてるのさ」
あたしはチャーハンをほおばる彼をじっとみつめる。
「言っても理解できないだろうけど、見れば判るよ。見てみる?」
「うん」
「じゃあ、くーちゃんとってきて」
彼はわたしのまえにクマのぬいぐるみを置く。あたしと半生を共にしてきた大事なぬいぐるみ。彼もそのことをよく知っている。
あたしは、彼のまえで手袋をとった。
「きれいな手だね」
「自殺の傷痕でもあると思った?」
あたしは手を裏返して傷のないことをよくみせる。彼は苦笑してみせた。
あたしは、ぬいぐるみを手に取る。いとおしさが込み上げ、ぎゅっと抱き締めた。
そのとき。
薔薇色の炎がともる。
彼の目の前で、ぬいぐるみは燃え上がり灰になった。
「すごいね」
彼は敬虔といってもいいような瞳であたしを見た。
あたしは、手をひろげる。火傷がないことを見せるため。あたしの炎はあたし自身を焼くことはない。
「あたしは、好きなものをこの手で抱くと灰にしてしまうの」
「いつからそうなの?」
あたしは首をふる。
「一番古い記憶だと、小学6年生のころ。家で飼っていたウサギを抱いた時急にいとおしくなって」
「燃えたの?」
「うん。驚いて落としたから灰にはならなかった。そのかわり、晩ごはんのおかずになったわ」
彼は苦笑する。
「そのあと大切にしていた本や写真を焼いてしまって」
「手袋をするようになったんだね」
あたしがうなずき彼は微笑んだ。
彼は立ち上がり部屋をでる。戻ってきたときには縄跳びの縄を持っていた。あたしがダイエットのため買ってほうりだしてたやつ。
「ちょっと」
彼は巧みにあたしの手を背中で縛る。
「ようは、抱かれなければいいんだ」
「それはそうだけど、でも」
あたしのことばは彼の口づけで途切れた。
彼は巧みにあたしの身体を愛撫する。奏でるように指先が肌の上を走り、囀るような口づけがあたしの奥深いところを抉る。
あたしの頭の中に、薔薇色の炎がともった。
あたしが赤黒い闇から現実に戻ったとき、彼はあたしの傍らで灰になっていた。あたしはうまく働かない頭で記憶をたどる。
彼はあたしを抱いてあたしの中心を貫きながら。
そうだ。
彼はそっと縄をほどき。
両の手を導き。
自分の身体を、あたしの両手の輪の中に置く。
そして。
ああ。
なぜ、そんなことをしたんだろう。いえ、判っている。決まっているじゃない、そんなこと。
彼は最も確実な形での愛の証しを求めたんだ。
世界で最も確実なリアルを。
カチリと。
あたしの中で何かが嵌まった。
あたしは部屋から駆け出しマンションの屋上へと出る。
頭上には青い青いそら。
その美しさに、あたしは涙する。
あたしは叫んだ。
何度も、なんども。
あたしは。
愛で。
世界を。
壊す。
青い、悲しいくらい美しく青い空へ両手を伸ばす。
そして。
そらは薔薇色に染まった。
彼の問いかけに、あたしはベッドの上から答える。
「うん、いいよ。なにかな」
「どうして夏でも手袋をしているのさ」
「やかないため」
「ああ、日焼け防止ってこと? でもさ」
彼は、トレイに二つの皿を載せて部屋に入ってくる。それにしてもこの子はなぜ餡掛けチャーハンなどという器用な料理ができるのだろうか。なぞである。
「だったら部屋のなかではとればいいのに」
あたしは、自分の両手を見る。
指先だけが出たニットの手袋。
手のひらから肘の手前までは、いつもその手袋に覆われている。
「そうじゃあないの。言っても理解できないから」
あたしは、トレイからチャーハンとスプーンをとると、一口ほお張る。おいしい。彼は家事ならなにをさせても上手だ。おまけに繊細で優しげな顔立ち。欠点があるとすれば、職業が詩人ということだけだ。
「何みてるのさ」
あたしはチャーハンをほおばる彼をじっとみつめる。
「言っても理解できないだろうけど、見れば判るよ。見てみる?」
「うん」
「じゃあ、くーちゃんとってきて」
彼はわたしのまえにクマのぬいぐるみを置く。あたしと半生を共にしてきた大事なぬいぐるみ。彼もそのことをよく知っている。
あたしは、彼のまえで手袋をとった。
「きれいな手だね」
「自殺の傷痕でもあると思った?」
あたしは手を裏返して傷のないことをよくみせる。彼は苦笑してみせた。
あたしは、ぬいぐるみを手に取る。いとおしさが込み上げ、ぎゅっと抱き締めた。
そのとき。
薔薇色の炎がともる。
彼の目の前で、ぬいぐるみは燃え上がり灰になった。
「すごいね」
彼は敬虔といってもいいような瞳であたしを見た。
あたしは、手をひろげる。火傷がないことを見せるため。あたしの炎はあたし自身を焼くことはない。
「あたしは、好きなものをこの手で抱くと灰にしてしまうの」
「いつからそうなの?」
あたしは首をふる。
「一番古い記憶だと、小学6年生のころ。家で飼っていたウサギを抱いた時急にいとおしくなって」
「燃えたの?」
「うん。驚いて落としたから灰にはならなかった。そのかわり、晩ごはんのおかずになったわ」
彼は苦笑する。
「そのあと大切にしていた本や写真を焼いてしまって」
「手袋をするようになったんだね」
あたしがうなずき彼は微笑んだ。
彼は立ち上がり部屋をでる。戻ってきたときには縄跳びの縄を持っていた。あたしがダイエットのため買ってほうりだしてたやつ。
「ちょっと」
彼は巧みにあたしの手を背中で縛る。
「ようは、抱かれなければいいんだ」
「それはそうだけど、でも」
あたしのことばは彼の口づけで途切れた。
彼は巧みにあたしの身体を愛撫する。奏でるように指先が肌の上を走り、囀るような口づけがあたしの奥深いところを抉る。
あたしの頭の中に、薔薇色の炎がともった。
あたしが赤黒い闇から現実に戻ったとき、彼はあたしの傍らで灰になっていた。あたしはうまく働かない頭で記憶をたどる。
彼はあたしを抱いてあたしの中心を貫きながら。
そうだ。
彼はそっと縄をほどき。
両の手を導き。
自分の身体を、あたしの両手の輪の中に置く。
そして。
ああ。
なぜ、そんなことをしたんだろう。いえ、判っている。決まっているじゃない、そんなこと。
彼は最も確実な形での愛の証しを求めたんだ。
世界で最も確実なリアルを。
カチリと。
あたしの中で何かが嵌まった。
あたしは部屋から駆け出しマンションの屋上へと出る。
頭上には青い青いそら。
その美しさに、あたしは涙する。
あたしは叫んだ。
何度も、なんども。
あたしは。
愛で。
世界を。
壊す。
青い、悲しいくらい美しく青い空へ両手を伸ばす。
そして。
そらは薔薇色に染まった。
0
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる