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夜の血
しおりを挟む夜の果てがきたら。
闇の終わりがきたら。
ひとの世の終わりがきたら。
おまえを切り裂きに行こう。
賑かな夜だった。
誰もが笑い合い、歌い語り合う。音楽が絶やされることはなく、食べ物と微笑みが絶やされることは無かった。
街頭は華やかに着飾った人達で、満ちあふれている。踊るようにひとびとはすれちがい、思うままに歩いていく。
僕はそのさまを、闇の中でじっと見つめている。
黒のロングコートを纏った僕の姿は闇と同化しており、誰も気に止めたりはしない。
僕の相棒が腰の鞘で、乾きの声をあげる。それは水晶の鈴を鳴らすような、透き通った音だ。
僕は鞘の上からそっと相棒をなでで、慰める。もうすぐだ。もうすぐ僕たちは満たされる。
僕は闇のなかから、あなたを見つめていた。
あなたの纏う黒いドレスは、星の無い暗黒の夜空のように美しい。
そして、あなたの白く輝く顔は、その夜空にかかる月のようだ。
僕は、夜の海を渡っていく星船のようなあなたをじっと闇の中でみつめている。
もうすぐだ。もうすぐ僕は、あなたのもとへ。
あなたは、ひとの波を漂ってゆく。僕はあなたの後をおう。月を追う地上の影のように。
あなたはひとに満ちた大通りをぬけ、静かな裏通りへと入ってゆく。僕は建物の影と同化し、闇となりあなたのうしろを歩く。
静寂の支配する、裏通りを抜けあなたはアパートの一つに入った。ぼくは階段の影に潜み、あなたと共にアパートを昇る。
そう、あなたが僕に気が付いたのは、あなたが自分のへやの明かりをつけた時だった。光りに照らされたぼくは、息をのむあなたに微笑みかける。
「やあ、久しぶりだ」
「私はあなたを知りません」
「じきに、思い出すよ。そうだなローマの帝国ではきみは僕の膝に頭をのせてキリスト教徒たちが生きながら焼かれるのを笑いながら見ていたよ」
「帰ってください」
「もっと前、キンメリアの雪原できみは、オーディンの娘の鎧を身につけ戦の庭で槍をふるい、僕をバルハラへ送ってくれた」
「帰って」
明確な拒絶の言葉。
相棒が、涼やかに叫ぶ。
僕は腰から相棒を取り出した。
それは鋏だ。ただし刃渡りが50センチ以上ある刃をつけた鋏。
あなたは、もういちど息をのむ。僕は静かに微笑みかける。
「心配ないよ、もうすぐ全てを思い出すさ」
僕は自分の舌を指で掴み、喉の奥から引きずり出す。
そして、僕は舌を鋏で切った。
床へ投げ捨てられた舌は、生き物のようにのたうつ。
赤い血。
夜の血。
真紅の泉が部屋へ溢れる。
僕は、あなたの纏う夜を切り裂く。
相棒は乾いた音をたてて、夜のドレスを切り刻んだ。
白い裸身をさらけ出したあなたは、人形となる。
血が部屋を満たして行く。膝まできた血の湖をあなたを抱えてぼくは歩いた。あなたを雪原のように白いベッドへ横たえる。
僕は、あなたに口づけをした。
あなたのなかにも、血が満ち溢れて行く。
僕らは真紅の泡立つ湖に沈む。
僕はその中で、泡になった。
やがて血は薔薇の花びらのとなり、あなたはその香りのなかで目覚めるだろう。僕の記憶とともに。
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