ただ、貴方だけを愛しているの。とても、とっても【愛に関する幾つかの断章】

ルサルカ

文字の大きさ
2 / 13

夜の血

しおりを挟む

夜の果てがきたら。

闇の終わりがきたら。

ひとの世の終わりがきたら。

おまえを切り裂きに行こう。


賑かな夜だった。

誰もが笑い合い、歌い語り合う。音楽が絶やされることはなく、食べ物と微笑みが絶やされることは無かった。

街頭は華やかに着飾った人達で、満ちあふれている。踊るようにひとびとはすれちがい、思うままに歩いていく。

僕はそのさまを、闇の中でじっと見つめている。

黒のロングコートを纏った僕の姿は闇と同化しており、誰も気に止めたりはしない。

僕の相棒が腰の鞘で、乾きの声をあげる。それは水晶の鈴を鳴らすような、透き通った音だ。

僕は鞘の上からそっと相棒をなでで、慰める。もうすぐだ。もうすぐ僕たちは満たされる。

僕は闇のなかから、あなたを見つめていた。

あなたの纏う黒いドレスは、星の無い暗黒の夜空のように美しい。

そして、あなたの白く輝く顔は、その夜空にかかる月のようだ。

僕は、夜の海を渡っていく星船のようなあなたをじっと闇の中でみつめている。

もうすぐだ。もうすぐ僕は、あなたのもとへ。

あなたは、ひとの波を漂ってゆく。僕はあなたの後をおう。月を追う地上の影のように。

あなたはひとに満ちた大通りをぬけ、静かな裏通りへと入ってゆく。僕は建物の影と同化し、闇となりあなたのうしろを歩く。

静寂の支配する、裏通りを抜けあなたはアパートの一つに入った。ぼくは階段の影に潜み、あなたと共にアパートを昇る。

そう、あなたが僕に気が付いたのは、あなたが自分のへやの明かりをつけた時だった。光りに照らされたぼくは、息をのむあなたに微笑みかける。

「やあ、久しぶりだ」

「私はあなたを知りません」

「じきに、思い出すよ。そうだなローマの帝国ではきみは僕の膝に頭をのせてキリスト教徒たちが生きながら焼かれるのを笑いながら見ていたよ」

「帰ってください」

「もっと前、キンメリアの雪原できみは、オーディンの娘の鎧を身につけ戦の庭で槍をふるい、僕をバルハラへ送ってくれた」

「帰って」

明確な拒絶の言葉。

相棒が、涼やかに叫ぶ。

僕は腰から相棒を取り出した。

それは鋏だ。ただし刃渡りが50センチ以上ある刃をつけた鋏。

あなたは、もういちど息をのむ。僕は静かに微笑みかける。

「心配ないよ、もうすぐ全てを思い出すさ」

僕は自分の舌を指で掴み、喉の奥から引きずり出す。

そして、僕は舌を鋏で切った。

床へ投げ捨てられた舌は、生き物のようにのたうつ。

赤い血。

夜の血。

真紅の泉が部屋へ溢れる。

僕は、あなたの纏う夜を切り裂く。

相棒は乾いた音をたてて、夜のドレスを切り刻んだ。

白い裸身をさらけ出したあなたは、人形となる。

血が部屋を満たして行く。膝まできた血の湖をあなたを抱えてぼくは歩いた。あなたを雪原のように白いベッドへ横たえる。

僕は、あなたに口づけをした。

あなたのなかにも、血が満ち溢れて行く。

僕らは真紅の泡立つ湖に沈む。

僕はその中で、泡になった。

やがて血は薔薇の花びらのとなり、あなたはその香りのなかで目覚めるだろう。僕の記憶とともに。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

処理中です...