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第九話
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おれはシンプルで都会的なデザインのリビングを抜けていく。
おれがオフするスイッチは、奥のベッドルームにある。
おれは、携帯端末を取り出すと操作してベッドルームのドアに取り付けられた指紋認証ロックを解除した。
全くベッドルームのドアにまで、セキュリティロックとはいかれている。
おんなをつれこんで抱きかかえてベッドルームにいくときに、いちいち指紋認証するというのだろうか。
金持ちの考えは判らん。
ベッドルーム。
そこは、月に支配されているように。
蒼ざめた光に満ちていた。
タンニングマシーンから漏れる紫外線が、部屋を照らしている。
なんのために、わざわざベッドルームにタンニングマシーンを置いているのかよく判らない。
金持ちが海辺のリゾートに行ったように見せかけるため、肌をベッドルームで焼くとも思えないが。
日焼けサロンにいけばお目にかかれるような、ごついタンニングマシーンが置かれている。
そいつは、当然ながらセキュリティシステムにコントロールされているわけでもなく、手でオフする以外手立てがない。
電力会社のシステムをハッキングしてここへの電力供給を停止するという手もあるにはあったが、たかがタンニングマシンを停止させるにはリスクが高すぎるし、コンドミニアムは自家発電システムを持っているようなのであまり意味がなかった。
なぜタンニングシステムを消さないといけないかは聞かなかったし、聞きたくもない。
金持ちの事情に踏み込むと、ろくなことにならないからだ。
おれは、タンニングマシンのそばに立つ。
おれは。
身体が、凍りつくのを感じた。
タンニングマシンの中にひとが、居たからだ。
このコンドミニアムの、このユニットにひとがいるはずが無かった。
もともとユニット全体の生体情報が監視されており、生きているひとがいればモニターに情報があがってくる。
おれがハッキングして捕らえたモニター情報には、生きているひとの存在を示すものはなかった。
生きているひとでなければ、死んでいるひとということになる。
死体の肌を焼いているのであれば。
グロテスクの極みといっていいだろうが。
おれは、そのひとが生きているのかどうか見極めがつかなかった。
生きているかはともかくとして、その身体は多分おんなのそれだ。
部分的にしか身体が見えないけれど、見えている部分のラインはおんなのものであった。
そして生きているものにしては、あまりに気配が無さ過ぎるし気を失っているいるにしても呼吸や脈動の動きすらない。
肌は死体のそれというよりも、人形のそれに近く陶磁器のように滑らかで白く輝いていた。
おれはあれこれ考えるのをやめて、スイッチに手をかける。
おれは。
おれのこころの奥から。
いや、全身全ての細胞が悲鳴をあげて警告しているのを感じた。
逃げろと。
スイッチに触れず、このまま立ち去れと。
携帯端末がバイブ機能で着信を示す。
おれはそれを手に取った。
『まさか今更怖気づいたりしてないよね』
依頼人の辛らつな言葉がおれの耳に飛び込む。
『引き返せないよ、もう。消しなさい。でなければ死ぬことね』
おれがオフするスイッチは、奥のベッドルームにある。
おれは、携帯端末を取り出すと操作してベッドルームのドアに取り付けられた指紋認証ロックを解除した。
全くベッドルームのドアにまで、セキュリティロックとはいかれている。
おんなをつれこんで抱きかかえてベッドルームにいくときに、いちいち指紋認証するというのだろうか。
金持ちの考えは判らん。
ベッドルーム。
そこは、月に支配されているように。
蒼ざめた光に満ちていた。
タンニングマシーンから漏れる紫外線が、部屋を照らしている。
なんのために、わざわざベッドルームにタンニングマシーンを置いているのかよく判らない。
金持ちが海辺のリゾートに行ったように見せかけるため、肌をベッドルームで焼くとも思えないが。
日焼けサロンにいけばお目にかかれるような、ごついタンニングマシーンが置かれている。
そいつは、当然ながらセキュリティシステムにコントロールされているわけでもなく、手でオフする以外手立てがない。
電力会社のシステムをハッキングしてここへの電力供給を停止するという手もあるにはあったが、たかがタンニングマシンを停止させるにはリスクが高すぎるし、コンドミニアムは自家発電システムを持っているようなのであまり意味がなかった。
なぜタンニングシステムを消さないといけないかは聞かなかったし、聞きたくもない。
金持ちの事情に踏み込むと、ろくなことにならないからだ。
おれは、タンニングマシンのそばに立つ。
おれは。
身体が、凍りつくのを感じた。
タンニングマシンの中にひとが、居たからだ。
このコンドミニアムの、このユニットにひとがいるはずが無かった。
もともとユニット全体の生体情報が監視されており、生きているひとがいればモニターに情報があがってくる。
おれがハッキングして捕らえたモニター情報には、生きているひとの存在を示すものはなかった。
生きているひとでなければ、死んでいるひとということになる。
死体の肌を焼いているのであれば。
グロテスクの極みといっていいだろうが。
おれは、そのひとが生きているのかどうか見極めがつかなかった。
生きているかはともかくとして、その身体は多分おんなのそれだ。
部分的にしか身体が見えないけれど、見えている部分のラインはおんなのものであった。
そして生きているものにしては、あまりに気配が無さ過ぎるし気を失っているいるにしても呼吸や脈動の動きすらない。
肌は死体のそれというよりも、人形のそれに近く陶磁器のように滑らかで白く輝いていた。
おれはあれこれ考えるのをやめて、スイッチに手をかける。
おれは。
おれのこころの奥から。
いや、全身全ての細胞が悲鳴をあげて警告しているのを感じた。
逃げろと。
スイッチに触れず、このまま立ち去れと。
携帯端末がバイブ機能で着信を示す。
おれはそれを手に取った。
『まさか今更怖気づいたりしてないよね』
依頼人の辛らつな言葉がおれの耳に飛び込む。
『引き返せないよ、もう。消しなさい。でなければ死ぬことね』
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