闇の中での悦楽

ルサルカ

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第十話

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 私は三回目のアルバイトの日、教授の研究室へ入っていくときに、少し戸惑いを感じた。体調が少し悪いのもあったかもしれない。その日は朝から頭痛に悩まされていた。
 しかし、やはり原因は間違いなく、前回に酷く醜態を晒したせいだと思う。たかが雷が鳴ったぐらいのことで子供のように悲鳴をあげ、ロールプレイを中断してしまったことを、私はとても恥じていた。
 部屋に入って挨拶すると、高松教授がいつもと変わらない柔和な笑みで迎えてくれる。高松教授は即座に私の不調に気付いたらしい。

「顔色が悪いようだね。無理をすることはないんだよ」

 私は笑みを浮かべて首を振る。

「いいえ、なんでもないんですけど。ただ、この間のことが申し訳なくて」

 教授は、はははと笑う。

「いやいや、あれくらいのアクシデントがあったほうが勉強になるんだよ。なあ、水戸君」

 水戸さんは、少し苦笑を浮かべて応える。

「先生は、どうしても私を困らせたいみたいだなぁ。でも、本当に気にすることはないんですよ、藤崎さん」

 いつもと変わらぬ人懐っこい笑みをみせる水戸さんに、私は少し曖昧な笑みを返した。私は今回の設定を書いたレジュメを受け取ると、読み始める。

「それにしても、この設定」

 私は少し、ため息をついて水戸さんに言った。

「このLという人は、つくづく私に似ていますね。なんだか、彼女と私の違いというのは、詩織がいるかどうかの違いだけに思えるんですけど」

 水戸さんは、ちょっと困惑した顔になる。

「ええと、詩織というのは」

「ああ、母に預けている私の娘です」

「なるほど」

 水戸さんは、少し悪戯っぽく笑った。

「とうとう、白状しないといけなくなったかな」

 私は、怪訝な目で水戸さんを見る。

「なんでしょう」

「うーん、実はね。高松先生に頼んで、Lの設定を極力あなた自身に近づけてもらったんだ。あなたという人に僕がちょっと興味を持ったせいでもある。もともとLはあなたと似た人の症例から選んだから、大筋が変わっている訳じゃないけどね。いままでそのことを秘密にしていたのは、ちょっとフェアじゃなかった気もするけど、どうせあなた自身が気付くだろうなと思ってあえて言わなかったんだ」

 私は、水戸さんに笑みを投げる。

「なんだ、別にそんなこと気にしなくてもいいですよ。そのほうが、私としてはやりやすいですから」

 その日は、結局水戸さんとはあまり話をせず、そのまま私は設定を頭に入れることに没頭していった。
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