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第十三話
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その日、私は自分の血がざわめいているのを感じた。その日は何かが起こる予感がした。けれども、私は平静を装って教授の部屋へ入る。
高松教授は私を迎え入れた時、何かを感じとったようだが、いつものと変わらぬ挨拶を交わした。ただ、教授は静かに言った。
「藤崎君、はじめにいったように、君がやめたくなればいつでもやめていいんだよ」
私はくすくす笑った。
「どうして? 先生、私結構このアルバイト楽しんでますよ。本業も暇だし最後までやらせてもらいます」
高松教授はそれ以上何も言わなかった。水戸さんも、今日は言葉が少ない。ただいつもと変わらぬ笑顔で、私を見つめていた。
私は水戸さんの笑顔になんとも言えない安らぎと、満足感を感じている。それがとても不思議だった。水戸さんを愛おしく思っていたといっても、いいかもしれない。それは、不思議な感情だった。
その日、私たちはあまり言葉を交わすこともなく、私は与えられたレジュメに集中し、ごく静かな準備時間が過ぎてゆく。私はいつものように、与えられた役の中へ入り込んでいった。
セッション4
【水戸のノートより】
Lはその日、とても饒舌だった。何か取り憑かれたように興奮し、色々なことをまくしたてる。それは、映画の話であったり、本の話であったり、テレビの話であったりした。
私が興味を持たない態度を取っていると、Lは次第に静かになってゆく。そして、言った。
「何よ、聞いているの、あんた」
「もちろん。ただ、君は一言も私の聞きたいことを話てくれていないね」
「どういうこと」
Lは、少し用心深い顔になる。
「前にもいったはずだ。私の知りたいのは真実だよ」
「ふん」
Lは鼻で笑う。
「何よ、真実って」
「私から言ってもいいかい」
Lは、仮面のように無表情になると頷く。
「あの日の話だ。君の赤ちゃんが居なくなった夜」
Lの反応は無い。
「まず、まちがいなく言えるのは君が君の赤ちゃんを殺したということだ」
Lは笑みの形に口を歪める。
「停電の時、君は子供を殺し、君の夫O氏を迎える。O氏は死体となった子供を見たわけだ。君は子供を解体し、氷嚢を交換するふりをしながらその死体の各部分を冷凍庫へ格納していった。夜に子供の泣声がしたのはテープレコーダーを使ったんだろう。部屋を隔てていれば、そう判るものではない。そしてO氏が警察にいっている間に死体を窯で焼いて始末した。そうだろう」
「よく知ってるじゃないの」
Lはあっさりと言った。
「見てた訳?あんた」
「誰だって見当のつくことを言っただけだよ。ただ、今話したことは現象に過ぎない。言ったろう。私の知りたいのは真実だ。いいかい」
Lは無言で頷く。
「私は、君がなぜ闇の中で子供を殺したのかを知りたいんだ」
そして、その時部屋に闇が墜ちてきた。事前に打ち合わせした通りである。外に待機しいる学生が、時間がきたらブレーカーを落とすことになっていた。
私は、許されないことをしているのだろう。賭としても危険すぎる行いだ。私は、不安だった。そして、躊躇っている。今なら、まだ中断することもできるのでは無いかとも思う。
しかし、ここまできてやめることはやはりできない。
Lは、いや、藤崎さんは、予想以上に落ち着いている。私の予想通り、闇の中でLと藤崎さんの統合が行われたようだ。
私は、最後の力を振り絞るような気持ちで言った。
「藤崎さん、私の言ったことが判りますね」
闇の中なので、彼女の表情は読めない。
「真実を教えて下さい。なぜ、あなたが詩織さんを殺したのか」
藤崎さんは、ゆっくりと思ったより平静な声でいった。
「私が詩織を殺したのは」
暫く、沈黙が続いた後にゆっくりと彼女は言った。
「あの子が私の父、藤崎十蔵の子供だからです」
再び、部屋に明かりが戻る。
藤崎さんは、落ち着いた表情だった。しかし、その頬を伝う涙は暫く止まらなかった。
セッション4 終了
高松教授は私を迎え入れた時、何かを感じとったようだが、いつものと変わらぬ挨拶を交わした。ただ、教授は静かに言った。
「藤崎君、はじめにいったように、君がやめたくなればいつでもやめていいんだよ」
私はくすくす笑った。
「どうして? 先生、私結構このアルバイト楽しんでますよ。本業も暇だし最後までやらせてもらいます」
高松教授はそれ以上何も言わなかった。水戸さんも、今日は言葉が少ない。ただいつもと変わらぬ笑顔で、私を見つめていた。
私は水戸さんの笑顔になんとも言えない安らぎと、満足感を感じている。それがとても不思議だった。水戸さんを愛おしく思っていたといっても、いいかもしれない。それは、不思議な感情だった。
その日、私たちはあまり言葉を交わすこともなく、私は与えられたレジュメに集中し、ごく静かな準備時間が過ぎてゆく。私はいつものように、与えられた役の中へ入り込んでいった。
セッション4
【水戸のノートより】
Lはその日、とても饒舌だった。何か取り憑かれたように興奮し、色々なことをまくしたてる。それは、映画の話であったり、本の話であったり、テレビの話であったりした。
私が興味を持たない態度を取っていると、Lは次第に静かになってゆく。そして、言った。
「何よ、聞いているの、あんた」
「もちろん。ただ、君は一言も私の聞きたいことを話てくれていないね」
「どういうこと」
Lは、少し用心深い顔になる。
「前にもいったはずだ。私の知りたいのは真実だよ」
「ふん」
Lは鼻で笑う。
「何よ、真実って」
「私から言ってもいいかい」
Lは、仮面のように無表情になると頷く。
「あの日の話だ。君の赤ちゃんが居なくなった夜」
Lの反応は無い。
「まず、まちがいなく言えるのは君が君の赤ちゃんを殺したということだ」
Lは笑みの形に口を歪める。
「停電の時、君は子供を殺し、君の夫O氏を迎える。O氏は死体となった子供を見たわけだ。君は子供を解体し、氷嚢を交換するふりをしながらその死体の各部分を冷凍庫へ格納していった。夜に子供の泣声がしたのはテープレコーダーを使ったんだろう。部屋を隔てていれば、そう判るものではない。そしてO氏が警察にいっている間に死体を窯で焼いて始末した。そうだろう」
「よく知ってるじゃないの」
Lはあっさりと言った。
「見てた訳?あんた」
「誰だって見当のつくことを言っただけだよ。ただ、今話したことは現象に過ぎない。言ったろう。私の知りたいのは真実だ。いいかい」
Lは無言で頷く。
「私は、君がなぜ闇の中で子供を殺したのかを知りたいんだ」
そして、その時部屋に闇が墜ちてきた。事前に打ち合わせした通りである。外に待機しいる学生が、時間がきたらブレーカーを落とすことになっていた。
私は、許されないことをしているのだろう。賭としても危険すぎる行いだ。私は、不安だった。そして、躊躇っている。今なら、まだ中断することもできるのでは無いかとも思う。
しかし、ここまできてやめることはやはりできない。
Lは、いや、藤崎さんは、予想以上に落ち着いている。私の予想通り、闇の中でLと藤崎さんの統合が行われたようだ。
私は、最後の力を振り絞るような気持ちで言った。
「藤崎さん、私の言ったことが判りますね」
闇の中なので、彼女の表情は読めない。
「真実を教えて下さい。なぜ、あなたが詩織さんを殺したのか」
藤崎さんは、ゆっくりと思ったより平静な声でいった。
「私が詩織を殺したのは」
暫く、沈黙が続いた後にゆっくりと彼女は言った。
「あの子が私の父、藤崎十蔵の子供だからです」
再び、部屋に明かりが戻る。
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