引きこもり天使の救済奇譚〜引きこもりだった天使が親のいいつけで人間界に舞い降りて嫌々アナタを助けてくれます〜

しゃる

文字の大きさ
38 / 65
第一章カトリの街

エピソード38 殺意と姉からの溺愛

しおりを挟む

 全体的に木目調の店内に入り、アンティークな雰囲気を醸し出す椅子に腰掛けます。


「雰囲気出てる」


「ね!レミよくこんな所知ってたね」


「ふふん、外に出る回数が少ないので一回でいいお店を判断する力が強いんですよ」


 これは誇っていいんでしょうか、と自分でも思います。いや、本当に。


「レミ、オススメはあるの?」


「オススメはブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドの組み合わせです」


 ラミ姉は「サンドの方、名前長くない?」と苦笑しています。


「私は五度目で注文する際の羞恥心が消えました」


「レミリエルさんもこれは普通じゃないって思ってた様で安心」


 あ、そう言えばリルさんって普通に食事できたんでしたっけ?


 いつも魔力を供給していますが、食べ物を食べている姿は見たことがないです。


「あの、リルさんってこういう食事食べられるんですか?」


「栄養にはならないから食べてこなかったけど、味わうことは出来る」


 なら皆で食べられますねと胸を撫で下ろします。一人だけ食べられないとか流石に酷なので。


「ぐうぅ~お腹空いた」


「え、今口で言ったのかお腹の音なのかどっちですか?」


「どっちも」


 とにかく、お腹が空いているようなので店員さんをラミ姉に呼んでもらいます。


「ご注文お伺い致します」


「私、ブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドで」


「右に同じ!」


「私もそれで⋯⋯」


 あ、皆シェフのこだわったりこだわらなかったりサンドって言いたくなかったんですね。


 私一人だけ恥をかけと。


「お待たせしました~」


 注文をして直ぐに、店員さんが注文の品を持ってきました。


「ありがとうございます」


 テーブルに次々とブラックコーヒーとシェフのこだわったりこだわらなかったりサンドが並べられます。


「まあ、名前はアレですけど美味しいので食べてみてください」


 リルさんとラミ姉は特に疑う様子もなく、コーヒーを口に運びました。


 いや、そっちじゃないです。


 程なくして、コーヒーにそこそこご満悦な様子で二人ともサンドイッチを口に運びます。


「あ、美味しい」


「いける」


 二人とも素朴な感想を残して、次へ次へと食べ進めました。


 本当に美味しいと言葉が出ないと聞きますし、悪くはなかったのではないのでしょうか。


 オススメする側としては不評だとどうしようと言う気持ちが心の底にあったので、一安心です。


「さてと、私食べますか⋯⋯」


「あれ~可愛い子発見。俺たちと遊ばない?」


 不意に背後から話しかけられ、サンドイッチを食べる手を止めます。


 後ろを振り返りと、柄の悪い男が二人たっていました。「獲物を見つけた」とでも言いたげな表情でニヤニヤと不敵な笑みを浮かべています。


 怖い。


「あの、どちら様かな?」


 ラミ姉が私を見て「嫌だ」という事を察したのか、笑みを浮かべながらも圧の乗った声で応対します。


「いや俺ら暇だったし?お姉さん達と遊べないかなーって」


「かなーって」


 話しかけてきた体格のいい男の後ろにいる小柄な男がセルフエコーをかけます。


 何なんですかお前は。


「私達は私達で楽しんでいるから、お引き取り願いたい」


「つれないこと言わないでよ」


「でよー。お、この髪の長い子好みかも」


 エコーをかける方が私の髪に手を伸ばしてきました。嫌だと言わなきゃいけないのに、怖い気持ちが勝ります。


「触るな」


 ラミ姉が、本当に圧のかかった声でエコー男を咎めます。


 驚いたのか、エコー男は慌てて手を引っ込めました。私もこの男たちに対する恐怖よりも本気で苛ついているラミ姉に対する恐怖の方が強く、脳内で上書きされました。


 リルさんも同様で黙りながらもその目には不安の色が浮かび上がります。


「お姉さん怖いよ?高嶺の花気どんなよ」


 体格のいい男も一気に声色が下がり、その声圧には思い通りにいかない苛立ちを感じます。


「この子にそんなに触られたくないのかよ」


 男は、謀った様な笑みを浮かべて私の手首を力任せに掴みあげました。


 流石に声を出して反抗しようと思いましたが、それには及びませんでした。


「殺すぞ」


 ラミ姉の、殺意の籠った一言に私の手首は解放されました。


 そして、男たちはその場で頭を抱えて苦痛の表情を浮かべながら嗚咽を漏らしました。


 天使が本気でただの人間に殺意を向けると、人間の身体に害をなすと聞いたことがあります。


 そして、ラミ姉は今も殺意の籠った目を男たちに向けています。


「うっ⋯⋯頭がっ、割れるっ⋯⋯」


「助けっ⋯⋯死ぬ⋯⋯」


 ラミ姉は苦しむ男たちをただ、無言で見つめていました。殺意を込めて。


 人間にどれほどの害がでるのかは知りませんが、ラミ姉は天界でも戦闘に関しては最上位。


 止めなければ本当に命を落としてしまうのでは。


 リルさんもそう感じたのか、青ざめた表情で私に「止めて」と目で訴えてきます。


「う、うぁぁぁぁ!」


「死ぬっ!死ぬぅ!!」


 その場に崩れ落ちる男たち。いよいよまずいかもしれない。


「ラミ姉!やめてっ、やめてください!」


 幾らラミ姉の肩を揺すっても、殺意の湧いたあの目はやめてくれませんでした。


「もうっ⋯⋯いいから⋯⋯」


 私の縋るような声に、ようやくラミ姉はいつもの穏やかさを取り戻しました。


「レミ、ごめんね」


 私たちは店員さんに「突然体調が悪くなり、倒れた」と説明して、店を後にしてベンチのある噴水へと避難しました。


 周りから見たら突然嗚咽を漏らしだしたようにしか見えないので、あの説明で何とかなったでしょう。


「ごめんね~二人とも。レミも、行きつけのお店で変な騒ぎ起こしちゃって申し訳ない」


「本当ですよ。私の事になるとブチギレるのやめてください」


 はぁと溜息を着くとラミ姉は「ごめんね⋯⋯」と心底申し訳なさそうにしました。


「まあ、怒ってくれて助かった所はありましたけど」


「うん、あのままだと面倒くさくなってた、かも」


 リルさんも私に同調して、必死に頷いています。


「ありがとう、次来る時はもっとちゃんとするから」


 ラミ姉は名残惜しそうに「そろそろ戻らないと、仕事が⋯⋯」と光の宿っていない眼で呟きます。


 本当はもっとやりたい事があったのですが、私ももう子供では無いので駄々はこねられません。


「また、来てくださいね」


「うん。偉いよ、レミ」


 振り絞った一言に、全てを見透かす様に頭を撫でられました。


「リルちゃんも、良くしてくれてありがとうね」


「今度来るときは、もっとゆっくりして行って」


 同様にリルさんの頭も丁寧に撫でます。


「それじゃあ、また来るから」


 ラミ姉は眩い光を放ち、光が消える頃には既にラミ姉の姿はありませんでした。


 寂しい気持ちもありますが、不思議と私も天界に連れ帰って欲しいという気持ちはありませんでした。


 私も、成長したのでしょうか。


 ただ、寂しいものは寂しいのでその日はリルさんと手を繋いで帰りました。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...