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episode1殺し屋 夢原哀
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夢原哀が今回のターゲットに聞かされている事は二つだけ。一つ、ターゲットが歳若い女であること。二つ、ターゲットは"神出鬼没"であり、今まで仕向けた殺し屋は殆ど全てが返り討ちに遭っているという事。
夢原哀とは女子高生の制服姿に包まれ、腰まで伸びた銀髪に澄んだ瑠璃色の瞳をした、顔の良い何処にでもいる女子高だ。そんな夢原は学校の帰り道、友人と戯れながら思った。
"今回の仕事で私は死ぬかもしれない"
「ねえどうしたの哀? 何だか浮かない顔してるけど、私といるのつまらない?」
「そ、そんな事ないよ。空ちゃんと一緒に帰るのは楽しいけど、ただ⋯⋯」
「ただ、どうしたの?」
「⋯⋯ただ、この後のバイトが憂鬱だなって⋯⋯」
夢原は友人の前でいかにもな取り繕った溜息をついてみせた。その様子を見て友人は思い出したように言った。
「そういえば哀ちゃんバイトしてるもんね。偉いよね、学校終わってすぐにバイトなんて」
「別に偉くないよ。自分のお小遣い欲しさにやってるだけだもん」
「それじゃ、私のバイト先こっちだから」
夢原は友人と別れた後に、今度は本心からの溜息を着く。
「はぁ。友達付き合いとか煩わしくて溜まりませんね」
先程の会話の中に、夢原は一つ嘘をついていた。夢原哀はアルバイトなどしておらず、ましてや現在向かっているのはバイト先などではない。
夢原哀は、女子高校生との兼業殺し屋だった。
今回の依頼内容は一見ただの洋服屋だが、中で店主をしている女性が、実は裏社会に仇なす曲者らしく、その店主をぶち抜く事だ。
おまけに従業員と客が入れば何人殺しても良いらしく、仮に足が付いても犯人を他にでっち上げるから、夢原が捕まる事はないらしい。
依頼を受ける際、夢原は何が何でもその女を殺せと言われた。
正直夢原はめちゃくちゃだと思ったし、何故店で殺る必要があるのか分からなかった。暗い雨の夜の帰り道でも問題は無いだろうと思った。
その女は裏社会にどう仇なしているのか、その女性が生きている事で、そんなにも不利益があるのか、夢原は気になったが、そんな事は私の知ることでは無いと切り替える。
余計な事は詮索しない、殺れと言われた場所で殺る。それが殺しの流儀だ。
スマホで住所を確認し、愛銃のセーフティを外して呟く。
「ここだ。本当に洋服屋なのですね⋯⋯」
夢原の目の前には個人経営であろう、こじんまりとした洋服屋が建っている。
緊張で汗ばむ手でドアを開き、夢原は入店する。カランコロンという鈴の音が店内中に鳴り響く。
「あ、いらっしゃいませー! 今行きまーす!」
店内に入ると奥から夢原と同い歳、女子高生にしか見えない少女が飛び出してきた。
店員だろう。夢原は緊張で早くなる鼓動を隠すように、柔らかい口調で言った。
「あの、店長はいますか? 用事があるのですか」
「あ、店長なら私ですよ」
「え」
「だから、私が店長です! えっへん!」
目の前の少女は、何故か偉そうに胸を張った。そこそこ大きい胸に夢原は一瞬目を奪われてしまった。
ここの店員は随分フレンドリーなんだと気を取り直し、夢原は質問する。
「アナタ、私と同い歳くらいじゃないですか。本当に店長に用事があるんです」
少女は少し不貞腐れた様な顔をして言う。
「もー、だから私が本当に店長なんですよ。これで私が大人のレディだったら失礼ですよ!」
「え、ではまさか本当に⋯⋯」
「そう、私が店長!!」
それを聞いた瞬間、夢原は周囲を確認する。小さな個人店だから、予想通り周りに客はいない。好都合に店員もいなかった。
殺れる。夢原は事前にセーフティの外してあった銃を取り出し、静音の銃の引き金を引く。
「恨みはありませんが死んでください」
そう言って撃ち込んだ弾は、ターゲットに当たる事は無かった。なんなら夢原の世界がぐるんと一周した。地に着いた夢原の身体に痛みが走る。何をされたか分かるまで、咄嗟の事で理解に数秒かかった。
「ダメだよ。私に用事があるなんて言ったら、警戒するに決まってるじゃん」
押し倒されたのだ。少女は撃ち込まれた銃弾を交すと同時に夢原に足を掛け体勢を崩し、夢原を押し倒した。文字通り、二人の距離は目と鼻の先の状態だ。
殺しの最中だと言うのに、夢原は少女の顔をから目が離せなかった。
金髪のうねったボブヘアー、幼い顔立ち、それに吸い込まれるような深紅の瞳。
目が離せなかった夢原は、少女に意図も容易く銃弾を奪われた。とんだ間抜けだ。
「はいこれ没収ね。ダメだよこんな物騒なの持ち歩いたら」
「あ」
「あ、じゃありません」
少女はそのまま取り上げた銃を夢原に向けた。セーフティは外してある、銃口を向けられた夢原は今度こそ死んだと思い、ぎゅっと目を瞑った。
だがいつまで経っても弾が飛んでくる事は無かった。ただ一言、
「ざんねーん。私はアナタを殺しませーん! びっくりした?」
そう言ってターゲットはにまにまとムカつく笑みを浮かべていた。
夢原哀とは女子高生の制服姿に包まれ、腰まで伸びた銀髪に澄んだ瑠璃色の瞳をした、顔の良い何処にでもいる女子高だ。そんな夢原は学校の帰り道、友人と戯れながら思った。
"今回の仕事で私は死ぬかもしれない"
「ねえどうしたの哀? 何だか浮かない顔してるけど、私といるのつまらない?」
「そ、そんな事ないよ。空ちゃんと一緒に帰るのは楽しいけど、ただ⋯⋯」
「ただ、どうしたの?」
「⋯⋯ただ、この後のバイトが憂鬱だなって⋯⋯」
夢原は友人の前でいかにもな取り繕った溜息をついてみせた。その様子を見て友人は思い出したように言った。
「そういえば哀ちゃんバイトしてるもんね。偉いよね、学校終わってすぐにバイトなんて」
「別に偉くないよ。自分のお小遣い欲しさにやってるだけだもん」
「それじゃ、私のバイト先こっちだから」
夢原は友人と別れた後に、今度は本心からの溜息を着く。
「はぁ。友達付き合いとか煩わしくて溜まりませんね」
先程の会話の中に、夢原は一つ嘘をついていた。夢原哀はアルバイトなどしておらず、ましてや現在向かっているのはバイト先などではない。
夢原哀は、女子高校生との兼業殺し屋だった。
今回の依頼内容は一見ただの洋服屋だが、中で店主をしている女性が、実は裏社会に仇なす曲者らしく、その店主をぶち抜く事だ。
おまけに従業員と客が入れば何人殺しても良いらしく、仮に足が付いても犯人を他にでっち上げるから、夢原が捕まる事はないらしい。
依頼を受ける際、夢原は何が何でもその女を殺せと言われた。
正直夢原はめちゃくちゃだと思ったし、何故店で殺る必要があるのか分からなかった。暗い雨の夜の帰り道でも問題は無いだろうと思った。
その女は裏社会にどう仇なしているのか、その女性が生きている事で、そんなにも不利益があるのか、夢原は気になったが、そんな事は私の知ることでは無いと切り替える。
余計な事は詮索しない、殺れと言われた場所で殺る。それが殺しの流儀だ。
スマホで住所を確認し、愛銃のセーフティを外して呟く。
「ここだ。本当に洋服屋なのですね⋯⋯」
夢原の目の前には個人経営であろう、こじんまりとした洋服屋が建っている。
緊張で汗ばむ手でドアを開き、夢原は入店する。カランコロンという鈴の音が店内中に鳴り響く。
「あ、いらっしゃいませー! 今行きまーす!」
店内に入ると奥から夢原と同い歳、女子高生にしか見えない少女が飛び出してきた。
店員だろう。夢原は緊張で早くなる鼓動を隠すように、柔らかい口調で言った。
「あの、店長はいますか? 用事があるのですか」
「あ、店長なら私ですよ」
「え」
「だから、私が店長です! えっへん!」
目の前の少女は、何故か偉そうに胸を張った。そこそこ大きい胸に夢原は一瞬目を奪われてしまった。
ここの店員は随分フレンドリーなんだと気を取り直し、夢原は質問する。
「アナタ、私と同い歳くらいじゃないですか。本当に店長に用事があるんです」
少女は少し不貞腐れた様な顔をして言う。
「もー、だから私が本当に店長なんですよ。これで私が大人のレディだったら失礼ですよ!」
「え、ではまさか本当に⋯⋯」
「そう、私が店長!!」
それを聞いた瞬間、夢原は周囲を確認する。小さな個人店だから、予想通り周りに客はいない。好都合に店員もいなかった。
殺れる。夢原は事前にセーフティの外してあった銃を取り出し、静音の銃の引き金を引く。
「恨みはありませんが死んでください」
そう言って撃ち込んだ弾は、ターゲットに当たる事は無かった。なんなら夢原の世界がぐるんと一周した。地に着いた夢原の身体に痛みが走る。何をされたか分かるまで、咄嗟の事で理解に数秒かかった。
「ダメだよ。私に用事があるなんて言ったら、警戒するに決まってるじゃん」
押し倒されたのだ。少女は撃ち込まれた銃弾を交すと同時に夢原に足を掛け体勢を崩し、夢原を押し倒した。文字通り、二人の距離は目と鼻の先の状態だ。
殺しの最中だと言うのに、夢原は少女の顔をから目が離せなかった。
金髪のうねったボブヘアー、幼い顔立ち、それに吸い込まれるような深紅の瞳。
目が離せなかった夢原は、少女に意図も容易く銃弾を奪われた。とんだ間抜けだ。
「はいこれ没収ね。ダメだよこんな物騒なの持ち歩いたら」
「あ」
「あ、じゃありません」
少女はそのまま取り上げた銃を夢原に向けた。セーフティは外してある、銃口を向けられた夢原は今度こそ死んだと思い、ぎゅっと目を瞑った。
だがいつまで経っても弾が飛んでくる事は無かった。ただ一言、
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