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5.しばしの別れ

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 最近、私には悩みがある。

 フェリクス様との夜の営みについてだ。

 恐らく彼の性癖だと思うのだが、私を後ろから突くのがお好きなようで、行為の大半は執拗に背後から攻め立ててくることが多いのだ。

 動作は激しいが、決して痛くはない。よつ這いやうつ伏せにさせられて、胸や秘処の上の方を指で弄られながら後ろから出し挿れされるのは、正直とても気持ちが良い。しかし、とにかく怖い。

 何が怖いって、ただでさえ表情がよく分からないフェリクス様の顔が全く見えなくなるし、これから何をされるのか視覚的に分からないという未知の恐怖が常に付き纏うからだ。

「名前の通り、君の肌は真っ白だな。赤い跡が映えそうだ」

 時折首筋や背中を撫でながら背後からそんなことを言うものだから、気が気でない。赤い跡って何。私に何をするつもりなの。指先でつぅってなぞるの怖いからやめて。

 もちろん、あの家畜で乙女な王子に物騒なことができるとは思わないけれど、万が一首を絞めてきたり、うなじを噛んできたり、お尻とか叩いてきたらと思うと、とっても怖い。もしそんなことしたら絶対に許さないけれど。倍にして返してやるけれども。

 私は思い切ってフェリクス様に聞いてみることにした。後ろから今まさに挿入されそうな時に。

「フェリクス様はこの姿勢で挿れるのがお好きなのですか?」

 うつ伏せにされ、お尻を掴まれた状態で、フェリクス様の顔は見えない。

「ああ、好きだ。君を奥深くまで愛せてとても気持ちが良いんだ」
「……そうですか」

 本当に、それだけ?他に恐ろしい願望をお持ちではないのね?信じていいのね?嘘だったら絶対に許さないんだから。

 私の疑念が伝わったのか、くるりと身体をひっくり返されて、仰向けにされた。

「ブランシュは後ろから愛されるのは好きではないのか?」
「気持ちは良いのですが……、私はこちらから愛される方が好きですわ。フェリクス様のお顔が見えてとても安心しますもの」

 そういうと、彼は固まってしまった。

「フェリクス様?どうしました?大丈夫ですか?」

 再三に渡り呼びかけると、はっとしたように意識を取り戻した。

「……今夜は君を見つめながら抱かせてほしい。……明日も、明後日も。……君も私のことをずっと見つめていてくれ」

 またよくわからない乙女系王子になってしまったようだ。まぁ良い。これで背後から不意打ちで襲われる心配は無くなったのだから。

「んっ、やっ、……もう、やめ……っ、あぁっ」
「……また果てたのか?ブランシュは感じやすいな。私もあと少しだから、一緒に気持ち良くなろう。ほら、私の瞳をしっかり見て」
「もっ、やっ……、あっ……んんっ」
「ほら、また目を逸した。ちゃんと見つめて」

 誤算だ。正面からはっきりと顔が見えるし何をされるのか丸わかりにはなったけれど、指をしっかりと絡めて手を握り締めて上から攻め立ててくるから怖い。逃げられないよう厳重に拘束されているみたいで恐怖感が半端じゃない。

 一切逸らそうとしない切れ長な目も、肉食獣か猛禽類に追い込まれている気分になるから背筋がゾクゾクする。その上目を瞑ったり逸らしたりするとフェリクス様が達してくれないから行為が長引く。もう本当にしつこくて嫌。





 そんなこんなの日々を過ごしていた矢先、母国から手紙が届いた。

 お母様が病で倒れたらしい。命に別状はないようだが、しばらく安静が必要だそうだ。

 どうしてもお母様のお見舞いがしたいからしばらく母国に帰りたいと願い出た私に、フェリクス様は心なしか悲しそうな表情ではあったけれど即座に許可してくださった。馬車で片道ふた月以上かかるから、長い旅路になる。

「申し訳ございません。心配で仕方ありませんの」
「いや、気にしないでくれ。君の大切な母君のことだから。……旅立つ君にこれを。私の想いの丈を込めているから外さないでいてほしい。どうか、無事に私のもとに帰ってきてくれ」

 そういって、フェリクス様はその瞳と同じお色の宝石のネックレスを私に着けてくれた。

 やはり心優しい王子様なようだ。鬼畜だったら絶対に母国になど帰してくれないもの。ネックレスまで用意をしてくれるだなんて、乙女心をわかっている。だてに乙女系王子はしていないわね。

 別れ際、名残惜しそうに唇に口付けを落としてくれた。私もフェリクス様のさらさらの銀髪に触れてみた。

「いってきます、フェリクス様」
「いってらっしゃい、ブランシュ」

 しばらくフェリクス様のお顔が見えないのは、少し寂しいかもしれない。帰ってきたらたくさん可愛がってあげよう。

「ブランシュ様ぁっ!絶対に、絶対に帰ってきてくださいね!できるだけ早くっ!!お願いしますっ!!絶対ですよぉ!!」

 大泣きをしながらニコレットも私を見送ってくれた。

 ごめんなさいね。お母様が元気になるまでは戻れないわ。それに、しばらくはひとりでゆっくりと眠りにつきたいし。

 馬車に揺られながら旅路を行く中、シャラリと小さな音が耳に入る。

 フェリクス様が着けてくださったネックレスだ。小ぶりだけれど質の良い紫色の宝石が付いたネックレス。とても素敵だわ。

 でも、私は肌が敏感だから、長時間アクセサリーを身に着けているのは苦手なのよね。外さないでほしいとは言われたけれど、道中くらいなら平気よね。

 そう思い、手を後ろに回しネックレスの留め具に手をかけた。

 おかしい。外れない。何で、何でなの。それに、留め具に手を触れる度に背筋がゾワゾワしてくる。思いを込めた云々おっしゃっていたけれど、呪いの間違いじゃないわよね?



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