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飛狼

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第三章 カンザキ商会

◇聞いた百文よりも見た一文というけれど。

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 取り敢えず、タンガとカイナの二人をギルドの建物に残し、桟橋に出てみた。確かに、外洋に出る大型の商船は、桟橋に停泊したまま動きがない。しかし、沿岸部を廻っているのか、小型の商船や更に小さな漁船などは忙しく動き廻り、海賊騒ぎがあるといっても結構な賑わいがあった。
 外洋に海賊の危険があるというのが、信じられないような活気に満ちた様子に首を捻りながら、アマンダに教えてもらった分所へと歩む。

 まぁ、それだけこの港が安全だということなのだろう。

 そのギルド分所は、湾内へと伸びる桟橋の根元辺りにあった。アマンダさんの話では、水夫を雇うにもそこで聞いてみれば良いと言っていたが、海賊の事があるので今は満足に雇えるか分からないとのことだった。
 ギルド分所自体はそれほど大きな建物でなく、ちょっとした木造の小屋。良く日本で見掛けた、工事現場にあるプレハブの仮設事務所に毛が生えたような大きさの小屋だ。
 その近くの桟橋には、数隻の大型商船が停泊している。全長は50から100メートルぐらいの3本マストの帆船。丸っこい船体にメインになる大きな横帆や、逆風にも対応する三角帆などが張られている。見たところ、元いた世界のキャラックとかキャラベルとか言われる帆船に良く似ていた。

 これらの帆船が、売りに出されているのだろうか。この中の一隻が、俺の持ち船になるのかもと思うと、何だかわくわくと興奮してしまう。これを皮切りに、持ち船を増やしていき数隻の船主となり販路を拡げてと、想像逞しく夢想してしまうのは、男なら誰しものことだろう。だから、自然と顔が綻びにやけてしまうのも、仕様が無いことだと思う。
 俺はにやにやとした笑いを、顔に貼り付かせたまま小屋の扉を潜った。

 だが、小屋の中に入った途端、大きく膨らんでいて夢は急速に萎み、顔をしかめてしまう。何故なら、そこはアルコール臭と、饐えたような汗の匂いで充満していたからだ。

 ――ここは酒場かよ。

 一歩中に入り周囲を見渡すと、見るからにむさ苦しいヒューマンの男達が、昼間っから酒を飲み屯していた。

 ――おかしいな。

 聞いた話だと、ここは商業ギルドの分所のはずなのだが……アマンダさんに聞いた場所はここで間違いないと思うのだけど、別の場所だったかな。
 まぁ、一応、聞いてみるか。
 まるで、酒場のような有り様に、眉を潜めつつも目の前のカウンターに近付こうとするが……。

「おいニイちゃん、見ない顔だな。ここでは新顔は一杯奢ることになってるんだぜ。ぎゃははは」

 近くに座っていた茶髪の若い男が、真っ赤になった酔顔を向けてきた。

 俺はあまり酒が強くない。付き合い程度でしか飲めないのだが、そういった事が匂いで分かるのか、日本にいた頃から良く酔っ払いに絡まれたものだ。絡まれやすい体質なのかね。

 その若い男を無視して進む。が、それが気に食わないのか、男は俺の歩く両足の間に自分の右足を差し出した。

 ――お前は小学生かよ。

 あまりにもガキっぽい振る舞いに、苦笑を浮かべ、ひょいとその足を飛び越える。しかしそれが、男には癇に障ったようだった。

「おい、新入りのくせに随分な挨拶だな。俺が挨拶の仕方を教えてやるぜ」

 男は激昂して立ち上がってくる。が、どうにも足下が覚束ないのか、ふらふらと左右に体を揺らしていた。

 酔っ払いはこれだから嫌なんだよ。自分がいかに理不尽な行いをしているのか、分からずに絡んでくる。得てしてそういう者に限って、酔っ払ってた時の事を覚えていないものだ。
 俺は、うんざりとしながら、男を無視して奥にあるカウンターへと向かう。
 しかし、その男は更に掴み掛かろうと腕を伸ばしてくる。が、それを体を横にずらしてあっさりと躱す。

 何ともぬるい動き。スキルを使うまでもない。

 だが、俺が躱したため、男の伸ばした手のひらは宙を掴み、その拍子に男は派手に転んでしまっていた。

「この野郎! やりやがったな」

 自分が勝手に転んだくせに、随分な言い種だな。
 しかし、床に転がる男が喚いているだけでなく、周りにいる男達までも騒然としだした。

 ――ちっ、厄介な。

 こういう連中は仲間意識が非常に強い。タンガがいれば、睨みが利いたのだが。こうなると、タンガの有り難みも分かってくる。いつも、脳筋と馬鹿にして悪かったなと心の中で謝りつつも、やはり肝心な時にはいなくて役に立たないやつめ等と、正反対な事を思いながら身構える。
 しかし……。

「お前らうるせえぞ! 静かにしねぇか!」

 正面のカウンター奥から、こいつらの親分然とした男が姿を見せたのだ。その男は、頭がつるっぱげ、ガチムキマッチョの体付き。片方の目には真っ黒な眼帯を巻いていた。

 ――ホントにヒューマン?

「こいつは剃ってるからな。禿げてるわけじゃねえぞ」

 俺の視線に気付いたのか、ごつい手のひらで自分の頭をつるりと撫で付ける。
 あっ、気にしてたんですね、すんません。それにしても、良く見るとヒューマンのようだけど、まるでゴリマッチョの獣人みたいだぞ。

「俺はここの所長をしてるカレリン。で、お前は」

 カレリンと名乗る男が片方しかない眼で、ぎょろりと睨んでくる。

「……俺はリュウイチ。ギルドのアマンダさんに言われて、買い付ける商船を見にきたんだが、ここはギルドの分所で間違いないよな」

「おっ、もしかして客か。そいつはすまねえな」

 破顔したカレリンが頭を下げ、「馬鹿野郎! 客じゃねえか」と、周りの男達を怒鳴り付けていた。

「すまねえな、最近モルガン家の連中が妙な難癖を付けてきやがるから、皆ちょっと殺気だっててな」

 またかよ。ホントにモルガン家ってのは、何を考えてんのかね。

「それで買いたい商船ってのは、もしかして表にある外洋船か?」

「あぁ、そのつもりだが」

 俺が答えると、周りの男達が口笛を吹き囃し立てる。そんな男達を睨みつつ、カレリンがまた話し掛けてくる。

「悪いな。こいつらは海賊騒ぎで、仕事に溢れてる水夫達でな。それにしても、今時商船を買うとは豪儀な話だが……もしかして水夫も入り用か?」

「あぁ、まぁな」

 俺の答えに周りの男達が、一様に顔を輝かせる。
 おいおい、まだお前らを雇うとは言ってないぞ。それに、さっきは俺に襲い掛かろうとしてたくせに、何とも現金なやつらだ。

「ほほぅ、そうなると行き先は、黄都メサアか?」

 ん、黄都メサア? どこだそれ。また、俺の知らない地名が出てきたぞ。

「そんなとこは知らないな。俺の行き先はモルダ島」

 モルダ島と聞いた途端に、周りの男達は輝かせていた顔を背け、そしらぬ顔をする。
 そして、目の前のカレリンも驚愕の表情を浮かべていた。

「モルダ島だと……いや、お前の考えてる事は分かるぞ。ピメントで一旗上げようと思ってるんだろ。だがな、今はモルダ島への航路が一番危ない。何といっても、新緑祭が、来月に迫ってるからだ。だから、海賊共がてぐすね引いて待ち構えてる。悪いことは言わねえ、モルダ島への航路は考え直した方がいいぞ」

「あぁ、それは承知の事だ。それに、こいつは半分はサンタール家からの依頼でもあるからな」

「サ、サンタール家だと! ……お前はサンタール家と関わりがあるのか」

「まあな」

 カレリンが「うぅん」と唸り声を上げ、俺を品定めするかのように、片方の眼をぎょろりと剥き眺めてくる。

「……良し、分かった。俺が責任を持って水夫は集めよう。海賊相手でも、腰が引けない荒くれどもをな」

 カレリンが、ふてぶてしい笑みを浮かべて笑う。
 俺には、あんたが海賊の親玉に見えるぞ。

「そうと決まれば……おっと、その前に表の商船を見てもらわないと」

 そして、カレリンと一緒に小屋の外に出ようとすると、背後から声がかかる。

「お、俺を雇ってくれ!」

 振り返ると、そこには最初に俺に絡んできた若い男が、必死な形相を浮かべていた。

「お前は、挨拶が悪いとか言って俺に絡んできた男だな」

「さ、さっきは、すまなかった。この通りだ」

 男はすっかりと酔いもさめたのか、真面目な表情を浮かべ、その場で座り込むと土下座をして頼み込んでくる。
 参ったな。何か俺が悪人みたいじゃないか。

「俺はどうしてもモルダ島に行かなきゃならないんだ。だから、お願いだ」

 何やら事情が有りそうだが、どうしたものかな。
 俺は、床に額を擦り付け頼み込む男を、呆れたように眺めていた。
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