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第四章 邂逅と襲来
◇牛に引かれて善光寺参りというけれど。
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この魚野郎は何を言ってやがる。
「おい、ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとカリナ達を返せ!」
「オ前ハ、世界ノ理ヲ正ス者デハ無イノカ?」
――この野郎!
全く話が噛み合わない。その事に、猛烈に腹が立ってくる。だからつい、サーベルを持つ手に力が入ってしまった。
その瞬間、目の前にいる半魚人の姿がぶれる。そして、すぅと姿が薄れ、それと同時に気配もぼやけていく。
「あっ、待てこの野郎!」
俺は姿を消していく半魚人を掴もうと、左手を伸ばすが……。
――あっ、これは?
その時、するりと体が滑り、何か幕のような物を通り抜けた気がした。強いて言うならそれは、薄い透明のビニールをぶち破ったような感覚だ。
気がつくと、目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
世界全体が淡青色に輝き、目の前にはさっきまでと同じく祠がある。だが、周囲は何処までも遠浅の海が広がっているのみ。さっきまでいた島は、影も形もなくなっていた。
――ど、どうなってる……島は、タンガ達はどこに?
しかも、周囲の景色はそれだけではなかった。俺の周りには大勢の半魚人達が、銛を手に持ちひしめいていたのだ。その数は、千を優に越えるかに見える。
――ま、まじかよ。
だが、その時……。
「リュウイチ様ぁ!」
「リュウイチ!」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには白亜の柱が林立する巨大な神殿と思われる建造物があった。その神殿は高床式になっており、少し海面から浮いている。前部には神殿へと続く階段があり、その上部でカリナ達が、数人の半魚人達に囲まれ捕まっていたのだ。
さすがにこの状況では、勝気なカイナも強張った様子で怯えている。気丈にも、カリナはカイナを庇うように抱き締め、此方に向かって必死に叫んでいた。
怯えて震える二人の姿を見た瞬間、俺の頭の中は怒りで埋め尽くされた。
たとえ、相手が千人以上いようが、今の俺にはもう関係ない。怒りに体が震え、怒気が口中から迸り出る。
「貴様らあぁぁぁぁ!」
だが、俺が動こうとした時、辺りに厳かな声が響き渡った。
「オ前ガ世界ノ理ヲ正ス者ナラ、ソノ力ヲ我ラニ示セ!」
カリナ達の傍にいた半魚人。ひとりだけ青いローブを纏った半魚人が、両手を広げて叫んでいた。
――こいつが、この魚人たちの指導者か。しかし……。
「お前らの茶番に、これ以上付き合ってられるかよ!」
俺は【瞬速】と【飛脚】を同時に発動させると、半魚人達の頭上を駆け抜けカリナ達の元へ……だが、途中で海面から吹き上がる水の幕に阻まれ、押し戻されてしまう。
――ちっ、こいつら水魔法を使いやがる。
カレリンがマーマン(海人族)とか言ってたな。
こんなやつら、ゲームではいなかったはずだが、何者だ?
「サア、我ラニ力ヲ示スガヨイ!」
その声に、周囲にいた半魚人達が、さぁと、遠退いていくと、俺の目の前に光輝く魔法陣が浮かび上がった。そしてそこから、ぬぅと巨大な腕が現れ、その腕が魔法陣の端を掴む。と、せり上がるようにして頭が、胴体が、足がと、体全体が魔法陣の中からせり上がってきた。
――またとんでもねえのが……。
魔法陣から飛び出したのは、全身が水で出来た巨人。目鼻口もない、ただ水が人の形をとっただけの巨大な怪物。身の丈は20メートルを越えているだろうか、ちょっとしたビルほどの大きさがある。
――水で出来た巨大ゴーレムってとこか。
力を示せとか言っているが、まさか俺に、こいつを倒せってかぁ。
「……良いぜ、このバカでかいのを倒せば、カリナ達を返してくれるんだろうな」
「……倒セレバナ」
ふんっ、訳わかんねえけど、やってやるよ。
こいつらの、カリナ達を拐った上での勝手な言い種に腹も立つ。が、冷静になって考えると、この人数とまともやりあうのは不可能に近い。それに、カリナたちも人質になっている状況。下手に動くことはできない。この水ゴーレムを倒したところで、素直に返してくれるか分からないが……今は倒すしかない。
それに、この水ゴーレムは見てくれはごついが、その大きさに比例するかのように動きは緩慢。
水ゴーレムが、「ブン」と轟音を響かせ、水滴を撒き散らして殴り付けてくる。が、その動きは遅い。
俺は、水ゴーレムの拳をあっさり躱すと、その腕を駆け上がる。
「俺をなめんなよぉぉぉぉ!」
こいつを倒すのは簡単だ。何故なら……。
「ゴーレムの弱点、魔核が見えてるぜ!」
俺の目の前、水ゴーレムの頭と思しき位置、その内部に赤く明滅する魔核が見えていた。
お前ら馬鹿だろ。透明な水で出来たゴーレムだから、魔核が丸見えなんだよ!
「【ラッシュ】!」
俺は戦士のスキルを発動させてあっさりと……は、いかなかった。
「な、なにぃ!」
俺の繰り出した攻撃は弾かれ、逆にその衝撃でバランスを崩してしまう。慌てて、【飛脚】を使って宙に足場を築く。
「くそっ、もう一度だ! 【刺突】【刺突】……」
ニンジャマスターの暗殺スキルを連続して繰り出そうとしたが、またしても途中で大きく弾かれた。
「嘘だろ……」
与える威力が大きければ大きいほど、弾かれる衝撃も大きくなる。まるで、ゴムを相手にしているようだ。
ゴーレムの体を形作っている水が、弾力となって、俺の攻撃を全て弾き返す。
参ったな。こいつの防御力は、あのマーダートレントなみか、それに準ずる程度はありそうだ。
水ゴーレムは、その巨大な腕を振り回し攻撃してくるが、それを掻い潜りながら考える。
こいつの動きはトロい。だから俺に当たる事は無いが、俺の攻撃もこいつには効かない。このままだと千日手だ……いずれ、魔力を使い尽くし、疲れ果てた俺が……。
そこで、ぶるっと首を振る。
――いや、落ち着け。何か手立てがあるはず。
俺は【アイテムボックス】から霊薬を取り出すと、一気に飲み干し魔力を回復させて心を落ち着かせる。
こいつは水で出来たゴーレム。水で……。
――ん、ある。あるぞ手立てが。
そうだよ。こいつは水なんだ。それなら使えるはず……。
「【水遁中段 水流変化】!」
俺は叫びと共に、水ゴーレムの体の中に飛び込んだ。【水遁中段 水流変化】は、水に同化する忍術。変化といっても、姿が水に変わる訳でなく、水と一体化して魚の如く泳ぎ回る事が出来る術なのだ。
だから、今度は弾かれる事もなく、たやすく水ゴーレムの中に飛び込むことができた。
そう、俺は今、水ゴーレムの体の中を泳いでいる。外からの攻撃が駄目なら、内部から攻撃するしかない。
――いける、いけるぞ!
そのまま水ゴーレム内部を泳ぎ頭部に達すると、忍術スキルの【刺突】を発動させた。
すると、今度はあっさり、サーベルの切っ先が魔核を貫く。
途端に水ゴーレムはただの水へと変わり、その人の形を崩し流れていく。
俺は内部から飛び出すと、【飛脚】を使って海面上に着地する。そして、崩れるゴーレムの周囲を見渡した。
「うぅん、魔石は無いのか……」
どうやら召喚ゴーレムには、魔素の塊である魔石は出てこないようだった。ちょっと残念。
ゴーレムが、完全に消えたのを確認し、俺は指導者らしき魚人に目を向ける。
「さぁ、倒したぞ。カリナ達を返してもらおうか」
しかし、俺の言葉に周囲にいた半魚人達が、一斉に跪いていた。
――えぇと、何これ?
何か皆、土下座してるんですけど……。
俺としては、驚くしかない訳で……これは、どうすれば良いのかな。
戸惑う俺の前に、ひとりの半魚人が海面をするすると、滑るようにして近付いてきた。
そいつは、神殿前で偉そうに言葉を発していた、あの指導者らしき半魚人だ。そいつも俺の前に来ると、同じく跪く。
そして――
「リュウイチ様!」
カリナ達ふたりも走って来ると、俺にしがみついた。
カリナは潤んだ目で俺を見上げると、嬉しそうに笑っている。
カイナは、ギュッと目をつむり、微かにまだ震えていた。普段は勝気に振る舞っていても、意外と、荒事には脆い。考えてみると、それも当然だ。元いた世界でなら、カイナは中学生。カリナも高校生程度の年齢。それでも妹を庇って、気丈に振る舞っていたカリナを褒めてやりたいぐらいだ。
俺が「もう、大丈夫だ」と、二人の頭を撫でていると、
「今マデノゴ無礼ヲ、オ許シ下サレ」
目の前の半魚人が、土下座したまま許しを請うてくる。
二人を拐ったうえでの、俺への力試し。どんな事情があるか知らないが、とても許せるものでない。だが……日本人ってのは不思議なもので、目の前で相手に土下座されると、途端に怒りの矛先が鈍ってしまうんだよなぁ。
しかし、参ったなこれは……。
うぅん、何かねぇ。さっきまで、猛烈に腹が立ってたけど……土下座してる相手に怒るのも、大人気ないというか、何というか……。二人も無事だったし……って、騙されるかよ!
俺は、目の前で跪く魚人を睨みつけ口を開いた。
「……一応、訳を聞いておこうか」
「ハイ。我ラハ半妖精ノ海ノ民、フェニキス一族。千年前二ゼノン二オケル、魔素、魔力ガ封印サレシ時、我ラハ魔素ガ無ケレバ生キレヌ故、コノ閉鎖空間二逃ゲ込ミマシタ。ソノ際、我ラ一族ノ巫女ガ、海神カラノ託宣ヲ聞キ及ンダノデス。ソレハ、千年後二別世界ヨリ世界ノ理ヲ正ス者ガ来ルト……我ラハソノ託宣ヲ信ジ、一日千秋ノ思イデ待チ焦ガレテオッタノデス」
「あぁ、ちょっと待て……ゼノンってのは、さっきまでいた世界の事で……別世界からって俺の事か?」
「ハイ、正シク。今見セテ貰ッタ御業ハ、世界ノ理ヲ書キ換エテオリマシタ故二」
いやいやいや、待って下さいよ。千年前に予言されてたとかあるわけないし。俺は産まれても無いだろ。世界の理を正す者って、なんだよそれ……俺はそんな大それた者でもないし、なるつもりも無い!
俺の頭はますます混乱する。
いや、その前に……。
「魔素や魔力の封印って何?」
「ソレハ、エルフ達ガ世界ヲ独占スルタメニ成シタ秘術。ソレ故、ゼノンハ歪ミガ生ジタママ、既ニ千年。残リノ時モ後僅カ。早ク理ヲ正サネバ、取リ返シノツカヌ事二……」
「えっ、えぇぇぇぇ! エルフが封印って、どういう事だよ」
思わずカリナ達を見るが、カリナ達も初耳だったようで、首を振っている。
「コレヨリ後ハ、我ラフェニキス一族、イニシエノ託宣二従イ、アナタ様ノ指図二従イマスル」
「いや、それはちょっと……」
周囲で跪く半魚人達を眺め、俺は呆然とするしかなかった。
「おい、ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとカリナ達を返せ!」
「オ前ハ、世界ノ理ヲ正ス者デハ無イノカ?」
――この野郎!
全く話が噛み合わない。その事に、猛烈に腹が立ってくる。だからつい、サーベルを持つ手に力が入ってしまった。
その瞬間、目の前にいる半魚人の姿がぶれる。そして、すぅと姿が薄れ、それと同時に気配もぼやけていく。
「あっ、待てこの野郎!」
俺は姿を消していく半魚人を掴もうと、左手を伸ばすが……。
――あっ、これは?
その時、するりと体が滑り、何か幕のような物を通り抜けた気がした。強いて言うならそれは、薄い透明のビニールをぶち破ったような感覚だ。
気がつくと、目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
世界全体が淡青色に輝き、目の前にはさっきまでと同じく祠がある。だが、周囲は何処までも遠浅の海が広がっているのみ。さっきまでいた島は、影も形もなくなっていた。
――ど、どうなってる……島は、タンガ達はどこに?
しかも、周囲の景色はそれだけではなかった。俺の周りには大勢の半魚人達が、銛を手に持ちひしめいていたのだ。その数は、千を優に越えるかに見える。
――ま、まじかよ。
だが、その時……。
「リュウイチ様ぁ!」
「リュウイチ!」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには白亜の柱が林立する巨大な神殿と思われる建造物があった。その神殿は高床式になっており、少し海面から浮いている。前部には神殿へと続く階段があり、その上部でカリナ達が、数人の半魚人達に囲まれ捕まっていたのだ。
さすがにこの状況では、勝気なカイナも強張った様子で怯えている。気丈にも、カリナはカイナを庇うように抱き締め、此方に向かって必死に叫んでいた。
怯えて震える二人の姿を見た瞬間、俺の頭の中は怒りで埋め尽くされた。
たとえ、相手が千人以上いようが、今の俺にはもう関係ない。怒りに体が震え、怒気が口中から迸り出る。
「貴様らあぁぁぁぁ!」
だが、俺が動こうとした時、辺りに厳かな声が響き渡った。
「オ前ガ世界ノ理ヲ正ス者ナラ、ソノ力ヲ我ラニ示セ!」
カリナ達の傍にいた半魚人。ひとりだけ青いローブを纏った半魚人が、両手を広げて叫んでいた。
――こいつが、この魚人たちの指導者か。しかし……。
「お前らの茶番に、これ以上付き合ってられるかよ!」
俺は【瞬速】と【飛脚】を同時に発動させると、半魚人達の頭上を駆け抜けカリナ達の元へ……だが、途中で海面から吹き上がる水の幕に阻まれ、押し戻されてしまう。
――ちっ、こいつら水魔法を使いやがる。
カレリンがマーマン(海人族)とか言ってたな。
こんなやつら、ゲームではいなかったはずだが、何者だ?
「サア、我ラニ力ヲ示スガヨイ!」
その声に、周囲にいた半魚人達が、さぁと、遠退いていくと、俺の目の前に光輝く魔法陣が浮かび上がった。そしてそこから、ぬぅと巨大な腕が現れ、その腕が魔法陣の端を掴む。と、せり上がるようにして頭が、胴体が、足がと、体全体が魔法陣の中からせり上がってきた。
――またとんでもねえのが……。
魔法陣から飛び出したのは、全身が水で出来た巨人。目鼻口もない、ただ水が人の形をとっただけの巨大な怪物。身の丈は20メートルを越えているだろうか、ちょっとしたビルほどの大きさがある。
――水で出来た巨大ゴーレムってとこか。
力を示せとか言っているが、まさか俺に、こいつを倒せってかぁ。
「……良いぜ、このバカでかいのを倒せば、カリナ達を返してくれるんだろうな」
「……倒セレバナ」
ふんっ、訳わかんねえけど、やってやるよ。
こいつらの、カリナ達を拐った上での勝手な言い種に腹も立つ。が、冷静になって考えると、この人数とまともやりあうのは不可能に近い。それに、カリナたちも人質になっている状況。下手に動くことはできない。この水ゴーレムを倒したところで、素直に返してくれるか分からないが……今は倒すしかない。
それに、この水ゴーレムは見てくれはごついが、その大きさに比例するかのように動きは緩慢。
水ゴーレムが、「ブン」と轟音を響かせ、水滴を撒き散らして殴り付けてくる。が、その動きは遅い。
俺は、水ゴーレムの拳をあっさり躱すと、その腕を駆け上がる。
「俺をなめんなよぉぉぉぉ!」
こいつを倒すのは簡単だ。何故なら……。
「ゴーレムの弱点、魔核が見えてるぜ!」
俺の目の前、水ゴーレムの頭と思しき位置、その内部に赤く明滅する魔核が見えていた。
お前ら馬鹿だろ。透明な水で出来たゴーレムだから、魔核が丸見えなんだよ!
「【ラッシュ】!」
俺は戦士のスキルを発動させてあっさりと……は、いかなかった。
「な、なにぃ!」
俺の繰り出した攻撃は弾かれ、逆にその衝撃でバランスを崩してしまう。慌てて、【飛脚】を使って宙に足場を築く。
「くそっ、もう一度だ! 【刺突】【刺突】……」
ニンジャマスターの暗殺スキルを連続して繰り出そうとしたが、またしても途中で大きく弾かれた。
「嘘だろ……」
与える威力が大きければ大きいほど、弾かれる衝撃も大きくなる。まるで、ゴムを相手にしているようだ。
ゴーレムの体を形作っている水が、弾力となって、俺の攻撃を全て弾き返す。
参ったな。こいつの防御力は、あのマーダートレントなみか、それに準ずる程度はありそうだ。
水ゴーレムは、その巨大な腕を振り回し攻撃してくるが、それを掻い潜りながら考える。
こいつの動きはトロい。だから俺に当たる事は無いが、俺の攻撃もこいつには効かない。このままだと千日手だ……いずれ、魔力を使い尽くし、疲れ果てた俺が……。
そこで、ぶるっと首を振る。
――いや、落ち着け。何か手立てがあるはず。
俺は【アイテムボックス】から霊薬を取り出すと、一気に飲み干し魔力を回復させて心を落ち着かせる。
こいつは水で出来たゴーレム。水で……。
――ん、ある。あるぞ手立てが。
そうだよ。こいつは水なんだ。それなら使えるはず……。
「【水遁中段 水流変化】!」
俺は叫びと共に、水ゴーレムの体の中に飛び込んだ。【水遁中段 水流変化】は、水に同化する忍術。変化といっても、姿が水に変わる訳でなく、水と一体化して魚の如く泳ぎ回る事が出来る術なのだ。
だから、今度は弾かれる事もなく、たやすく水ゴーレムの中に飛び込むことができた。
そう、俺は今、水ゴーレムの体の中を泳いでいる。外からの攻撃が駄目なら、内部から攻撃するしかない。
――いける、いけるぞ!
そのまま水ゴーレム内部を泳ぎ頭部に達すると、忍術スキルの【刺突】を発動させた。
すると、今度はあっさり、サーベルの切っ先が魔核を貫く。
途端に水ゴーレムはただの水へと変わり、その人の形を崩し流れていく。
俺は内部から飛び出すと、【飛脚】を使って海面上に着地する。そして、崩れるゴーレムの周囲を見渡した。
「うぅん、魔石は無いのか……」
どうやら召喚ゴーレムには、魔素の塊である魔石は出てこないようだった。ちょっと残念。
ゴーレムが、完全に消えたのを確認し、俺は指導者らしき魚人に目を向ける。
「さぁ、倒したぞ。カリナ達を返してもらおうか」
しかし、俺の言葉に周囲にいた半魚人達が、一斉に跪いていた。
――えぇと、何これ?
何か皆、土下座してるんですけど……。
俺としては、驚くしかない訳で……これは、どうすれば良いのかな。
戸惑う俺の前に、ひとりの半魚人が海面をするすると、滑るようにして近付いてきた。
そいつは、神殿前で偉そうに言葉を発していた、あの指導者らしき半魚人だ。そいつも俺の前に来ると、同じく跪く。
そして――
「リュウイチ様!」
カリナ達ふたりも走って来ると、俺にしがみついた。
カリナは潤んだ目で俺を見上げると、嬉しそうに笑っている。
カイナは、ギュッと目をつむり、微かにまだ震えていた。普段は勝気に振る舞っていても、意外と、荒事には脆い。考えてみると、それも当然だ。元いた世界でなら、カイナは中学生。カリナも高校生程度の年齢。それでも妹を庇って、気丈に振る舞っていたカリナを褒めてやりたいぐらいだ。
俺が「もう、大丈夫だ」と、二人の頭を撫でていると、
「今マデノゴ無礼ヲ、オ許シ下サレ」
目の前の半魚人が、土下座したまま許しを請うてくる。
二人を拐ったうえでの、俺への力試し。どんな事情があるか知らないが、とても許せるものでない。だが……日本人ってのは不思議なもので、目の前で相手に土下座されると、途端に怒りの矛先が鈍ってしまうんだよなぁ。
しかし、参ったなこれは……。
うぅん、何かねぇ。さっきまで、猛烈に腹が立ってたけど……土下座してる相手に怒るのも、大人気ないというか、何というか……。二人も無事だったし……って、騙されるかよ!
俺は、目の前で跪く魚人を睨みつけ口を開いた。
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「あぁ、ちょっと待て……ゼノンってのは、さっきまでいた世界の事で……別世界からって俺の事か?」
「ハイ、正シク。今見セテ貰ッタ御業ハ、世界ノ理ヲ書キ換エテオリマシタ故二」
いやいやいや、待って下さいよ。千年前に予言されてたとかあるわけないし。俺は産まれても無いだろ。世界の理を正す者って、なんだよそれ……俺はそんな大それた者でもないし、なるつもりも無い!
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思わずカリナ達を見るが、カリナ達も初耳だったようで、首を振っている。
「コレヨリ後ハ、我ラフェニキス一族、イニシエノ託宣二従イ、アナタ様ノ指図二従イマスル」
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