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第一章

あざとい猫

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「ねえ、仕事は忙しいの?」
「いや、どちらかと言うと暇だ。……一人だし、出来ることも限られてるからな」
「……ふうん」

一弥は俺からパソコンを奪い、カチカチといろんなページを見ている。

「ね、ちょっとこれ編集しちゃっていいかな。見やすさもお客さんを掴むためには必要だよ?」
「……一弥、それ触れるのか?」
「うん? んー、前の所で暇なときに色々弄らせてもらえてたから。ね、いい?」
「あ、ああ」

一弥の言うのももっともだろう。新規の客なら、見やすくて感じのいい方を選ぶかもしれない。
余りセンスに自信のない俺は、素直に一弥に編集を任せることにした。


「ふあ……。あー、もう12時前だね。眠くなっちゃった。これ、閉じていい?」
「うん? ああ、俺も、もう寝る。閉じていいぞ」

戸締りをもう一度確認してから、寝室へと向かった。

「お休み」
「お休みなさい」

電気を消して、布団の中に潜り込む。

……今日は普段とは違う事があり過ぎた。
ゆっくり寝て、英気を養わなければ……。

瞼が重くなり、雑念もすうっ……と消えかけたころ、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえて来た。

「……さん、健輔さん……」

体も何かに揺さぶられている。

「健輔さん……、寝ちゃった?」
「……ん。……一……弥?」

重い瞼をこじ開けて何とか体を起こすと、枕を抱いた一弥が傍に立っていた。

「どうした?」
「一緒に寝てもいい?」
「……? ……えっ!?」

一瞬頭が回らなかったが、言葉を頭の中で復唱してみてビックリした。あまりにもビックリし過ぎて目が覚めた。

子供同士ならありかもしれないが、こんな大人の男同士が一緒に寝るだなんて奇妙な話だ。ソノ気があるなら別として。
しかもこいつには例えようの無い妙な色気があるから、俺はこいつと並んで同じ布団に寝て、安眠できるとはとてもじゃ無いけど思えなかった。

絶対安眠の大敵だ。その証拠に、また心臓が騒がしくなっている。

「あ……、いや、あのな……」

ああ~、もうっ!
これ絶対俺の顔、赤くなってるに違いないぞ。顔は熱いし、汗まで滲み出て来ちまった。

「だめ?」

俺が戸惑い慌てふためくのを見て、一弥の顔が段々曇って来た。しかもその顔は、徐々に泣き顔へと変化していく。

「い……、いや。ダメってことは……、だけど……」 
「俺のこと、嫌い?」

お、お、お、おいっ!
そんなあからさまに落ち込んだ顔をするのは止めろ!
涙ぐむなよっ!!

「…………」
「…………」

「……入れよ」

根負けして了承すると、一弥は本当にうれしそうな表情になった。それこそ、いそいそと言った感じで俺の布団に入ってくる。そしてこちら側に横向きになり、俺の顔をじっと見る。
い……、居た堪れない。

「ひ……、人の顔見てないで寝ろよ」

俺の顔を見つめ続ける一弥に根負けしてそう言うと、一弥はクスリと笑った。

「なに赤くなってんだよ。アンタ、純情なんだね」

カチン!

なんだこいつは! さっきまでの泣き顔はどこ行った!

「るさい! 俺は寝る! お前もさっさと寝ろ!」

俺はくるりと反対側を向いて、一弥に背を向けた。

そうだよ。最初からこうやって背を向ければ揶揄われなくて済んだんだ。
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