綺麗な先生は好きですか?

くるむ

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第六章

複雑な気持ち

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「渚、遅かったな」
「渚くん、お疲れ。仕事、忙しいの?」

志緒利さんが、渚さんに近づいて労いの言葉をかけている。

「まあ、ちょっとな。メンテの仕事が入って、時間食っちまった」
「そうなの。大変だったわね。それよりみんな中に入りましょう」

志緒利さんの一言で、皆がぞろぞろと中に入って行く。先生が言っていたように、彼女は感じの良い人みたいだ。
だけどそれが却って、俺の心をざわつかせていた。

「腹減ったなぁ。南くんのお母さんのサンドイッチ、早く食べたいー」

渚さんが、後ろを歩く俺を振り返ってニコニコ笑いながら話しかけた。その一言で、男性陣が俺も俺もと声を上げる。
女の人達は全員、先生の言っていた通り仕事が早く終わったので、みんなでここに来る前に食事を済ませてきたと言っていた。

俺はテーブルに、母さんから手渡されたサンドイッチとフライドチキンを並べた。その量は結構なもので、大の男が5人でも、十分に腹を満たすことが出来る量だった。

「うわー、すげー。南くんだっけ? ありがとーねぇ」

ええと、遠山さんだっけ。モグモグと口を動かしながら礼を言ってくれた。

「あ、いえ」

「いやー、ありがと、ありがと。これ、めっちゃ美味いわ」

横から手が伸びてきて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。顔を上げると、満面の笑みの渚さんの手だと分かった。

「おい」
「いてっ!」

え?と思って横を向くと、先生の手が俺の頭上の渚さんの手を振り払っていた。そしてグシャグシャになっている俺の頭を、先生の手が撫でながら整えている。

「相変わらずだなぁ」

忍び笑いをするように、渚さんがクックッと笑う。その様子を、他のみんなが呆然と見ていた。
そしてその中の1人、女の人が口を開く。

「……澪、その南くんって、ただの教え子?」
「――のって、なんだ?」

ムッとした、威嚇するような低い声で先生が相手の人を睨む。そこに志緒利さんがやってきて、先生の額を軽く弾いた。

「って!」
「もう、すぐそうやって人を威嚇する。澪の悪いところだよ」
「……悪かったな」

遠慮のない先生と志緒利さんとのやり取りに、俺の心の中のモヤモヤがさらに広がっていく。
志緒利さんは笑いながら、淹れたお茶をみんなに配り始めた。

――話の分かる奴。
確か先生は、志緒利さんの事をそう言っていた。

俺から見ても志緒利さんは、話も分かるけど気が利く気さくな美人だ。
志緒利さんへの評価が上がる一方で、俺の心は下降し始めていた。
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