僕の王子様

くるむ

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第三章

歩の膝がいい

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「ほら」

涙でぐちゃぐちゃの僕に、礼人さんが備え付けのティッシュの箱を渡した。
僕は有り難くそれを受け取って、涙を拭いて後ろを向き、鼻をかんでスッキリしてから面を向いた。

「落ち着いたか?」
「はい……。すみません」

好きだと言ってもらってあんなに泣いちゃうなんて恥ずかしい。
男のくせにみっともないよな。

「歩」
「はい」

僕を呼ぶ礼人さんの顔はやっぱり優しい。
きっと僕が知っているどんな人よりも、ダントツで優しいんじゃないかな。

「読みたい本あるだろ? ここに持って来いよ」
「あ、はい。礼人さんは? リクエストあります?」

立ち上がって聞く僕に、礼人さんは「ないない」と手を振った。

「まだちょっと眠いから、戻って来たらまた膝枕してくれないか? 歩は暇だろうからその間本読んでろよ」
「あっ……、はい! 分かりました」

僕は反射的にぴょこんと立ち上がって、皆のいる部屋に本を取りに走った。

でも多分、暇だなんて思わないんじゃないかな?
だって、目の前には紫藤さんの綺麗な顔とサラサラの髪があるんだよ?
きっと僕はまた、その寝顔に見惚れて髪に触れたくて仕方が無くなると思うんだ。


「あれ? 鹿倉君、礼人はどうしたの?」

僕が本棚に直行したのを見て、白石先輩が心配そうに尋ねた。他のみんなは(特に千佳先輩は目をキラキラと輝かせて)興味津々に僕を見ている。

「あ……。えっと、まだ眠いそうです」
「え? じゃあ向こうで寝てるの? 鹿倉君を放っといて?」
「いえ……、そうじゃなくて。その、礼人さんが寝てる間暇だろうから本でも読んでろって言われて」
「ああ、そういうこと。……良かったね」
「はい」

ホッとしたように白石先輩が微笑んだ。

礼人さんが眠る時に傍にいて欲しいと思える存在だってことを、喜んでいてくれてるのが分かって、僕の心はよりホッコリと温かくなった。
綺麗なだけでなく、白石先輩もとても優しい人だ。

「ね、ね。礼人、歩君にもうキスした?」
「えっ!?」

千佳先輩の爆弾ともいえる発言に僕の顔が瞬時に赤くなった。

「ヤッ、それはまだ……、あ、じゃなくて、し……してませんっ!」
「ええ~、そうなのぉ? 礼人ってば意気地ないなあ」
「えっ! いえ……、そんなっ」

慌てる僕に千佳先輩はニヨニヨしながら僕を見る。

「おい工藤。いい加減に開放してやれ。鹿倉、お前もそんなん相手にしないでいいから適当に本持って紫藤の所に行ってやれ」

「え~、なんだよクロー。最近先輩風吹かせ過ぎじゃない? いつもはシロのこと以外は気にも留めないくせに―」
「お前はウゼえんだよ」
「ひどっ! 剛先輩、クロがいじめる!」
「あぁ~?」

な、なにコレ。
僕どうしたらいいんだろ。

「鹿倉君」
「は、はいっ」

焦る僕に白石先輩がニッコリと笑った。

「あれは気にしないで大丈夫だよ。あの二人はいっつもあんな調子だから。なんだかんだ言ってあのやり取りを楽しんでるみたいだし」

「そう、なんですか?」
「うん。だから陸の言う通り、好きな本持って礼人のとこに行ってあげて」
「分かりました」

ええ~っと、じゃあ。
ミステリーだとのめり込まないと面白くないだろうから、さらっと軽く読めそうなものを……。

「……歩、遅い」

「え?」

突然礼人さんの声が聞こえて来たのでびっくりして振り向くと、ちょっぴり眠たそうな表情をした礼人さんが部屋の手前に立っていた。
慌てて目の前にあった本を手に取って、礼人さんの近くに駆け寄る。

……と、
礼人さんは僕の手を引っ張った。

「やっぱりお前の膝の方が気持ちいい。座布団じゃ面白くない」

ボムッ!!

不意打ちの強力な爆弾に、僕の心臓が爆発しそうだ!
ドキドキしながら手を引かれる後ろで、その爆弾発言を耳にしたみんなが驚きの声を上げていた。


「聞いた? 今の! ひ、膝枕だって! あの礼人がっっ!!」
「嘘っ! 鹿倉君って何者?」


様々な声を背に、僕は真っ赤になりながら礼人さんに連れられて奥の部屋へと入った。
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