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第四章
礼人さんの過去 3
「礼人たちも済んだんだね。これから同好会に行こうと思ってたんだけど」
「おう、行く行く」
千佳先輩の呼びかけで、僕らはそのままそろって同好会に行くことになった。
さっき僕から離れたところで礼人さんたちを見ていた上級生の女子たちが、羨望の眼差しでこちらを見ているけどみんな素知らぬフリだ。
千佳先輩は黒田先輩や白石先輩の隣りに並び、僕らはその後から2人で並んで歩いた。
「さっき、みんなで何話してたんだ?」
「え? あ、えっと、実は礼人さんの中学時代の話を……」
自分のいないところで噂話みたいなことをされてちゃいい気はしないかもしれないけど、嘘があまり得意じゃない僕はそのまま正直に話した。
不愉快になっちゃうかなとも思ったんだけど、礼人さんは「そっか」と言っただけであまり気にしてはいないようだった。
「……あの、聞いてもいいですか?」
「なんでも」
「……その、礼人さんテニスもすごく上手かったんですよね。正直どうなんですか? 今でも出来ればテニス部に入りたいってこと、あります?」
少し礼人さんに踏み込んでしまっている自覚はある。
だけどそれでも礼人さんが理不尽な目に遭っていたことが(もしかしたら今もそうなのかもしれないし)僕はすごく悔しくて、だからさっきの千佳先輩の言葉がどうしても気になってしまっていた。
それは礼人さんにとってのテニスが、千佳先輩の言う通り本当に大したことじゃなければいいのにって、心のどこかで思っているからかもしれない。
ぽふっ。
礼人さんの温かく大きな掌が、僕の頭の上に優しく乗っかった。
「それは無いなー。……俺があの時テニス部に入ったのは、単に自分の条件に合った部活を選んだ結果だったから」
「……?」
どういう意味だろ。
「あの頃なー、俺んち両親が揉めててさ、離婚協議の真っ最中だったんだよ。家にいる居心地は最悪で、何でもいいから遅く家に帰るために体育会系の部活に入りたかったんだよ。それなら大会があったり色々忙しいから、部活の時間も遅くなることもあったりするだろ?」
ああ……、そういうことか。
今のお母さんは再婚相手だって言ってたもんな。
「ついでに俺結構な人見知りだから、団体競技よりも個人で試合が出来るテニスがいいかなって思っちまったんだよ」
「礼人さん……」
明らかに失敗だったという表情の礼人さんの様子からして、千佳先輩が言ったようにテニスに特に未練が無いという事は間違いないだろうと思えた。
「だからな、」
礼人さんはそう話しかけて、言葉を区切り僕の顔を見た。
「今の状況が退屈だとか体育会系の部活に戻りたいだとか、そんな風には思わないぞ」
「礼人さん……、はい」
そっか、そうなんだ……。
礼人さんがそう思ってるんなら、いいかな。
「なあ、歩」
「はい」
「お前、俺が出る試合見に来れるか?」
「はい! 試合時間が分かったらクラスの試合を抜け出してでも見に行きます!」
僕が勢い込んでそう言うと、礼人さんは苦笑した。
「いや、うれしいけどそれは駄目だろう」
「大丈夫です。ちょこっとだけでも抜け出して見に行きます。僕小さいから、多分目立ちません」
「そうか。じゃあ、クロと2人で勝ちに行くから期待してろよ」
「……はい!」
「え~、俺らのクラスには手加減してよぉ?」
「するかよ、バカ。水はバレーだろ? 手加減なんてしねーよ」
僕らの話に割り込んできた千佳先輩に、すかさず黒田先輩が反論する。
……てか、白石先輩には手加減ありなんだ。さすがだな、黒田先輩。
「それにしても、どういう風の吹き回し? 礼人、こういうのにあんまり本気になったりしなかったでしょ」
心底不思議そうに、千佳先輩が礼人さんに聞いた。礼人さんはそれにクスリと笑って僕を見て、それから口を開いた。
「そのつもりだったんだけどなー。なんだろ、やっぱ好きな奴には出来るだけかっこいいとこ見てもらいたいって感情になっちまうみたいだな」
え?
「な?」
「……礼人、さん」
目立ちたくなんかないって言ってたのに。
僕がその気持ちを変えさせたの?
「僕……、頑張って絶対応援に行きます」
「おう」
ポンポンと頭を撫でるように叩かれて、涙が出そうになる。
「よっしゃー、じゃあ俺も歩君の隣を陣取って応援したげるね!」
燥ぐように元気に話す千佳先輩が、この場の色を変えてくれていた。
「おう、行く行く」
千佳先輩の呼びかけで、僕らはそのままそろって同好会に行くことになった。
さっき僕から離れたところで礼人さんたちを見ていた上級生の女子たちが、羨望の眼差しでこちらを見ているけどみんな素知らぬフリだ。
千佳先輩は黒田先輩や白石先輩の隣りに並び、僕らはその後から2人で並んで歩いた。
「さっき、みんなで何話してたんだ?」
「え? あ、えっと、実は礼人さんの中学時代の話を……」
自分のいないところで噂話みたいなことをされてちゃいい気はしないかもしれないけど、嘘があまり得意じゃない僕はそのまま正直に話した。
不愉快になっちゃうかなとも思ったんだけど、礼人さんは「そっか」と言っただけであまり気にしてはいないようだった。
「……あの、聞いてもいいですか?」
「なんでも」
「……その、礼人さんテニスもすごく上手かったんですよね。正直どうなんですか? 今でも出来ればテニス部に入りたいってこと、あります?」
少し礼人さんに踏み込んでしまっている自覚はある。
だけどそれでも礼人さんが理不尽な目に遭っていたことが(もしかしたら今もそうなのかもしれないし)僕はすごく悔しくて、だからさっきの千佳先輩の言葉がどうしても気になってしまっていた。
それは礼人さんにとってのテニスが、千佳先輩の言う通り本当に大したことじゃなければいいのにって、心のどこかで思っているからかもしれない。
ぽふっ。
礼人さんの温かく大きな掌が、僕の頭の上に優しく乗っかった。
「それは無いなー。……俺があの時テニス部に入ったのは、単に自分の条件に合った部活を選んだ結果だったから」
「……?」
どういう意味だろ。
「あの頃なー、俺んち両親が揉めててさ、離婚協議の真っ最中だったんだよ。家にいる居心地は最悪で、何でもいいから遅く家に帰るために体育会系の部活に入りたかったんだよ。それなら大会があったり色々忙しいから、部活の時間も遅くなることもあったりするだろ?」
ああ……、そういうことか。
今のお母さんは再婚相手だって言ってたもんな。
「ついでに俺結構な人見知りだから、団体競技よりも個人で試合が出来るテニスがいいかなって思っちまったんだよ」
「礼人さん……」
明らかに失敗だったという表情の礼人さんの様子からして、千佳先輩が言ったようにテニスに特に未練が無いという事は間違いないだろうと思えた。
「だからな、」
礼人さんはそう話しかけて、言葉を区切り僕の顔を見た。
「今の状況が退屈だとか体育会系の部活に戻りたいだとか、そんな風には思わないぞ」
「礼人さん……、はい」
そっか、そうなんだ……。
礼人さんがそう思ってるんなら、いいかな。
「なあ、歩」
「はい」
「お前、俺が出る試合見に来れるか?」
「はい! 試合時間が分かったらクラスの試合を抜け出してでも見に行きます!」
僕が勢い込んでそう言うと、礼人さんは苦笑した。
「いや、うれしいけどそれは駄目だろう」
「大丈夫です。ちょこっとだけでも抜け出して見に行きます。僕小さいから、多分目立ちません」
「そうか。じゃあ、クロと2人で勝ちに行くから期待してろよ」
「……はい!」
「え~、俺らのクラスには手加減してよぉ?」
「するかよ、バカ。水はバレーだろ? 手加減なんてしねーよ」
僕らの話に割り込んできた千佳先輩に、すかさず黒田先輩が反論する。
……てか、白石先輩には手加減ありなんだ。さすがだな、黒田先輩。
「それにしても、どういう風の吹き回し? 礼人、こういうのにあんまり本気になったりしなかったでしょ」
心底不思議そうに、千佳先輩が礼人さんに聞いた。礼人さんはそれにクスリと笑って僕を見て、それから口を開いた。
「そのつもりだったんだけどなー。なんだろ、やっぱ好きな奴には出来るだけかっこいいとこ見てもらいたいって感情になっちまうみたいだな」
え?
「な?」
「……礼人、さん」
目立ちたくなんかないって言ってたのに。
僕がその気持ちを変えさせたの?
「僕……、頑張って絶対応援に行きます」
「おう」
ポンポンと頭を撫でるように叩かれて、涙が出そうになる。
「よっしゃー、じゃあ俺も歩君の隣を陣取って応援したげるね!」
燥ぐように元気に話す千佳先輩が、この場の色を変えてくれていた。
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