僕の王子様

くるむ

文字の大きさ
46 / 62
第五章

落ち込んでいると甘えたくなるわけで…

しおりを挟む
「なに言ってんだ、千佳は」

笑いながらそう言って、先生は僕の頭をもう一撫でして手を離した。

「まあ、クロや剛先輩と違って、要さんも礼人も変な嫉妬はしないだろーけどさ」

へえ……?
ああ、確かに黒田先輩も東郷先輩も独占欲強いよな。

……初めて僕が同好会に入った時、結構2人には警戒されていた記憶があるよ。

「だけど珍しい組み合わせではあるよな。……久しぶりですね涼さん」
「ああ、たまには顧問として参加もしないとな」

立ち止まってる僕らに先輩方が少し速足で近づいてきた。
もちろん礼人さんも同様で、僕の隣にやってきてつむじをフニフニと指で弄んだ。そしてその手をするりと下して、クッと腕を引き寄せる。

トクン。

ま、また密着してるっ!

……嬉しいけどドキドキするよ。

チラリと礼人さんを見上げたら、パチッと目が合って優しく微笑まれた。

ギュムッ。

「え……?」

ギュムムムムッ。

「どうした……? 歩?」

ポンポンと優しく背中を叩かれたけど、僕はどうしても礼人さんから離れたくなかった。
礼人さんの微笑みが呼び水となって、必死で堪えていた甘えたいという僕の感情を抑えきれなくなったんだ。
反射的にしがみ付いて離そうとしない僕に、礼人さんはゆっくりと優しくギュッと抱きしめ返してくれた。

「歩……」
「…………」

「すごくうれしいけど、一応外だから。部室も近いから、中に入ろうか」
「……あっ! うわわ、すみません!」

礼人さんの一言でハッと我に返った。そうだよ、人気が無くてもここは校内だ。
誰かに見つかったら礼人さんに迷惑だ!

僕は、焦って離れようと飛びのいた。

「そこまで離れなくてもいいだろ?」

可笑しそうに笑った礼人さんは僕の腕をクイッと引っ張った。そしてそのまま歩き出す。

「……あ、あの」
「うん?」

のんびりとした口調で返事をし、僕を見た後ニヤリと笑った。そして猫のように目を細める。

うわっ、うわっ、うわっ!
初めて見る……、ううん。正確には、初めて僕に向ける礼人さんの表情だ。
先輩達を揶揄う時に、たまに見せる礼人さんの……。

「引率。迷子になったら困るだろ?」
「…………」

だけど。
声だけは、僕が初めて聞く礼人さんの声だった。


甘く優しくて、愛しくて仕方が無いと言った……そんな蕩けてしまいそうな礼人さんの、初めて僕が聞く声だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

フードコートの天使

美浪
BL
西山暁には本気の片思いをして告白をする事も出来ずに音信不通になってしまった相手がいる。 あれから5年。 大手ファストフードチェーン店SSSバーガーに就職した。今は店長でブルーローズショッピングモール店に勤務中。 そんなある日・・・。あの日の君がフードコートに居た。 それは間違いなく俺の大好きで忘れられないジュンだった。 ・・・・・・・・・・・・ 大濠純、食品会社勤務。 5年前に犯した過ちから自ら疎遠にしてしまった片思いの相手。 ずっと忘れない人。アキラさん。 左遷先はブルーローズショッピングモール。そこに彼は居た。 まだ怒っているかもしれない彼に俺は意を決して挨拶をした・・・。 ・・・・・・・・・・・・ 両片思いを2人の視点でそれぞれ展開して行こうと思っています。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

伯爵令息アルロの魔法学園生活

あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...