僕の王子様

くるむ

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第五章

特別な合図

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シュートを決めた黒田先輩に、スッと礼人さんが近づいてお互い二ッと笑い合いパチンと右手を挙げてのハイタッチ。

うわあああ―――!
ヤッター!!
かっこいい、かっこいいよ2人とも!!

思わず僕も加山さんと2人でハイタッチ。

「やったね! 黒田先輩かっこいい!!」
「うん、礼人さんも!!」

もちろん僕らが燥いでいるんだ。周りではその何十倍ともいえる異様さで、女子らが悲鳴のような歓声を上げていた。

「キャアアアアアアアーーーーー!!!」

鼓膜が破れるんじゃないかってくらいの叫び声。女の子たちはみんなぴょんぴょんと跳ねながら、あちらこちらでハイタッチをしている。
まるで県大会かなんかで優勝したかのような、凄い喜びようだ。

僕は周りのざわめきはとりあえず横に置いといて、ワクワクしながら礼人さんたちを見つめていた。
すると、スッとこちら側に視線を向けた礼人さんが僕に視線を合わせた。

あ……! と思った瞬間、礼人さんは軽く口角を上げてさりげなくスッと手を上げた。


トクン。

今、今僕に……、僕だけに合図してくれたよね?

もうこちらには背を向けて、試合の渦に戻って行ってしまったけど、僕は1人でドクドクと煩い心臓と共に幸せをかみしめている。


「く~、たまんない!!」
「……? え?」

遠慮がちに小さくだけど、感動を必死でかみ殺すように体を震わせる加山さんに気が付いた。

「ど……、どうしたの?」

パチッと目が合うと、やっぱり幸せをかみ殺したような表情だ。

「ヤダ、もう! ヤダ、もう!」
バシバシ!!

「いっ、痛いよ加山さん」
「いいの、いいの。気にしないで、あ~、もう幸せ!」

訝しむ僕を余所に、加山さんはニソニソと気持ちの悪い笑みを湛えていた。
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