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第六章
僕だけの王子様
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慰労会を終えて、僕はそのまま部室へ直行しようと教室を出た。加賀くんとは方向が逆なのですぐに別れて、加山さんと試合の話をしながら廊下を歩いていた。
そんな僕らを見つけた女子が、普段なら気にも留めないのに声を掛けて来た。
「鹿倉君……、だよね?」
「え? うん」
「ああ、やっぱり! 今日ミミーの女装してた人だよね。紫藤先輩と同じ同好会に入ってるって!」
「……ああ、うん」
礼人さん絡みか。
……紹介してくれって言われたらどうしよう。
「あの……さ、お願いがあるんだけど。実は私たちも同好会に…」
「ダメみたいだよ」
僕が返事をする前に、というか女子に全部言わせない勢いで加山さんがすかさず断った。
「……て、え?」
関係ないはずの加山さんに口出しされて、女子が面食らう。
そして『どういうこと?』と言いたげに僕の顔を見た。
「だから―、女子は前に問題があったみたいで警戒されてるんだって! 知ってる? 上級生からも怖がられている鬼先輩! あんたたちが紫藤先輩目当てで入ろうとしてるって知ったら、即一喝されて追い出されるよ」
「鬼……?」
「ああ! ソレ、聞いたことある。めちゃくちゃ怖い先輩がいて、部員以外は同好会のあの建物に誰も近づかないって」
……東郷先輩って、まるで読書同好会の番犬のような言われようなんだな。
実際には千佳先輩だけの番犬みたいだけど。
「鹿倉君、それ……本当なの?」
「……あ、うん。鬼のような先輩は確かにいるよ。僕は単純に読書が好きだったし文化系の部活に入りたかったからOKだったみたいだけど、それでも当初はちょっと威嚇されてるような感じがして怖かったもの」
ちょっとオーバーかな?とは思ったけど、千佳先輩絡みで確かに威嚇はされた記憶があるから、あながち嘘ではないよね。
僕の言葉に言葉を失った彼女らは、引き攣った顔をして「そっか」と言って去って行った。
「鬼先輩、様様だね」
「……ちょっとオーバーに言っちゃったかな。東郷先輩に悪かったかも」
「なーに言ってんのよ! あれくらいでちょうどいいわよ。嘘ってわけじゃないしね!」
「……そうだね」
「あ……っ」
「え?」
校舎を出て、グラウンド脇の通りに出たところで加山さんが声を上げた。
その視線の先を見ると、部室方向に歩いている礼人さんと黒田先輩達がいた。
「じゃあ、私は帰るね! 紫藤先輩によろしく!」
「うん。じゃあね」
「バイバイー」
加山さんを見送って、礼人さんたちの元へと走り寄った。
「あ、歩」
「こんにちは!」
「やあ」
白石先輩は相変わらず優しい表情で、にっこりと笑って挨拶してくれた。黒田先輩も相変わらずで、軽く頷くようなしぐさが返事の代わりだ。
この2人って、対照的だよなあ。
「礼人さん、今日は本当にありがとうございましたっ!」
向き直って改めてお礼を言うと、礼人さんはクスリと笑った。
「いいって言ってる。気にすんな」
「……はい」
じんわりと沸き起こる礼人さんの優しい気持ちをかみしめて、泣きたくなるくらいの幸せを感じる。
不思議。
幸せだって心底思うと、人って泣きたくなるんだね。
礼人さんと出会うまでは、こんな気持ちがあるなんてこと気が付かなかったけど。
「あー、でもそうだな。せっかくだからご褒美もらっても良いか?」
「ご褒美……ですか? えっと、はい。なんでも言ってください」
「じゃあ、また膝枕してくれるか? 歩の膝で眠るとすごく気持ちがいいんだ」
「礼人さん……。はいっ! 喜んで! それって、僕にもすごい幸せな時間です!」
張り切ってそう言うと、礼人さんは楽しそうに笑った。
笑って僕を抱き寄せてくれた。
初めて礼人さんに膝枕をしてあげた時、夢みたいで嬉しかった。
でもそれと同時に、幸せ過ぎてまずいと思った。
だってまさか、礼人さんとこんな関係になれるとは思ってもいなかったから。
迷惑にならないように、これ以上思いを募らせないようにって思っていたから。
僕らは部室に入って、そのまま備品室に直行した。
「あ、何か本を持ってくるか?」
「いいえ。大丈夫です。……礼人さんの髪の毛撫でたり、寝顔見てる方が楽しいですから」
「えっ?」
ちょっぴり驚いたのか、礼人さんは目を丸くして瞬いた。
だけどすぐに可笑しそうに、「変わってるなー」と笑った。
変わってなんてないですよ。
だって僕は、礼人さんが凄く好きだから。これは僕にとっても、凄く幸せで特別な時間なんです。
綺麗な瞳を閉じて、僕の膝にくったりと体を預ける礼人さん。
さらさらと流れる柔らかな髪を撫でながら、僕にとってもご褒美の礼人さんの眠る姿を堪能している。
綺麗でかっこよくて繊細な……、僕だけの王子様を独り占めできる幸せをかみしめながら。
☆おわり☆
そんな僕らを見つけた女子が、普段なら気にも留めないのに声を掛けて来た。
「鹿倉君……、だよね?」
「え? うん」
「ああ、やっぱり! 今日ミミーの女装してた人だよね。紫藤先輩と同じ同好会に入ってるって!」
「……ああ、うん」
礼人さん絡みか。
……紹介してくれって言われたらどうしよう。
「あの……さ、お願いがあるんだけど。実は私たちも同好会に…」
「ダメみたいだよ」
僕が返事をする前に、というか女子に全部言わせない勢いで加山さんがすかさず断った。
「……て、え?」
関係ないはずの加山さんに口出しされて、女子が面食らう。
そして『どういうこと?』と言いたげに僕の顔を見た。
「だから―、女子は前に問題があったみたいで警戒されてるんだって! 知ってる? 上級生からも怖がられている鬼先輩! あんたたちが紫藤先輩目当てで入ろうとしてるって知ったら、即一喝されて追い出されるよ」
「鬼……?」
「ああ! ソレ、聞いたことある。めちゃくちゃ怖い先輩がいて、部員以外は同好会のあの建物に誰も近づかないって」
……東郷先輩って、まるで読書同好会の番犬のような言われようなんだな。
実際には千佳先輩だけの番犬みたいだけど。
「鹿倉君、それ……本当なの?」
「……あ、うん。鬼のような先輩は確かにいるよ。僕は単純に読書が好きだったし文化系の部活に入りたかったからOKだったみたいだけど、それでも当初はちょっと威嚇されてるような感じがして怖かったもの」
ちょっとオーバーかな?とは思ったけど、千佳先輩絡みで確かに威嚇はされた記憶があるから、あながち嘘ではないよね。
僕の言葉に言葉を失った彼女らは、引き攣った顔をして「そっか」と言って去って行った。
「鬼先輩、様様だね」
「……ちょっとオーバーに言っちゃったかな。東郷先輩に悪かったかも」
「なーに言ってんのよ! あれくらいでちょうどいいわよ。嘘ってわけじゃないしね!」
「……そうだね」
「あ……っ」
「え?」
校舎を出て、グラウンド脇の通りに出たところで加山さんが声を上げた。
その視線の先を見ると、部室方向に歩いている礼人さんと黒田先輩達がいた。
「じゃあ、私は帰るね! 紫藤先輩によろしく!」
「うん。じゃあね」
「バイバイー」
加山さんを見送って、礼人さんたちの元へと走り寄った。
「あ、歩」
「こんにちは!」
「やあ」
白石先輩は相変わらず優しい表情で、にっこりと笑って挨拶してくれた。黒田先輩も相変わらずで、軽く頷くようなしぐさが返事の代わりだ。
この2人って、対照的だよなあ。
「礼人さん、今日は本当にありがとうございましたっ!」
向き直って改めてお礼を言うと、礼人さんはクスリと笑った。
「いいって言ってる。気にすんな」
「……はい」
じんわりと沸き起こる礼人さんの優しい気持ちをかみしめて、泣きたくなるくらいの幸せを感じる。
不思議。
幸せだって心底思うと、人って泣きたくなるんだね。
礼人さんと出会うまでは、こんな気持ちがあるなんてこと気が付かなかったけど。
「あー、でもそうだな。せっかくだからご褒美もらっても良いか?」
「ご褒美……ですか? えっと、はい。なんでも言ってください」
「じゃあ、また膝枕してくれるか? 歩の膝で眠るとすごく気持ちがいいんだ」
「礼人さん……。はいっ! 喜んで! それって、僕にもすごい幸せな時間です!」
張り切ってそう言うと、礼人さんは楽しそうに笑った。
笑って僕を抱き寄せてくれた。
初めて礼人さんに膝枕をしてあげた時、夢みたいで嬉しかった。
でもそれと同時に、幸せ過ぎてまずいと思った。
だってまさか、礼人さんとこんな関係になれるとは思ってもいなかったから。
迷惑にならないように、これ以上思いを募らせないようにって思っていたから。
僕らは部室に入って、そのまま備品室に直行した。
「あ、何か本を持ってくるか?」
「いいえ。大丈夫です。……礼人さんの髪の毛撫でたり、寝顔見てる方が楽しいですから」
「えっ?」
ちょっぴり驚いたのか、礼人さんは目を丸くして瞬いた。
だけどすぐに可笑しそうに、「変わってるなー」と笑った。
変わってなんてないですよ。
だって僕は、礼人さんが凄く好きだから。これは僕にとっても、凄く幸せで特別な時間なんです。
綺麗な瞳を閉じて、僕の膝にくったりと体を預ける礼人さん。
さらさらと流れる柔らかな髪を撫でながら、僕にとってもご褒美の礼人さんの眠る姿を堪能している。
綺麗でかっこよくて繊細な……、僕だけの王子様を独り占めできる幸せをかみしめながら。
☆おわり☆
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