悪行を重ねた令息は断罪されたくないので生き方を変えました。誰の愛も欲しがらないと決めたのに、様子がなんだか変なんです

くるむ

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第二章

成長してるんですよ?

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 新調したわけではないというレオお兄様のタキシードは淡いブルーで、それに愛を意味するというレン科の植物ローレンが、濃いブルーと金茶の糸で刺繍されていた。
 交流会の時の衣装もそうだったけど、こういう何気ない表現を見ているだけでもレオお兄様の兄上への愛情をひしひしと感じる。

 ベタ惚れだよな。

「素敵ですわねえ」
 キャトリン嬢が、ポーッと頬を染めてレオお兄様を見ている。

「レオは、ここぞという時に力を発揮するよな」
「え?」
 ここぞとって?

「気がついてなかったか? アランの隣に立てるのは自分だけだぞってアピールだ。交流会の時も、アランの隣でキラキラしていただろ」
「ああ……。そういえば、普段もちょっと近寄りがたいくらい綺麗なお兄様ですけど、それ以上になんか輝いていましたよね。確かに、今もその時の雰囲気に近いですね」
「だろ? そこがレオのすごいところだけど、――ベタ惚れ具合で言ったら俺もそう変わらないからな」
 今まで軽い口調で話していたのに、突然エイドリアンに真剣な表情でじっと見られて僕の頬が熱くなってきた。

「ぼ、僕だってそうです」
 消え入りそうな声になっていたかもしれない。でも気持ちは、言えるときに言っておかなければ。

「……そうか」
 エイドリアンの表情が、甘くほろほろと崩れる。
 精悍な顔つきなのにとろけるようなその甘さが嬉しくて恥ずかしくて、僕の頬はさっきよりももっと熱くなっていた。

「お、始まるぞ」

 出場者全員がフロアの定位置に着いたところで曲が奏でられた。
 一曲目はワルツだ。
 それぞれが滑らかに動き始めた。
 弟のひいき目かもしれないけれど、兄上たちのカップルが一番素敵だ。

「格好いいなあ、兄上」
「え?」
 思わずこぼれ出た言葉に、エイドリアンが笑いながらこちらを向いた

「あっ、もちろんわかってますよ。身内だから贔屓目に見てるって。でもやっぱり格好よくありません? キリッと前を向いている姿なんてかなりの男前ですよね」
 
「……ショーンはブラコン気味だよな」
「えっ? 僕が?」

 思ったこともないけど。
 首を傾げる僕に、エイドリアンは苦笑した。

「ショーンがヤケになっていた頃って、アランへの対抗意識もあったんだろう? 羨望と言った方が正しいか?」

 あ。
 そうかと思うところもあるけど、でも、どうなんだろう?

「はっきり言ってわかりません。あの頃は、今のように兄上のことを好きだとか尊敬してるとか思ったことありませんでしたから」

 苦笑してエイドリアンを見上げると、エイドリアンも苦笑で返した。そして僕をぐいっと引き寄せる。

「成長したわけだ」
「えっ? どこがですか」
「んー? 情緒」

 情緒。

「いい加減に言ってません?」
「いーや?」

 もちろんこんな会話をしているけれど視線はちゃんと兄上とレオお兄様のダンスを見ている。
 波打つような優雅な動きに色気あふれるレオお兄様の表情。兄上と見つめ合った後、伏せた視線をギャラリーに向けたその表情ったら恐ろしい色気だ。

「見えない敵に牽制してるよな」
「……そうですね」
「俺も時々するけどな」
「奇遇ですね、僕もです」

 エイドリアンが、ちょっぴり驚いたように目を見開いて僕を見た。

 成長してるんですよ、僕も。情緒がね。

 なんて心の中でそんなことを思いながら、ドヤ顔をして見せた。
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