これは兄さんじゃありません

くるむ

文字の大きさ
2 / 16
第一章

だって、諦めきれないから

しおりを挟む
「……壱琉がいなくなって、もう一年が経つのね」
「そうだな。あいつの事だから、いつかひょっこり帰ってくるとは思うが……」

何度となく繰り返された両親の会話。

最初の頃はそれこそみんな本当にそれを信じていて、会話には力があった。
だから家族で兄さんの旅の行方を追おうと頑張って、兄さんが予約していた宿泊先を訪ねたり、地元の警察に届けたりして吉報を待ったりした。

二月フタツキ三月ミツキと日々が過ぎ去り、希望は願望へと変化していき、そのうち段々と諦めに近い気持ちへと変わり始めた。


もうあと三日もすれば、兄さんがこの家からいなくなって一年が経つことになる。


ピンポーン♪

「はーい」

大翔さんたちが、来たようだ。

大翔さんは兄さんの仲のいい友達で、僕らのことを心配して度々励ましに来てくれている。
今日も事前に、みんなでお邪魔するからと連絡が入っていた。

ガチャリと玄関を開けると、大翔さんを筆頭に、新さん、晴斗さんが顔を出した。

「母さん、父さん。大翔さんたちが来てくれたよ」

「まあ、まあ。いつもいつもありがとうね。……本当に、壱琉はいいお友達を持って……」
「すまないな。君たちも、忙しいんじゃないのか?」
「いえ、そんなことは無いです。大学ではもう、夏休みに入ってますし。バイトとかもしてませんから」

こうやって、大翔さんたちが来てくれて僕もどんなに心強かったか。
最初の頃は、兄さんがいない毎日が辛くて泣いてばかりいた僕を、大翔さんはいつも優しく抱きしめて慰めてくれていた。

「みんな、ケーキは好きでしょ? 食べて行ってね」

大翔さんたちが来ると聞いていた母さんが、事前に近所のケーキ屋さんで買って来たものだ。

「いただきまーす!」

大声で嬉しそうにケーキを食べ始めたのは、晴斗さんだ。
彼も兄さんと同い年の友達だけど、たぶん一番天真爛漫で明るい性格だ。
晴斗さんがいると場の空気が明るくなるので、僕らもどれだけ救われてきたことか。


「実は、今日は提案があって来たんです」

ケーキを食べ終わり一息ついて、大翔さんが僕ら家族に切り出した。

「え? なにかしら?」

「壱琉がいなくなってそろそろ一年になります。このままぼんやりと時が過ぎていくのを黙って見送っていくのは、どうしてもやり切れなくて……。それで俺ら3人で話したんですけど、もう一度壱琉が止まっていたホテルに泊まって、壱琉の足跡ソクセキを訪ねてみようかと思っているんです」

「僕も行く!」
「志音……」
「ねえ、いいでしょ!? 僕も大翔さんたちと一緒に兄さんを探しに行きたい。このまま兄さんを諦めることなんて、僕には出来ないよ!」
「……そうだな。父さんもそう思う。……大翔君、志音も連れて行ってくれるかい? もし、迷惑でなければ」

「はい、もちろんです。今日お伺いしたのは、志音君も誘おうと思いその許可をいただきに来たのですから」

大翔さんの言葉に嬉しくなって、つい「ありがとう!」と飛びついた。
突然の僕の行動に、大翔さんはびっくりして固まっていたようだったけど、もう一度兄さんを探しに行けるのだと思うと嬉しくて、僕はお構いなしに大翔さんにぎゅうぎゅうと抱き着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~

空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...