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第二章
油断しちゃダメ 2
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時々兄さんに刺身を提供しながらも、進む加熱肉の食事。
飴と鞭を交互に提供する食事の在り方に、少しずつまた兄さんの眉間のしわが増えてきていた。
「兄さん……」
また剣呑な雰囲気になりつつある兄さんに、大翔さんたちが決して二人きりになるなと忠告してきた。
どうしたらいいんだろう。
……結局は、どんなに嫌がられても兄さんに少しずつでも頑張って慣れてもらわなきゃならない。
2人きりになるなといわれているから傍にはあまり行かないけど、それでも兄さんが気になってそっといつも様子を窺っている。
そんな僕を兄さんも気が付いているようで、時々彼もこちらの方をじっと見ていることが多くなってきていた。
「志音、晴斗の別荘の管理をしてくれてる人が車を出してくれるそうなんで、俺も買い出しに付き合うつもりだけど何か買ってきて欲しいものはあるか?」
「あ、うん。じゃあ、マグロとブリとアジの刺身を買ってきてあげて? 他にも何かよさそうな刺身があったら、それも」
「志音……」
「ごめんね。もとはと言えば僕のわがままで、みんなに苦労強いちゃって……」
どうしても。
どうしてもやっぱり、大好きな兄さんに激似の異世界人を放り出したくなんて無い。警察なんて論外だ。
「大丈夫だ。なんだかんだ言っても、俺らだって壱琉に似ているあいつを警察に突き出すのは気持ちのいいもんじゃないからさ。志音のためだけってわけじゃないよ」
「大翔さん……」
情けないことに、こうやって慰めてもらうのは僕は苦手みたいだ。
堪えきれない涙が、僕の頬を伝った。
「志音」
優しく大翔さんに抱き寄せられ温かな腕の中に包まれて、抑え込んでいた不安定な感情が溢れだしてしまった。
僕は大翔さんにしがみ付いて、声を殺して泣いた。
本当の兄さんがいない今、僕の心はあの異世界人の兄さんに執着してしまっているようだ。こんな気持ちは不味いかもしれないとは思っても、僕自身で制御なんて出来るわけもなく、どうしようも無かった。
カタッ。
……え?
大翔さんの腕の中にいるので振り向くことは出来なかったけど、誰かがいたのかな?
今、物音がしたよね?
「志音?」
腕をゆっくり離して大翔さんが僕の顔を覗き込んだ。
ちらっと視線を物音の方向に向けたけど、誰かがいる様子は無かった。
……気のせいだったかな?
「ゴメン。なんでもないよ。……あ、買い物だけど、飲み物とか箱ティッシュも買ってきてもらえると嬉しいかな」
「わかった。じゃあ行ってくるから。……気を付けてな。くれぐれもあいつと2人っきりにはなるなよ」
「うん、わかった。行ってらっしゃい」
大翔さんたちを送り出してから晴斗さんと2人、リビングでお菓子を食べている。
今日のおやつはアーモンドチョコ。数ある商品の中で僕のお気に入りは、万歳ポーズのお兄さんがトレードマークの大手菓子屋さんのアーモンドチョコだ。アーモンドのカリッと感が絶妙で、僕の一押しのおやつなんだ。
チョコを食べながら紅茶を飲んでたわいないお喋りをしていた。
「だからね、その時が初めてだったんだよ。僕がサッカーを見てみたいって言ったから兄さんが……。晴斗さん?」
今一反応の少ない晴斗さんを不思議に思って顔を上げると、晴斗さんはコクリコクリとうたた寝をしていた。
……晴斗さんって子供みたいだね。
まるで悩みなんて一個もないって感じでいつものほほんとしている。
自然体なその雰囲気は、やっぱりちょっと羨ましい。
しばらくそんな癒される晴斗さんの寝顔を見ていたんだけど、不意に兄さんの事が気になって、ほんのちょっぴりだけ様子を窺おうとリビングを出た。
廊下を静かに歩きながら兄さんの部屋の方へと歩いていると、向こうの方から兄さんも自分の部屋に向かって歩いてきていた。
飴と鞭を交互に提供する食事の在り方に、少しずつまた兄さんの眉間のしわが増えてきていた。
「兄さん……」
また剣呑な雰囲気になりつつある兄さんに、大翔さんたちが決して二人きりになるなと忠告してきた。
どうしたらいいんだろう。
……結局は、どんなに嫌がられても兄さんに少しずつでも頑張って慣れてもらわなきゃならない。
2人きりになるなといわれているから傍にはあまり行かないけど、それでも兄さんが気になってそっといつも様子を窺っている。
そんな僕を兄さんも気が付いているようで、時々彼もこちらの方をじっと見ていることが多くなってきていた。
「志音、晴斗の別荘の管理をしてくれてる人が車を出してくれるそうなんで、俺も買い出しに付き合うつもりだけど何か買ってきて欲しいものはあるか?」
「あ、うん。じゃあ、マグロとブリとアジの刺身を買ってきてあげて? 他にも何かよさそうな刺身があったら、それも」
「志音……」
「ごめんね。もとはと言えば僕のわがままで、みんなに苦労強いちゃって……」
どうしても。
どうしてもやっぱり、大好きな兄さんに激似の異世界人を放り出したくなんて無い。警察なんて論外だ。
「大丈夫だ。なんだかんだ言っても、俺らだって壱琉に似ているあいつを警察に突き出すのは気持ちのいいもんじゃないからさ。志音のためだけってわけじゃないよ」
「大翔さん……」
情けないことに、こうやって慰めてもらうのは僕は苦手みたいだ。
堪えきれない涙が、僕の頬を伝った。
「志音」
優しく大翔さんに抱き寄せられ温かな腕の中に包まれて、抑え込んでいた不安定な感情が溢れだしてしまった。
僕は大翔さんにしがみ付いて、声を殺して泣いた。
本当の兄さんがいない今、僕の心はあの異世界人の兄さんに執着してしまっているようだ。こんな気持ちは不味いかもしれないとは思っても、僕自身で制御なんて出来るわけもなく、どうしようも無かった。
カタッ。
……え?
大翔さんの腕の中にいるので振り向くことは出来なかったけど、誰かがいたのかな?
今、物音がしたよね?
「志音?」
腕をゆっくり離して大翔さんが僕の顔を覗き込んだ。
ちらっと視線を物音の方向に向けたけど、誰かがいる様子は無かった。
……気のせいだったかな?
「ゴメン。なんでもないよ。……あ、買い物だけど、飲み物とか箱ティッシュも買ってきてもらえると嬉しいかな」
「わかった。じゃあ行ってくるから。……気を付けてな。くれぐれもあいつと2人っきりにはなるなよ」
「うん、わかった。行ってらっしゃい」
大翔さんたちを送り出してから晴斗さんと2人、リビングでお菓子を食べている。
今日のおやつはアーモンドチョコ。数ある商品の中で僕のお気に入りは、万歳ポーズのお兄さんがトレードマークの大手菓子屋さんのアーモンドチョコだ。アーモンドのカリッと感が絶妙で、僕の一押しのおやつなんだ。
チョコを食べながら紅茶を飲んでたわいないお喋りをしていた。
「だからね、その時が初めてだったんだよ。僕がサッカーを見てみたいって言ったから兄さんが……。晴斗さん?」
今一反応の少ない晴斗さんを不思議に思って顔を上げると、晴斗さんはコクリコクリとうたた寝をしていた。
……晴斗さんって子供みたいだね。
まるで悩みなんて一個もないって感じでいつものほほんとしている。
自然体なその雰囲気は、やっぱりちょっと羨ましい。
しばらくそんな癒される晴斗さんの寝顔を見ていたんだけど、不意に兄さんの事が気になって、ほんのちょっぴりだけ様子を窺おうとリビングを出た。
廊下を静かに歩きながら兄さんの部屋の方へと歩いていると、向こうの方から兄さんも自分の部屋に向かって歩いてきていた。
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