これは兄さんじゃありません

くるむ

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第二章

油断しちゃダメ 3

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「あ……」

思わず声が零れて立ち止まった。
兄さんも僕に気が付き部屋の前で立ち止まった。

……やっぱり、ところどころ表情も兄さんにそっくりだよね。

そんな風に考えてしまうから、僕はどうしてもどんなにわがままな事をしていると分かっていても、この兄さんを手放す気にはどうしてもなれない。
どうにかしてこの世界に馴染んで欲しいと思うんだ。

「どうした?」

バリトンの柔らかく優しい声。
本当に声まで兄さんに似ているなんて狡いよ……。

「……っ、あ、そう。今大翔さんたちが兄さんの為にお刺身買いに行ってくれてるから、楽しみにしててねっ」

慌てて笑顔を取り繕って微笑んだんだけど、兄さんは何を思ったのか、微動だにせずに今度は僕の顔をじっと見つめている。
返事も忘れたように僕の顔をあまりにもマジマジと見つめられ続けて、なんだか居心地が悪くなってくる。

「兄さん……?」


「志音……」

余りにも懐かしい声音。低く優しく穏やかに僕を呼ぶ兄さんの声。
ハッとして兄さんの顔を確かめる。

もしかして、もしかしたら本当の、本物の兄さん!?

兄さんは僕から目を逸らさずに、ジッと見つめ続けながら僕に近づいてくる。
そして僕のすぐ目の前までやって来た時、そっと抱き寄せられた。

……え?

僕の背中に腕を回して、キュッと僕を包むように優しく抱きしめる。
僕が悲しい時や辛い時に慰めてくれた兄さんそのものの行動で――、

もしかして、もしかして……!

ドキドキ、バクバクとうるさく鳴る心臓。

「兄さん!? もしかして異世界人じゃなくて本物の兄さんなの?」
「違う。異世界人だ」

ハウッ!?

間髪を入れずに否定されてドキドキがどっかに吹っ飛んだ。

「酷い! 僕のこと油断させて食べる気だったのー!?」
「そんなことはしない」
「……ふ、ひゃっ!?」

そういったかと思うと兄さんは、いきなり僕を抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこだ。

何の前触れもなく抱き上げられて、その不安定さにびっくりして思わず僕は兄さんの首に抱き着いた。

「ちょ、ちょっと兄さん……!?」

兄さんは僕を抱き上げた後、そのまま部屋に入ってベッドの上に僕を寝かせた。

驚いて目を見開く僕をじっと見た後、徐に顔を近づけて――、


あろうことか兄さんは、僕の唇に唇を重ね合わせた。
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