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君だけは守りたい

朔也の意志

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「うそっ…、どうしよう…。朔也、朔也!!」

どんなに頑張っても"気"を全く送れない藤は、焦ってただただ朔也の身体を擦り続ける。

「お願い…っ、お願い、どうしよう…」

「…じ、…げろ…」
「え?」

薄く目を開けた朔也が、必死に何かを藤に訴えようとしている。藤は耳を朔也の口に近づけて、何を言っているのか聞き取ろうとした。

「逃げ…ろ」
「わ、分かった」

ここに居ては危ないと言っているのだろうと藤は判断し、朔也の首の後ろと膝裏に手を入れて持ち上げようとした。だが、それを朔也は手で制する。

「…くは、いい…。行け…、だい…じょ…ぶ、だか…」
「嫌だ!! 何言ってるの朔也! 絶対連れてく!絶対だからね!!」

朔也の制止をきっぱり無視して、ぐったりとしている朔也を何とか抱え上げた。

「ふ…じ……」

咎めるように眉を顰める朔也をスパッと無視して、藤は朔也に尋ねる。

「さっき空き家見に行ったよね。どうだった? あったの?」

朔也を抱えて一生懸命前に進んで行く藤に、とうとう朔也も折れたようだった。

「すぐ…、三軒目に…」
「分かった。頑張るから、待ってて。すぐ横にしてあげるから」

ぐったりと力の入らない朔也は想像以上に重い。藤は転ばないように細心の注意をはらいながら、一歩一歩前へと進んで行った。


何とか朔也と2人でたどり着いた藤は、出来るだけゆっくりと畳の上に朔也を下ろした。
そして、もう一度何とか朔也に"気"を入れようと試みた。
だが、今まで一度も"気"を流し込んだことが無い藤は、どんなに頑張っても一向に"気"を流し込むことが出来なかった。
自分の不甲斐なさに、藤の瞳からポロポロと大粒の涙が零れた。
その雫が朔也の頬を濡らす。
ぽたぽたと滴り落ちる感覚に、朔也の意識が浮上した。

「藤……?」
「朔也! 良かった! 気が付いたんだね!」
「どうやら…無事に…たどり着いたみたいだな…」
「うん…。2人とも…、無事だよ」

朔也に余計な心配を掛けないようにと、必死で涙を堪えようとするけれど、ポロポロと溢れて止めることが出来ない。藤は嗚咽を漏らしながら、言葉をつづけた。

「ねえ…、朔也。お願…いが、あるんだけど」
「…何だ…?」
「ぼくの…、ぼくの"気"を吸ってよ。ぼく…、さっきからずっとやってるのに、どうしても朔也みたいに上手く送れないんだ」
「藤…」

「早く!」
すぐにでも吸収してもらおうと、藤が朔也の両手をギュッと握る。だけど朔也は一向に藤から"気"を吸収しようとはしなかった。

「朔也!」
「だめ……。そんな…したら、君が…」
「倒れたっていいよ! 死なない程度に採ってよ。朔也ならそのくらいの分量分かるでしょ!?」
「だめだよ…。いつまた奴らが来ないとも限らない……。その時…逃げ出せ無かったら……。どうするんだ?」
「…!」
こんな状況の時にまで、藤の事ばかりを考える朔也に、藤は愕然とする。

「朔也を置いて逃げろって言うの? 朔也を見殺しにしろというの!? 僕を一人ぼっちにする気!? いやだよそんな…! お願いだから"気"を吸って!ぼくはいいから!!」

急かすように藤は朔也の両手を更にギュッと握りしめる。だが朔也の表情は辛そうにもかかわらず、意思を翻そうとはしなかった。

「聞き分けの悪い子だな……。僕は君をそんな子に育てた覚えはないぞ…」

荒い息を吐きながら、朔也はそれこそ藤を諭そうとじっと見ている。

そんな朔也の表情に、藤は朔也の本気を感じた。
どうあっても、どんなに頼んでも朔也は藤の"気"を吸わない気だ。もうこうなったら、答えは一つしか残されてはいない。


藤は唇を噛みしめて、己を奮い立たせた。
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