幼児化した闇魔術士は聖騎士に溺愛される

くるむ

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第一章

なんかないのかよ

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 ウィルフレッドの帰る時間なんていつも気にしたことはなかったけれど今日は別だった。そろそろ帰る頃だろうとあたりをつけた夕刻に、俺は部屋を出て門へと突進した。

「ルアン様!」
 俺の突拍子もない行動に驚いたリースが、俺の後をついてきた。全力疾走でもよちよち走りの俺は簡単にリースの腕に捕まってしまった。

「もうお外は寒い時間ですよ。どこに行かれるんですか」
「ウィルむかえに」
「え?」
 一瞬目を見開いた後すぐに「ああ!」という表情になり、嬉しそうに笑った。リースは俺の手を引いたまま、一緒になって門まで向かって歩いた。

「ウィルフレッド様のお帰りが待ち遠しいのですね。お優しい方ですものね」
「えっ!?」

 とんでもない勘違いをされていた。俺がウィルフレッドに懐いて、一刻も早く会いたくて会いたくてたまらないと思われているのか。

「ち、ちがうぞ! そうじゃなくて」
「ルアン、どうした。もしかして私が恋しくて、出迎えに来てくれたのか?」

「えっ、うわわっ」

 文句を言う隙もなく、俺の体が宙に舞い上がった。眼前にはニコニコと笑ううっとうしい男の顔。

「そ、そんなんじゃない。おまえにききたいことがあって」
「ふうん? まあいい。外は冷えるから中に入ろう」

 下ろせと言おうと思ってやめた。どうせ何度言っても、こいつは言うこと聞かないもんな。
 何も言わずにおとなしくしている俺を、ウィルフレッドは『おや?』といった顔で見たけれど、素知らぬ顔で通してやった。



 着替えから戻ってきたウィルフレッドが、俺の部屋にやってきた。
「で、私に聞きたいこととは?」

「マーサのむこがまどうぐをつくっているらしいんだけど、おれのめのいろをかえるまどうぐをつくってもらってもいいか?」

「え……?」

 簡単に了承されると思っていたのに、違った。ウィルフレッドの困惑した表情は、なにか気になることがあるかのようだった。
 顎に手を当て俯いて、何か考え込んでいる。

「ダメなりゆうがあるのか?」 
「え? ああ、すまん」
 困惑した表情はそのままだ。

「魔法でも黒を変えるのは困難なんだ。それはルアンも知っているだろう?」
「しってるけど、それがりゆうなのか?」

「……いや、黒い瞳を持つ人間がこの屋敷にいるということを、ほかの人に知られたくないだけだ」

「だけどリースやこのいえのしようにんたちはみんなしってるじゃないか」

「彼らはいいんだ。私との信頼関係もあるし他言無用という事をちゃんと理解して、誓約も交わしている。だから彼らは家族にもその話はしていないはずだ」

「あ、そういえば……マーサもウィルにりょーしょーしてもらったらといっていたな」
「そうでないと困る」
「でもさー、マーサのむこなら、くちはかたいんじゃないのか?」

「リスクは最低限の方がいい。それに、黒い瞳を隠したい、隠させたいと思って魔道具を作らせようとする人間なんかおそらくこの国にはいない。そうなると、当事者に近くない赤の他人の場合、誰かに話したくなる衝動に駆られないとは言えないだろう。それがもし運悪く当局の耳にでも入ったとしたら大変なことになる」

「…………」

 正論だ。まったくもって正論だ。だから余計にイライラした。
 何の反論もできなくて、俺はぎゅっと拳を握りしめ唇を噛んで俯いた。 

「なんかないのかよ。ずっとおれは、ひとめをはばかっていきていくしかないのか?」
「ルアン……」

 ウィルフレッドは申し訳なさそうな顔で俺をじっと見ていた。無言でじっと見続けた後――「しょうがないな」とつぶやいた。
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