冤罪をかけられた聖女見習いは同情して助けてくれたイケメン騎士と楽しく暮らす

くるむ

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これで路頭に迷わなくてすむ

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 私は平民で両親は食堂で働いていた。だけどある日2人とも馬車にひかれて死んでしまった。それからおじ夫婦の世話になったのだけど、私はお荷物扱いで食事も一日に1回与えられればいいほうだった。
 

「そういえば今日教会で声をかけられたのよ。今聖女判定をしているらしいの。年頃の女の子がいるなら是非どうぞって。ココも行って来なさい」

「えっ? 私が?」
 いつものように床の拭き掃除をしている私は、バケツの上で雑巾を絞り顔を上げた。叔母の突拍子もない言葉に、きっとまたからかわれているのだと思った。

「そうよ。運良く聖女見習いに選ばれれば、この家から出て行ってくれるでしょ。そうすれば無駄な食費も使わないで済むわ」

「…………」
「わかった?」
「はい」
「じゃあここの掃除を全て終わらせたら行ってきなさい」

「分かりました」
 素直に返事をすれば、叔母の顔が嬉しそうに歪んだ。

「良かったわ。これでやっと厄介払いができる」
 うれしそうに言う叔母の声が、私の心臓をギリギリと締め付けた。

 泣くもんか。絶対に泣いたりなんかしない。
 私は歯を食いしばり、タタタと勢いよく雑巾がけをした。


 自分が着ている服以外、着替えも何も一切持たない私は、何の準備もせずにそのまま教会へと向かった。

 教会には私と同じぐらいの年頃の16、7歳の少女や、それよりも年下の少女たちが母親たちに付き添ってもらい列をなしていた。だけどみんな貴族のご令嬢といった感じで、私のようにみすぼらしいなりをした人は誰もいなかった。

「付き添いがいないのは私くらいだわ。すごい人になると家族やメイドたちまでついてきている」

 とてもじゃないけれど、恥ずかしくて同じ列に並ぶなんてできそうにない。だけど、もう叔父夫婦の家に戻っても入れてもらえないかもしれない。

 私は列に並ぶこともここから去ることもできなくて、ずっと同じ場所に佇んでいた。
 聖女判定のために並んでいた令嬢たちの数もだんだん減ってきて、もうあと2人という数にまでなっていた。

 どうしよう、どうしよう。もう終わってしまう。
 とうとう並んでいるのは最後の一人になってしまっていた。あの人が終わったら、もう私が聖女判定を受けることはできなくなってしまう。

 無意識のうちに私の足はその最後の一人の少女の後ろに向かっていた。

「次の方」
「はい」

 教会の中から呼ばれて返事をして中に入ると、関係者の方たちの顔色が変わった。みんな困惑して固まっている。
 やっぱりダメだっただろうか。こんなみすぼらしい姿をした平民なんかが聖女になろうだなんておこがましいと思われているのかもしれない。

 やっぱり出ていこうと思いかけた時、「水晶の前に立ちなさい」と声をかけられた。私にそう声をかけたのは一番偉そうな人で、周りの人たちは驚いたような顔をしていたが特に何も言わなかった。

 私は言われた通りに水晶の前に立ち手をかざしてみた。
 すると水晶の色が一瞬虹色に変化しパアッとまばゆい光を放った。
 周りがざわざわとうるさくなった。

「綺麗……」

「君の名前は?」
「ココ・マッキントッシュです」

「ではココ・マッキントッシュ、聖女見習いとしてしばらくの間教会預かりとする。身の回りのものを準備してから、またこちらに来なさい」
「あ……」

 どうしよう。きっと着替えとかそういったものを準備しなさいと言っているのだわ。だけど私、この他に服なんか持っていないし。

「どうした?」
「あっ、あの……私もってくるものが何もなくて」
「えっ?」
 驚愕に目が見開かれた。きっと汚い娘だと思われたのだろう。恥ずかしくて顔が上げられない。

「それでは着替えなどはこちらで準備しよう。古着でも構わないな?」
「は、はい。ありがとうございます!」

「では、こちらに。部屋に案内しよう」
「はい」

 よかった、これで路頭に迷わなくてすむわ。
 私は心底安堵のため息をついた。
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