冤罪をかけられた聖女見習いは同情して助けてくれたイケメン騎士と楽しく暮らす

くるむ

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現聖女マドレーヌ

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 北へと向かった理由は国境の近さがあった。
 それにレーマン王国とハルペニー王国には国交があり、商人や労働者、それに観光客なども自由に行き来している。そのため出入国に対しての制限が他よりもゆるかった。

「夜通し歩いたから疲れただろう。どこかで休もう」
「それでしたら労働者向けに朝から開いている食堂があるはずです。探せば一軒ぐらいはあると思うのですが……」

「ああ、なるほど」
「私の両親もそういうところで働いていました」
「そうなのか」
「はい。忙しそうでしたけど楽しそうに働いてる姿に、私も将来はご飯を作ってみんなに振る舞ってあげるんだってそう思ってました」

「いい夢だな」
「……叶いませんでしたけど」
「そんなことはないだろう。今からだってその気になればできるじゃないか」
「――そうですね。そうだといいんですけど」

 両親が亡くなって叔父夫婦に預けられてから、私には夢も希望も何もかもなくなってしまったと思っていた。聖女見習いから聖女に選ばれたら、もしかしたら居場所ができるのかもしれないという淡い期待も消えてなくなってしまって、私みたいな孤児は夢を見る資格もないのかと思っていたのに。

 こんな風に夢はあきらめなくていいんだって励ましてくれる人は初めてだ。

「あれ、食堂じゃないか?」
「そうみたいです」

 私は滲み始めた涙を袖でキュッと拭いた。目が合ったアルバート様は一瞬心配そうな顔をしたけれど、何も言わずに流してくれた。

「行こうか、腹ペコだ」
「はい」

 店内はものすごく混んでいた。なんとか空いてる席を見つけて腰掛ける。
 腰掛けたとたんに思いのほか体がきつかったことに気がついた。私は注文したメニューが来るまでぐったりと背もたれにもたれて目を閉じた。

「そういえばもうそろそろ新しい聖女様が誕生するそうだな」
「ああ。今度の聖女様はどんな方かな? 現聖女のマドレーヌ様のように大らかで力のある方だといいな」
「そうだな。マドレーヌ様は……」

 近くの席で食事をしていた3人組がマドレーヌ様の噂話をしていた。
 私もマドレーヌ様のことで、ずっと気になっていたことがあったのだ。
 背もたれから体を離し、姿勢を正してからアルバート様に聞いてみた。

「マドレーヌ様はご高齢だと言うことですけど、今どのような感じなんでしょうか」

「マドレーヌ様? うーん、俺もお会いしたことはないから確かなことはわからないけど、もう体力もかなり弱っていて寝たり起きたりの生活らしいぞ。だから聖女の能力もかなり弱っているんじゃないかな」

「そうなんですか……」
「俺は君が聖女になるべきだと思っていたが、ヒラリーとかいうあの令嬢にみんなして振り回されてるようではいろいろとダメだろうな」

「ヒラリー様のあの言動にはショックでしたけど、でもアルバート様は私のことを買いかぶりすぎだと思います」

「そうかな?」
「はい、聖女の能力ということでしたら、私より上の人はきっといると思います」
「だといいね」

「お待たせしました。パンとスープセット二つに、ソーセージとサラダの盛り合わせです」

 店員がホカホカと湯気のたった朝食を運んできた。

「やあ、美味しそうだ」
「ほんと、美味しそうです。いただきます」

 ふかふかのパンを頬張った。軽い甘みが口中に広がり、幸せな気分になれた。
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