冤罪をかけられた聖女見習いは同情して助けてくれたイケメン騎士と楽しく暮らす

くるむ

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ハルペニーへ

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「急いで国境を目指すぞ」

 アルバート様は、ヒラリー様の話をしたらすっかり機嫌が悪くなってしまった。足早に歩き出してから思い直したように立ち止まり、私を振り返った。

「すまん。また無理させるところだった」
「あ、いえ。私も頑張って歩きます。国境まであと少しですもんね」
「ああ」

 そう言いながらもアルバート様は、少しスピードを落として歩いてくれた。そして私の体調に気を配ってくれて、私が疲れたなと思った頃には少しの休憩を入れ、宿からもらってきた水を渡してくれたりと気を使ってくれた。

 そうやって頑張って歩いた結果、とうとう国境が見えてきた。アルバート様は立ち止まり眉をしかめた。

「ずいぶん列が長いな」
「いつもはもっと空いているんですか?」
「ああ、積み荷が怪しい場合はすぐに別の場所に回されるし、よほどのことがない限りはサクサク進んでいくはずなんだが……」

 よほどのこと……。

 アルバート様は私の手を引っ張って、この列から離れた。

「嫌な予感がする。ここから向かうのは諦めよう。ハルペニーには、別ルートから向かう。行こう」
「はい」

 アルバート様の言う別ルートというのがどこだか分からなかったけれど、私よりはるかにいろいろなことを知っているアルバート様のことを信じて、私達はまた長い道のりを行くことになる。宿にも何度か泊まり町からだんだん離れていき、民家も人も少なくなり目の前には鬱蒼と茂った森が現れた。

「暗くて恐そうですね」
「……ここは聖女の結界が及ばないせいで、魔獣が出る森だ。レーマンの聖女に追いやられた魔獣と、ハルペニーの聖騎士に追いやられた魔獣がここに生息しているそうだ」

「そんな所を通るんですか?」
 怖くなってアルパート様を見上げた。目が合うと、アルバート様は安心させるようにニッコリと微笑んだ。
「大丈夫だ。こう見えて俺も結構強い。それにこの森に生息する魔獣はだいたいEランクあたりだ。油断さえしなければ、俺ひとりでも討伐できる」

 もう一度私はこれから入ろうとする森に目を向けた。
 やっぱりどう見ても怖い。だけど……。
 アルバート様は、それでも私のためにこの森を突っ切ろうとしてくれている。

 拳を握り、唇をキュッとかんだ。

「分かりました。私も足手まといにならないように頑張ります」
 なにか……、私みたいに非力な人間でも武器にできるものが落ちていないだろうか。太い尖った木の枝とか、小石とか。

「……何してるんだい?」
「手ごろな小石を探しています。あと木の枝とか」
「まさか君も闘ってくれるつもり?」
「もちろんです!」

 決意を込めて力いっぱい返事をしたのに、アルバート様は困ったような笑顔を見せた。

「君には、君にできることをしてもらいたいな」
「えっ? ですから、」
「そうじゃなくて。俺が戦って怪我をしたり体力が削られたりした時にヒールをかけてもらいたいんだよ」

 アルバート様は真剣な表情で、私の手を握りながらそう言った。

「でもそれじゃあ私、アルバート様に守られてばっかりで……」
「いや、そのほうが効率が良いんだ。もしも君が怪我をしたら俺に力強いヒールをかけてもらえないだろう? それじゃあ2人ともやられてしまうよ」

「あ……」
 言われてみればそうだと思う。私が足手まといになって、却ってアルバート様を危険な目に遭わせてしまいそうだ。

「分かりました」

 しっかりと頷くと、アルバート様はほっとしたように頷き返した。
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