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018-025 正義の戦いとはズレがある
025 俺は失恋だって信じていない
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さすがに月は欠けているな。俺がひとりで月明かりに照らされている。空気は澄んでいるし邪魔な明かりもない。今夜も異世界は美しい。
ぬるいそよ風を受けながら、俺はメモ帳を開いて眺めた。何も書いていなかったページに「貸し1」と書いてあった。俺が書き加えた覚えはなかった。当然女神の覚え書きだろうと思う。
「まあ、それもいっか」
今夜も娘さんの喜悦の声が激しい。それが俺の心を癒して落ち着かせてくれるよ。
ほとんどクラシックを嗜むような感覚で浸っていたが、ふと前を見ればルリアが手招きをした。俺は決して浅ましい期待でついて行くのではない。彼女はどうしてか青いワンピースを着ていた。
ため池のほとり。ルリアが腰を下ろすから俺も近くで座る。「綺麗だね」と二人で話して、水面に浮かぶ欠けた月を見ていた。そしてルリアの方から話してくる。
「転生者様はあの時。私ともう一人の命を救おうとしたのですよね?」
急に何の話かと俺は思う。
「別に、特待偵察チームの隊長がどうなろうと俺の知ったことじゃなかったけど?」
「そうではありません。私には見えました」
「見えた?」と首を傾げれば、ルリアは俺のポケットの辺りを指差す。
「夜に生きる私たちは視力に特別な魔力を宿す。さっきあなたのメモ帳を遠目から覗いてしまいました。ごめんなさい……」
それが本当なら、ちょっと気まずくなる。
「……じゃあ。あの家の中も覗けるのか?」
「見えます。体位が知りたい?」
「うおっ!! い、いやいやいやいや。そこはあれやこれやを想像するから良いんであって。やっぱり大丈夫です。ありがとうございます」
っていうかこの人、体位って言わなかったか? やっぱりそういう意味の方で使ったか? 興奮するのは俺だけで、ルリアはこんな会話でも至って落ち着いているし、なんだか憂いを帯びてもいる。
「話を逸らしたのですね……。でも私は転生者様の秘密を誰にも言いません。だから私の秘密も約束してくれますか」
その秘密とは、ルリアと前の転生者との関係の話だった。
「私が村の人を傷付けたのは本当の話です。その時、あなたと同じ転生したという者が私を庇ってくれたのです。ひとり犠牲になって、彼曰く異世界と呼ぶこの世界から消えてしまった。だから村の人はあなたのことも厄災として忌み嫌うのですよ。すべては私のせい……」
静かに聞いていれば、無理に微笑みを作ったルリアの顔に俺は覗かれた。
「私のこと殺しておけばよかったと思いますか?」と聞かれた。答えはもちろんNOだ。何も彼女のせいなんかじゃない。俺は何度でも腐ったミルクで腹を壊してやる。
「お前の呪いくらい俺が解いてやるさ」
格好付けた俺にルリアは驚いたが、そう信じていなくて苦笑いだ。構わず俺はこの調子で続けるぞ。
「俺から太陽神にひとこと言ってやれば良い。言葉が伝わらなかったら殴ってやる。腕が四本あろうが持て余すだけだろ。簡単だ!」
これには流石に耐えきれなくなって、ルリアはちゃんとアハハと笑ってくれる。ここで「やっと笑ってくれたね」は定番セリフだが、俺はさらに上を行かせてもらおう。
「呪いが溶けたら俺はお前を嫁にするからな」…………しーんとなる。
掻き立てるような風が吹き上げて、ここぞと言わんばかりに花びらが舞えよ! 渾身のイケボだったんだぞ! しかし後からルリアが微笑した。
「呪いが溶けたら考えますね」
その答えを告げて、俺のヒロインは月隠しの雲と一緒に闇の中へ消えた。その後ひとりで過ごしたため池のほとり。俺は初めて寂しいなと感じていたかもしれない。無意味に小石を池に落としたりしていた。
ぬるいそよ風を受けながら、俺はメモ帳を開いて眺めた。何も書いていなかったページに「貸し1」と書いてあった。俺が書き加えた覚えはなかった。当然女神の覚え書きだろうと思う。
「まあ、それもいっか」
今夜も娘さんの喜悦の声が激しい。それが俺の心を癒して落ち着かせてくれるよ。
ほとんどクラシックを嗜むような感覚で浸っていたが、ふと前を見ればルリアが手招きをした。俺は決して浅ましい期待でついて行くのではない。彼女はどうしてか青いワンピースを着ていた。
ため池のほとり。ルリアが腰を下ろすから俺も近くで座る。「綺麗だね」と二人で話して、水面に浮かぶ欠けた月を見ていた。そしてルリアの方から話してくる。
「転生者様はあの時。私ともう一人の命を救おうとしたのですよね?」
急に何の話かと俺は思う。
「別に、特待偵察チームの隊長がどうなろうと俺の知ったことじゃなかったけど?」
「そうではありません。私には見えました」
「見えた?」と首を傾げれば、ルリアは俺のポケットの辺りを指差す。
「夜に生きる私たちは視力に特別な魔力を宿す。さっきあなたのメモ帳を遠目から覗いてしまいました。ごめんなさい……」
それが本当なら、ちょっと気まずくなる。
「……じゃあ。あの家の中も覗けるのか?」
「見えます。体位が知りたい?」
「うおっ!! い、いやいやいやいや。そこはあれやこれやを想像するから良いんであって。やっぱり大丈夫です。ありがとうございます」
っていうかこの人、体位って言わなかったか? やっぱりそういう意味の方で使ったか? 興奮するのは俺だけで、ルリアはこんな会話でも至って落ち着いているし、なんだか憂いを帯びてもいる。
「話を逸らしたのですね……。でも私は転生者様の秘密を誰にも言いません。だから私の秘密も約束してくれますか」
その秘密とは、ルリアと前の転生者との関係の話だった。
「私が村の人を傷付けたのは本当の話です。その時、あなたと同じ転生したという者が私を庇ってくれたのです。ひとり犠牲になって、彼曰く異世界と呼ぶこの世界から消えてしまった。だから村の人はあなたのことも厄災として忌み嫌うのですよ。すべては私のせい……」
静かに聞いていれば、無理に微笑みを作ったルリアの顔に俺は覗かれた。
「私のこと殺しておけばよかったと思いますか?」と聞かれた。答えはもちろんNOだ。何も彼女のせいなんかじゃない。俺は何度でも腐ったミルクで腹を壊してやる。
「お前の呪いくらい俺が解いてやるさ」
格好付けた俺にルリアは驚いたが、そう信じていなくて苦笑いだ。構わず俺はこの調子で続けるぞ。
「俺から太陽神にひとこと言ってやれば良い。言葉が伝わらなかったら殴ってやる。腕が四本あろうが持て余すだけだろ。簡単だ!」
これには流石に耐えきれなくなって、ルリアはちゃんとアハハと笑ってくれる。ここで「やっと笑ってくれたね」は定番セリフだが、俺はさらに上を行かせてもらおう。
「呪いが溶けたら俺はお前を嫁にするからな」…………しーんとなる。
掻き立てるような風が吹き上げて、ここぞと言わんばかりに花びらが舞えよ! 渾身のイケボだったんだぞ! しかし後からルリアが微笑した。
「呪いが溶けたら考えますね」
その答えを告げて、俺のヒロインは月隠しの雲と一緒に闇の中へ消えた。その後ひとりで過ごしたため池のほとり。俺は初めて寂しいなと感じていたかもしれない。無意味に小石を池に落としたりしていた。
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