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051-055【第三幕】命がけの脱獄・性転!?

052 俺は飯を味わえない

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 池の横で小さな噴水の音を聞いていた。するとここへ掛けてくる足音がする。

「転生者! うまく行ったのね!」

 フィーカだな。声色ですぐに分かる。あんまり嬉しそうな声を出さないでくれ。俺は死にかけたんだぞ。しかも一回は心臓発作で苦しみ死んだんだぞ。

 彼女がやって来ると同時に、かぐわしくて良い匂いを連れて来たようだ。俺は仲間の登場よりもそっちに期待し振り返った。

「もう二十日も食べていないもの。お腹空いているでしょう?」

 救われた。まさに今、空腹でこの池の傍から一ミリも動けなかったんだ。

「食べさせてあげよっか」

「頼む」

 フードファイターの中でも新しい種目を見出だした。俺は寝ながらでいて、サポーターがスプーンで口に運んでくれるものを次々と飲み込む。

 絶対に体に悪いが時間勝負だった。のんびり紅葉狩りなんてしている場合じゃない。それはフィーカも分かっているから、スプーンの動きは製造工場のアーム機械より早い。

「ふう……とりあえず生き返った。ありがとう。特待偵察チームに動きはあったか?」

「まあそうね。こんな大変な世の中だけど、彼らは相変わらず動き回っているわ」

 フィーカは空になった食器類を魔法で砂に変えていた。その砂を池にけば、異世界の錦鯉でも勘違いを起こしてパクパク食べている。

 ひょいと振り返って「パン粉にしたの」と言われる。どうやら砂じゃ無かったらしい。俺は「魔法ってすげぇな」と返した。

「魔法じゃなくて錬金術よ? 知らないの?」

 その違いを聞かせられながら、俺たちは池の周りをぐるっと歩く。そして近くにそびえ立つ要塞の城に近付いていた。

 フィーカいわく、強力な魔法がかかった城なんだそう。部外者が城壁に触れただけで、体の内側から灰にされるとか危ないことを説明してくれる。

 しかし、俺たちは部外者では無くなった。一応な。

 強力で古い魔法は誰にも解けないだとかで、たとえ囚人であっても関係者の一員にしなくちゃ中に入れることもできない。異世界人はアホだな。けどそれが理由で脱獄例もゼロなんだってさ。

 だけどその記録も破られた。ここで初めてイチを作った。つまり俺は、伝説の脱獄転生者だってわけだ。めちゃくちゃ格好良い。

「どっから中に入るんだよ」

「入り口からよ。良い方法があるの。大丈夫、もう死なないわ」

 フィーカは明るく言う。俺も後ろに続いていて「それなら良いけど」と答えている。
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