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051-055【第三幕】命がけの脱獄・性転!?

053 俺は恥ずかしくない

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 妙薬だの魔法だの錬金術だの、バラエティー豊かなこの異世界。俺はまだどれも身に付けていない。季節は半分以上も過ぎたというのに、おかしいな。そして……。

「ふざけてるな」言いきると、フィーカは「何がよ」と頬を膨らませている。

 彼女は俺の反応が良くないことを不満に思っていた。俺は俺自信の現状に不満があった。

 フィーカはいつもの重そうな鎧は脱いでいて、変わりに両腕を出したドレスを着ている。いわゆるドレスアップした格好だ。華やかな色はフィーカの明るさに似合っている。

 俺もドレスアップだ。腕や足の露出は少なくても綺麗めなパーティードレスを着ている。自分で言うのもあれだが劇的に似合ってない。真紅色の生地は、自分の吐血で染まったのかと錯覚するくらい。似合ってない。

「ホームパーティーで俺のことを笑い物にするつもりだろ」

「違うわよ。だって男物の服なんて普段から持ち歩いてないもの」

 答えになっているようで、なっていない。俺も、何でこの格好をさせられるんだと聞けば良いのに、羞恥心を隠すのが実はギリギリでな。

 城の正門に入る前。その陰に潜んで着替えをしたわけだ。「魔法ですぐだから」と、フィーカが言う通りに一瞬で完了した。仕上がりはこの通りだ。

「カツラは持っていないのよ。ごめんなさいね……」

 そこだけ申し訳なさそうにフィーカが謝ってくる。変装するならそこは必須だろと、俺は思うしとがめた。

「言い合っている場合じゃないんだった。もうこれで良いから、行くぞ」

 さっそく二人の婦人は陰から姿を出す。

 門番は四人。実に厳重な体制だ。俺たちの他に訪問者などいないので、この婦人らは十分に目立った。しれっと門をくぐろうとするのは現実的に無理。

「お前たち。何をしている?」

 さっそく一人から声がかかる。そして二人がこっちにやって来た。他の二人は他所よそを向いているが、俺たちのことを気にしていないことはないだろう。

 門番にはフィーカが答えた。

「マサニ・ソノトーリダの弁護人として参りましたの」

「弁護人? そんな人物がやって来るとは聞いていないぞ。お前ら怪しいな……」

 おいおい。もろバレじゃないか。

 そっちでフィーカと門番が話をしている間、俺はもう一人の門番に穴が空くほど見られている。時々首を傾げたり、眉間にしわを寄せたり。「こいつ……見覚えがあるな……」とか脳内でアフレコすればピッタリはまった。

 嫌われもの転生者は、今や大犯罪の転生者なので、顔は新聞で嫌と言うほど出回っている。変装するなら一番隠さなきゃならないところが丸出しであるが、この門番は何を悩むことがある……?
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