ドラゴンアース anotherstory ‐死の魔女‐

とと

文字の大きさ
25 / 43
トカゲ王の城

3.

しおりを挟む
二日後、アストとパラガスは、アルード王国の南、シーフー山脈の山道を横断していた。

アストは二日前と違い、髭を剃り、身なりも整え、白銀の鎧を装着し、愛用の剣を腰の鞘にしまっており、黒毛の愛馬シャムに跨がり、ようやく騎士らしき風貌を醸し出していた。

パラガスは馬車に乗り込み、二頭の馬を手綱で操っていた。

馬車の中には、旅に必要な食料、衣類などの生活必需品。

そして、二人の珍客を乗せている。

アストとパラガスが王国の家畜を逃がした際、宝物庫で、必要な道具を調達する時、二人の盗賊を発見した。

エルフのペテンとドワーフのタンクだった。

このまま王国に置いておくとロクな事をしないと判断したパラガスは、二人を珍客として、目的地、ラットビード王国へ連れてく事に決めた。

二人の亜人は断固拒否したが、半ば強制的にまるで、囚人を護送するかの如く、連行した。

それはさておき、一行が横断する緑の繁ったシーフー山脈には、危険で獰猛なモンスター達が数多く、存在する。

モンスターの中には、獅子鷲グリフォン。飛行小龍ワイバーン。中でも最も遭遇したくない、老人顔凶悪獅子マンティコア、八脚王蛇バジリスクがいる。

ほとんどのモンスターが人肉を好む最悪の生物であった。

アストとパラガスは、この二日間、何度となく、襲い来るモンスターを退治し、難を逃れてきた。

しかし…。

アストは突如、手綱を引きシャムの走行を止めた。

「どうした?アスト」
パラガスも馬車馬を止め、アストを見た。

「バジリスクがいます」

アストの顔がひきつる。

「な、なななんだってぇぇ」

馬車の奥でペテンが悲鳴をあげる。

見れば、前方の木々の間に爬虫類の鱗を持つ、十メートルありそうな大蛇が、静かに寝いっていた。

「よりによってバジリスクか…」

パラガスが苦虫を潰した顔をしながら、呟いた。

「バジリスクには確か、睨まれると石化されると…」

「それだけじゃない、雄のバジリスクの血には半径五十メートルを放つ毒を持っている」

アストの言葉を遮り、パラガスがバジリスクの特徴を補足した。

八脚王蛇バジリスクは、ある意味最強のモンスターだ。

相手を凝視するだけで石化させる能力、そして雄バジリスクにのみ備わる生物を死滅させる猛毒の血液を持っている。

バジリスクに出会ったら戦わずに後退して逃げるか、死ぬかにある。

「パラガス様、逃げますか?」

「…この道を抜けるしかラッドビード王国には行けないぞ」

辺りは岩と木々に挟まれており、後退するか前進するしか道はなかった。

「逃げるに決まってるじゃないですか~、まだバジリスクはこっちに気付いてないですよ~」

ペテンがアストとパラガスの会話に口をはさんだ。

タンクはただ静観し、前方のバジリスクの動きに気配を殺していた。

「アスト、オレ達二人の敵討ちの願いはこんな爬虫類によって砕かれるのか?」

パラガスがアストを睨みつけた。

アストは腰に収めた剣の柄を握り、答えはじめる。

「いえ…ボクがバジリスクを倒します」

「よし、作戦を言おう…」

パラガスが微笑みを浮かべた。

「オレの透明魔法でバジリスクを透明にする、そうすればバジリスクの眼をみずにすむ。そしてアストお前はバジリスクの気配を感じ、剣で攻撃するんだ」

「どどど…毒は?」

パラガスの作戦にペテンが水を刺す。

その答えにアストとパラガスは馬車奥のペテンに微笑み…

「雌であることを祈れ」

と、答えた。

ある意味、運任せの戦いだった。

二人の青年はミレアと戦う前に死ぬのなら、そこまでの運命として諦めるしかなかった。

パラガスは目の前のバジリスクに透明魔法を唱えた。

消えたバジリスクは雄叫びをあげる。

アストは愛馬シャムの手綱を左手で引き、右手に愛用の剣を透明のバジリスクに掲げた。




翌日、ラッドビード王国の城の王室に招かれざる客が四人現れた。

ラッドビード王国国王、ロッツロット国王を眼にし、四人は全身を震わせた。

ロッツロット国王は四本の腕を持つ、双頭の蜥蜴亜人だった。

そして四人の招かれざる客は、ペテンにタンク、亡国の宮廷魔術師パラガス、そして同じく亡国の騎士隊長だったアストである。

彼らは運もあるが、バジリスクを倒し、ようやくラッドビード王国へと入国し、二つの頭を持つ蜥蜴王に面会する事ができた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...