EARTH STRIDER 〔アースストライダー〕

とと

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第1章〔地球編〕

past3 那賀龍神と三十人の生徒

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「あ~、腹痛い!あ~、腹痛い!まったく誰のせいで俺の腹は痛いんだろうな!?なぁポンコツくんよ~!」

先程からこの人は私に八つ当たりしている。

まぁいい、私はアースフィール。赤く輝くボディーが特長の不死鳥フェニックスモデルのWEGSウェグスだ。

で、先程から私に嫌味攻撃を仕掛けてくる頭が弱く、とても頭が最大級に弱く超理不尽なこの男が私の相棒である那賀龍神。長身で背中まで伸ばした長髪の二十七歳になるこの男は、地球上五指に入る強さを持つアースストライダーだ。

私は今、頭部だけを切り離し日本小等学校一年校舎の七階に居る。因みにボディーは大きいので、WEGS格納庫と呼ばれる校舎の地下に収納されている。

この七階が那賀龍神に用意されたプライベートルームであり、那賀龍神は昨日からここに住む事になってしまった。

彼はこのビルのような校舎で、事もあろうか教員となってしまったのだ。しつこいようだが、頭が最大級に弱い頭が超最大級に弱い那賀龍神がだ。

で、本日は新しい教員、那賀龍神が生徒達と初対面をし、挨拶をすることになっているのだ。だから先程から那賀龍神は緊張から腹痛を訴えているのだが、私はそれに対し黙っていることにした。

「だいたい、てめぇがちゃんとここが学校だって言えば、俺が困る事がなかったんだよ」

「だから、私は何度も忠告しようとしました」

このやり取りは昨日から朝の七時半現在まで、三十七回目であり、私の思考回路もうんざりしていた。

その時、那賀龍神の部屋の扉からノック音がした。

「那賀先生、準備はよろしいですか?」

扉の向こうの声は日下部弥生だった。日下部弥生は那賀龍神と同い年であり、私の知る限りかなりの美女である。職業は那賀龍神と同じ教員であり、この学校の校長でもある。

彼女は今まで一人で校長業務、教師業務、生徒達の世話をしていたのだ。

「大丈夫です。今、行きます」

那賀龍神はそう答え、扉を開けて互いに挨拶をした。

「昨日はよく寝れましたか?」

「あまり……」

「緊張してますね。生徒達も緊張してますよ、ふふふ……」

日下部弥生は那賀龍神に頬笑むと、那賀龍神は照れた表情を見せた。どうやら、この人は日下部弥生に気があるらしい……

私には解る。那賀龍神とは、彼が十歳の子供の頃からの付き合いだ。那賀龍神のタイプの女性も何もかも知っている。間違いなく那賀龍神は日下部弥生に気がある。

「さあ、行きましょう。三階の教室に生徒達が待ってますよ」

日下部弥生は那賀龍神を誘い、エレベーターへと招いた。

「生徒の数は何人ですか?」

「三十人よ。男子十五、女子十五。最近まで男子が一人多かったけど、昨日会ったキアトくんと入れ代わるように転校していったの」

そう話しているうちにエレベーターは三階へと到着し、ドアーは開かれた。

目の前には洋室のような扉があり、那賀龍神はその場で深呼吸をした。緊張しているのが私にも理解できた。腹を擦っているのを見ると、本当に腹が痛いようだ。

そんな那賀龍神を見て、日下部弥生は微笑み、そして扉を開けた。

扉の先には三十人の幼い児童が、一斉に那賀龍神を見つめていた。

那賀龍神は子供達を見ると一瞬だけ固まったが、すぐに笑顔を見せた。この笑顔は何年振りの笑顔だ。少なくともこの笑顔は本物だ。まさか那賀龍神が心の底から微笑んでいる。私は正直に驚いた。

日下部弥生の後ろに那賀龍神は付き、教壇の前に立った。

「みなさん、おはようございます!」

『おはようございます!』

日下部弥生の挨拶に児童達が一斉に挨拶をした。人工知能の私にも子供達の心の清らかさが解る。

「今日はみなさんに新しい先生を紹介します」

日下部弥生の発言に那賀龍神は前へと一歩、踏み出した。

「那賀先生です。みなさんよろしくね」

「な、那賀龍神です。みなさん、よ、よろしくお願い、いたします」

那賀龍神は言葉を噛みながらも児童達に自己紹介をした。

『よろしくお願いします!』

生徒達が屈託のない笑顔で答えると、那賀龍神は再びいつも見せないような爽やかな笑顔を見せた。

この理不尽大王が、子供達を見て心から微笑んでいる。この人にも人の心があったのか……

「那賀先生がね、私達の事が可愛いんだって」

突然、一人の少女が口を挟むと、女子児童中心に喜びに騒ぎ始めた。突然の事に那賀龍神は少女を不思議そうに見つめた。

「彼女は神代ひろなちゃん。相手が思った事を読みとれる能力の持ち主なのよ」

日下部弥生が那賀龍神の無言の疑問に答えた。

「……ああ、そうだよ。みんな可愛いぜ」

那賀龍神の言葉に三十人の児童が更に喜び騒ぐ。

そんな中、一人の少女が立ちあがり、那賀龍神の元に来て裾を引っ張った。

「どうしたの?まゆちゃん……」

日下部弥生が少女の視線まで落とすと、少女は恥ずかしそうに、はにかみながら一言呟いた。

「おトイレ連れてって……」

少女の言葉に那賀龍神は目元を細めながら、「行こっか」と答えた。那賀龍神のあの微笑ましい表情は今まで見たことがない。私の知っている那賀龍神とは違う。

那賀龍神は少女と共に教室から出ていった。

それにしても、この学校の生徒、間違いない。全員が能力者だ。しかもあちらの世界から強制召喚された、言って見ればアースストライダーの候補生と言ったところか……

那賀龍神よ、頭の良し悪しは別として、彼が昨日言ったようにこの場所は天職なのかもしれない。

ただ、あのお方が那賀龍神の邪魔をしなければ……

そう、那賀龍神の元の婚約者である…………

杉並優菜様が…………

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