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第1章〔地球編〕

past9 守りたいから……

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那賀龍神は自身の能力を開放し、三十人の幼い児童達の前に立ち尽くしていた。

私、アースフィールは相棒の那賀龍神の前に立ち、動きを警戒している。

全身に龍を宿した那賀龍神の能力は龍人変化能力。私の知る限り、米国四騎士アメリカンナイトフォーの四人に匹敵、否、それ以上の能力の持主。那賀龍神は世界一の能力者だと私自身が思考している。

そんな状態の彼は事もあろうか幼い児童達の前で禍禍しい姿に変貌している。あり得ない現場だ。

「龍神さま、すぐに元の姿に戻ってください」

私は那賀龍神に忠告する。

「黙っていろ!」

那賀龍神が一言発すると、児童達が怯え泣き出す。

「貴方の能力は危険性大です。すぐに変身を解いてください」

「お前ら、俺が怖いのか?俺はヒロヤのように変身する。テル、お前の言うとおり変身して悪者になったかもしれねぇぞ!おら、やっつけねえのか?」

那賀龍神、何をたかが子供のいじめに本気になっている?児童達が震えている。こんな指導は完全に間違っている。

「何もプラスにはなりません!」

私は那賀龍神に対しそう答え、那賀龍神に突進し、子供達から遠ざける為、上空へと那賀龍神を突き飛ばした。

「てめぇ、邪魔するんじゃねぇ!」

「残念ですが、子供達の身の安全を考え、貴方を葬ります」

上空で制止した那賀龍神に対し、私は死刑執行者となり那賀龍神に対し宣告した。

「勘違いするんじゃねぇ!俺は……」

私は那賀龍神の言い分を無視した。

私の赤く輝くボディーがそれぞれの箇所で動き出す。両脚は真っ直ぐに胸部の外部が二つに分離し、両腕となり、不死鳥デザインの頭部が二つに分かれ中から別の頭部が出る。二対の翼が背中で折り畳む。

これが私、アースフィールの対戦闘用ヒューマンモデルである。

「ちっ、ポンコツ……」

那賀龍神は私の変型に身構えると、私は那賀龍神に向かって突進した。

那賀龍神と私の右拳がそれぞれの左頬に炸裂する。それが合図のように、空中でそれぞれの四肢を使い攻撃し、那賀龍神が翼を羽ばたかせ後退する。

「上等だ!ポンコツ、スクラップにしてやるぜ」

「その前に貴方共々、自爆します」

ダイヤモンドと同等の強度を持つ私のボディーの至る所が凹んだり、亀裂もある。それほどに那賀龍神の龍人変化能力の威力は桁違いだ。

果たして私の自爆攻撃で、那賀龍神は本当に死滅するのか、懸念だがやるしかない。

下を見れば、子供達が怯えながらも私と那賀龍神の戦局を見ている。そして……

『降りて来なさい!!那賀先生!!』

大きな機械音が突然、鳴り響き、那賀龍神は一瞬だけビクッとし、地上を見た。

地上には廻りの生徒の中心に茶色い機械的でWEGSに似たメガホンを持った日下部弥生が立っている。

明らかに怒った表情だ。

「弥生先生……」

「いいから早く降りて来なさい!!」

那賀龍神の言葉を日下部弥生が制止した。威圧感を感じたのか、那賀龍神は静かに降りて行く。

どうやら最悪の戦局は間逃れたようだ。

那賀龍神が日下部弥生の前に立つ。生徒達も廻りを囲む。

機械的なメガホンがいきなり変形し、あっという間に栗鼠リスのようなWEGSになり、日下部弥生の肩に乗り、頬ずりをしていた。間違いなく日下部弥生の相棒のWEGSだろう。

「変身を解除しなさい!」

日下部弥生が目の前に立つ那賀龍神を睨む。

那賀龍神は無言で龍人変化能力を解くと、日下部弥生がいきなり那賀龍神の頬に平手打ちをした。

「貴方はバカよ!なんで子供達の前であんな禍禍しい姿になったの?」

日下部弥生はそう怒鳴りながら那賀龍神を責めた。

「俺はただ、いじめを……」

「どんな理由であれ、貴方は生徒達を傷つけた!見なさい!生徒達を!」

日下部弥生は涙目になりながら、廻りの生徒達へ右手を振った。

三十人の児童は全員、涙を流し震えている。

那賀龍神はそんな状態の児童達を見て驚愕した。

「貴方は子供達に恐怖を与えた!いじめは確かにいけない!でも、もっと他のやり方があるでしょう!?」

日下部弥生は再び、那賀龍神に平手打ちをした。すでに彼女は涙を流していた。

「貴方が生徒達を可愛がり、大事にしているのは分かる。でも、私にとってもこの子達は大事だし大好きなんだよ!」

「……すいません……でした。俺が……間違って……ました」

那賀龍神は漸く自身のした無謀でバカな行動を反省した。

「今後はよく考えて行動します。でも、俺も弥生さんと同じようにコイツら大好きだし、コイツらを何があっても守りたいから……」

「……うん……、私と那賀先生で守っていきましょ」

日下部弥生の泣きながらも笑顔になる姿は、感情を持たない私にも、いたく関心した。

急にテルやノリヒコ、レットがヒロヤに向かって行く。

「ヒロヤ、おれ様達が悪かったよ」

「ごめんな」「もう二度といじめないよ」

「うん……」

三人のいじめっこがヒロヤに謝り、四人が手を繋ぐ。

「オレ、先生の変身恐くなかったもんね~」

キアトが涙を拭きながら笑顔で答えた。

「おれもこ、恐くなかったもんね~」

マシンもキアトに負けじと続く。

「ほう、俺の変身が恐くなかったのか?やるじゃねか……、だったらお前ら全員今からにらめっこ大会だ!」

那賀龍神の言葉に男子全員が何故か盛り上がった。

「男子ってバカよね~?」

「まゆも……そう思う……」

「あら、まゆちゃん私達気が合いそうね?」

「うん、まゆも、そう思う……」

ひろなとまゆがそう答えると女子全員が首肯き、哀れみの表情を見せた。

日下部弥生はそんな対照的な生徒達を見て、ほほ笑みを浮かべた。

那賀龍神の行いは過ちだったかもしれない。だが、彼は間違いなく生徒達全員に信頼されたようだ。

大好きで、何があっても守りたいの一言が、生徒達全員の心に響いたから……



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